19.序列第二位の悪行
「ねえ、オルゲイト。いっそアリフェレット王国に亡命しちゃいましょうか」
「嬢ちゃん、そりゃシャレになってねえぞ」
「媚びるだけの無能がいないだけでこんなにも清々しい気分になれるんだね」
「それに関しては同感だ。宰相を名乗るブタの鳴き声にいい加減辟易していたところだ」
フォアシュピールの説明を簡単に終わらせ、今は本音を語る雑談タイムだ。港の近くにある料理店の個室で、海の幸を堪能している真っ最中だ。
魚介類と野菜をふんだんに使った鍋料理に四人は満足げだ。因みにここはバルトルード商会の傘下にあるため、事情を話したら快く個室に通してくれた。
「それにしてもアリフェレット王国の料理がここまで美味いとはなぁ。魚なんざ干すか焼くかしたもんしか食ったことねえよ」
「そう言えばここの料理の案を出したのもレンヤだったよな」
「そりゃ本当かよアスパー! 本当に色々できるんだな大将」
「いや、大将って……」
もうオルゲイトには何言っても無駄なんだろうな。しかし南方の二大国家のお偉いさんからここまで評価されるとは思っていなかったな。
アリフェレット海戦記を知っているからか、今保有している戦力が強大とはとても思えないんだよなぁ。魔法戦艦が一隻でもあるとやはり違うか。
「なぁ大将、それにアスパーよ。ちと聞きたいんだがな」
「どうしたオルゲイト?」
「レティっつう嬢ちゃんのことなんだがな。レストール群国から追放されたって言ってなかったか?」
「……黒甲冑。レティはバルトルード商会の奴隷だ。連れて行こうっていうのなら――」
剣呑な声でアスパーが忠告するが、オルゲイトはそんなんじゃねえよと手を振って否定する。
「半信半疑だったんだがな、あの嬢ちゃんを見て確信した。ありゃ二位の娘だな」
「二位? って、誰だよ?」
「グルファーって言う魔法使いだ。魔法の素養が低ければ肉親であろうとも縁を切るってことで有名だ」
「やっぱり貴族サマの魔法使いか」
やれやれ、と呆れたようにアスパーは言う。レティをごみだと断じた件の魔法使いに良い印象は抱けそうにないな。
「グルファー・リジット。最近じゃダークエルフの子供を誘拐して養子にしているっつう噂もあるな」
「ダークエルフか。なぁ、アスパー。エルフとダークエルフって仲悪いのか?」
「いや別に。奴隷になる前に旅してた時も普通にダークエルフの集落に寝泊まりしてたぜ」
よくあるファンタジー作品だとエルフとダークエルフは相容れない関係ってことが多いんだけどな。そういやアリフェレット海戦記の設定でも両者の関係について特に書いてなかったっけ。
「と言うかその貴族サマ。実の娘を捨てて何やってんだかなぁ」
「グルファーに人道を説いても無駄だぜ、アスパー。そんでその件のダークエルフなんだが」
「まだ何かあんのかよ?」
「金と銀のオッドアイだって話でな」
「――へぇ?」
オルゲイトの言葉を聞いた瞬間、アスパーの顔に壮絶な笑みが浮かんだ。一目見て相当な怒りをはらんでいると問答無用で理解させられた。
金と銀のオッドアイねぇ。何かエルフに縁深い設定があったっけ?
「どうしようもねぇクソ貴族だな、そいつは。"巫女"に手を出しやがったのか……。いや、待てよ。レストール群国付近にあるダークエルフの集落って言えば……」
「……あっ。草張の里か」
レストール群国に拠点を置いた際に、魔法使いを育成したり雇ったりできるダークエルフの隠れ里だ。アリフェレット海戦記では各国にそうした魔法使いに関する集落がある。
アリフェレット王国は露草郷、アズリア神州は神谷家と言った具合だ。
「と言うかアスパー。巫女って何だ?」
「あぁ、レンヤは詳しく知らないか。巫女ってのは森の神々に関する行事……所謂神事の際に神楽を舞う女性のことだ。巫女に選ばれる者はみんな金と銀のオッドアイを持つと言われている」
「それってエルフもか?」
「エルフもダークエルフも住む場所が違うってだけで文化は同じだ」
なるほどね。また一つ勉強になった。
「けど巫女を奪われた草張の里が泣き寝入りをするとは思えない」
「それに関しちゃ俺も知らん。グルファーが集落を焼いたって話もあるが証拠がねえし」
「なるほど、そのグルファーってのがイカれてるっつうのは理解できた」
「言うじゃねえかアスパー。あのクサレ魔法使いにゃこっちも迷惑しててな」
そしてまた自国の愚痴に話がそれていく。ダークエルフの巫女、か。それにレストール群国は魔法戦艦に目を付けたらしいし、もしかしたらフォアシュピールを再現してこっちに粉かけてくるかも知れないな。
レストール群国の評議会は五人の長によって運営されるというのがアリフェレット海戦記での設定だった。それはこの時代でも同じなのだろうか。
ティリアスが序列第五位と名乗っていたから最低でも五人。設定通りならティリアスが一番発言力が低いということになる。
「ほらほらレティちゃん。お口が汚れてるわよ」
「ん~。ありがとう、おねえちゃん」
ティリアスが御手拭でレティの口を優しく拭いている。こうして見ると本当に姉妹みたいだな。
「お前らは自分の国をどうしたいんだ?」
ふと気になったことをこの際聞いておくことにする。この国にスパイに来たのだって、要は何かを持ち帰りたいと思っての行動だろう。
それは魔法戦艦の技術か、それともこの国の情勢か。何でもいいが、それらを使ってこの四人はどこを目指しているのか。それが疑問なのだ。
「そうだね。まず僕はレストール群国と同盟を結ぼうと思っているよ」
「同盟?」
「そう。そしてバルトルード商会もこれに一枚噛んでもらいたい」
「おいおい」
国王直属とは言え、同盟に一枚噛むのはさすがに無茶だ。言ってしまえばたかが一商会に過ぎないのだ。国をどうこうするだけの力はない。
「そうですね。戦争が終わればアズリア帝国と同盟を結ぶのもいいでしょう。その前には評議会を解体しなければいけませんけど」
そしてレオノールの語る未来にティリアスも乗っかってきた。レストール群国は色々と面倒な部分があるからなぁ、個人の思惑通りにはいかないだろう。
「あわよくば評議会の一席にはレンヤさんに座ってもらいたいのですが」
「まてまて」
おかしい。レオノールもだけどティリアスもおかしいだろ。何で商会の下っ端を評議会の一席に座らせようとしてんだよ。
それに俺はバルトルード商会を離れるつもりなんぞ無いぞ。
「おい、お付役二人! 主人の暴走を止めろ」
「いや、俺も嬢ちゃんの意見には賛成なんだが」
「レンヤの立てた功績はそれだけ大きい、ということだ」
オルゲイトとクロンガルダは諦めろと言外に言ってきた。おいおいマジで勘弁してくれよ。
「後はそうだね。これは総帥にも話すつもりなんだけど……」
「まだ何かあるのか?」
「アズリア帝国とレストール群国にバルトルード商会の支店を置いてみないかい?」
もうどうにでもなれ。考えるのも面倒になってきた。商会に帰ったらシュトラウスとアーシスさんにバトンタッチしてもいいよな、この四人。




