22.鉄の天目
「……なぁ、大将。こりゃ何だ?」
「これは船、なのか?」
店舗の準備ができたと報告に来たオルゲイトとクロンガルダが、新しく造られた船を見て絶句している。
「おい、つか、え? 何で鉄の塊が浮くんだよ!?」
オルゲイトの言葉通り、この船は兼次鉄鉱によって覆われている。フォアシュピールと比べると少し角ばった形だが俺は満足している。
現実では戦国時代に存在したのでは、と言われる鉄甲船を模した船だ。インパクトは充分だろう。
「東方の兼次鉄鉱は水に浮くんだよ」
「いや、そういうことじゃなくてな。……あぁ、でも大将だしなぁ」
「そうだな。レンヤだからな」
団長コンビが俺だからという理由で色々納得している。そこまで非常識な存在ではないと思うが。
「そう言えばこの船の名前は?」
「天目だ。東方の神話に登場する製鉄の神の名前だ」
多分、天目一箇神のオマージュなんだろうなと思う。日本産のVRTRPGなので、こういう小ネタが隠れていてもおかしくはない。まぁそのことを知るのは俺だけなんだが。
「もしかしてコイツも魔法戦艦ってヤツか?」
「そうだ。ついでに新しい魔法使いも紹介しようか。おーい、ヒューイ!」
天目の上で法程式の確認をしていたヒューイは、俺の言葉を聞いてそのまま飛び降りてくる。
「ハーピー、か」
「何だ、苦手なのか?」
ヒューイを見たオルゲイトが何とも言えない表情を見せる。
「いや、前に話したグルファーって野郎がなぁ……なんつうか、その」
この男がここまで歯切れが悪いのは珍しい。どことなくヒューイを見て申し訳なさそうにしているように見える。
「ハーピー狩り?」
「ッ! ……まぁ、なんだ。確かに悪い人間もいる。けど、人間全員が悪いってワケじゃねえんだ。そこんとこは分かってほしい」
ヒューイの言葉に頭を下げるオルゲイト。自分がやってないにせよ、犯人は自分の国の重鎮だ。罪悪感があるのだろう。
「人攫いをやったりハーピーを狩ったり、好き勝手やってるみたいだな」
「本当に勘弁してほしいぜ」
予想以上にこたえた様子でオルゲイトは力なく言う。クロンガルダも表情こそ変わらないものの、少し疲れたように肩を竦める。
「それで、その娘が新しい魔法使いかな?」
「ボクはヒューイだよ。あと鎧のオジサン。ボクも人間全員が悪い人じゃないってことは分かってるよ」
「……そう言ってくれるだけでも助かるぜ、嬢ちゃん」
さて、色々積もる話もあるがそろそろ出航した方がいいだろう。シュトラウスへの挨拶も予め済ませているし、準備は万端だ。
「それじゃあ案内してもらおうか」
「おう、任せな!」
「現地でレオノールとティリアスが待っているからな。できるだけ早く向かうとしよう」
オルゲイトとクロンガルダがロックス海運の商船に乗ったのを確認した後、俺とヒューイも天目に乗り込む。
処女航海も終わらせてあるし、よほどのことがない限り問題も無いだろう。さて、新天地で頑張りますかね。
◆
「これより、第十三回二国間会議を始める」
クロンガルダの言葉にその他三人は頷く。だがちょっと待ってほしい。
「なぁ、ここってバルトルード商会の支店なんだよな?」
「当然だ。そのためにこの建物を造ったのだからな」
何か問題があるのか、とクロンガルダは続ける。
「こんなほぼ無人島の場所で商売しろと?」
ここはアズリア帝国とレストール群国の中間地点にある孤島だという。いやいや、ちょっと待てよ。この場所でどうやって顧客を確保しろってんだよ?
「アズリア帝国とレストール群国の二国に支店を置いちゃ大将の負担が半端じゃねえからな。まぁ安心しろや、顧客は俺たちだからよ」
「……つまり?」
何か急にイヤな予感がしてきた。お前たちが顧客って、まさか。
「端的に言えば、クーデターに加担してねってことだよ」
「最悪だお前ら!?」
確かにそんな気がしてたんだよ。この場所に連れてこられた時から薄々と!
「言っとくけどさ、ボクはお前らに協力なんてしたくないんだけど」
むすっとした顔で返すのはヒューイだ。ハーピー狩りの被害者としては南の人間に思うところがあるのだろう。恨みはないけど関わりたくは無いってところか。
「まぁ、そこのハーピーの嬢ちゃんの気持ちも……分かるとは言わんが、察することはできる。そりゃ良い感情はねえだろうさ」
「でも、腐った部分を切り取るためにはバルトルード商会の力が必要なのです」
「情けない話だが、好き勝手できる力が限られていてな。どうしても外部の協力者が欲しかったんだ」
「国家転覆に成功した暁にはアリフェレット王国へ降るつもりだしね。みんな王家に近付こうと血眼でさ。正直辟易してたんだよね」
オルゲイト、ティリアス、クロンガルダ、レオノールが疲れたように呟く。戦争による国力低下を省みない主導者によほど振り回されたと見える。
「……はぁ、もうお前らの話を請けちまった後だしな。今更ジタバタはしない」
「そう言ってくれると助かるよ。それじゃ、これ以上国力が落ちる前に国を滅ぼしちゃおうか」
レオノールの言葉を皮切りに第十三回二国間会議が幕を開けた。




