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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Ep2:南方の二大国家
18/34

18.二国の要人

 商会の本部にある応接間に四人を通し、シュトラウスを呼んでくる。

 応接間の扉を開けたシュトラウスは長いため息をはいて俺を見た。うん、気持ちは分かる。でも俺は悪く……いや、全面的に俺が悪いな。口を滑らせた相手がマズかった。


「レンヤからロックス海運の紋章を持った四人組を連れて来た、とは聞いてたけど……それがアズリア帝国とレストール群国の要人とは思わなかったわ」

「……要人?」


 改めて四人組を見る。ロックス海運の関係者ではあるだろうが、でも要人? 一商会の代表者をして要人と表現するのは若干無理がある気がする。


「さすが総帥様だね。人を見る目は確かなようだ」

「一応、他国の主だった貴族の顔は覚えてるわよ。もちろん、王族もね」

「いや、参った参った。それじゃあ改めて自己紹介といこうかな」


 そう言ってレオノールが座ったまま一礼して続ける。


「アズリア帝国第二皇子レオノール・フィッツ・ジン・アズリアです」

「アズリア帝国所属海竜騎士団長クロンガルダ・フラミスだ」

「レストール群国所属亀甲騎士団長オルゲイト・ラウクルス」

「レストール群国評議会序列第五位ティリアス・イヴです」


 レオノールに続いてクロンガルダ、オルゲイト、ティリアスも物騒な肩書きを付け加えて名乗る。おい、おい!


「何で皇子がスパイやってんだよ……」

「おや、レンヤはあまり驚かないね」

「俺にも色々あるんだよ」


 この世界に来て早々に海姫に出会って一生分驚いたしなぁ、それに何だかんだ言いつつ王族と会うのは二度目だし。


「知っているかもしれないけれど、バルトルード商会総帥シュトラウス・フェン・バルトルードよ。こっちが私の右腕のレンヤ・イガラシ」

「どうも。……って、あれ、右腕?」

「……どうやら、あなたは自分のやったことに対する認識が甘いようね」


 シュトラウスに呆れられたが、俺としては何でそこまで俺をかってくれるのか分からない。

 首を傾げている間にシュトラウスは四人組に意識を向ける。


「聞きたいことは我が商会が保有する船に関してかしら?」

「おう、分かってんなら話ははえぇ。噂の船の詳細を聞きたくてなぁ!」

「オルゲイト。そんな率直に言ってしまったら……」

「いいじゃねえか嬢ちゃん。どうせ向こうは感づいてんだ。下手に隠しても無駄だろうさ」


 レストール群国の主従コンビが言い合っているが、傍から見れば親子が仲良く喋っているようにしか見えない。


「つか、お前ら敵国同士じゃないのか?」

「あんな頭がお粗末な愚帝と一緒にされたくはないね」

「そうです! 争いはいけません!」


 俺の疑問に喰いついたのはレオノールとティリアスだ。なるほど、一枚岩じゃねえってことか。


「アリフェレット王国の一商会として言わせてもらうと、他国の喧嘩は勝手にやってちょうだい。……としか言えないわね」

「魔法戦艦が目を付けられるのはある程度予想してたが、まさかここまで手が早いとはなぁ……」


 俺たちは揃って頭を抱える。


「まぁそんなワケでよ。とっとと戦争を終わらせて上の連中をぶっ殺さなくちゃなんねえんだ」

「そのためにイーギスの船団をも蹂躙したという船の情報がほしいんだ」


 騎士団長二人の言葉に思わず苦笑する。あれは船の性能で決着がついたわけじゃないんだけどね。


「その船の詳細ならレンヤに聞きなさい」


 シュトラウスが静かに言うと四人の視線が俺一人に集中する。完全に投げられた。どうやって誤魔化そうか。


「……どういう事かな?」

「どういう事も何も。あの船の設計は陛下だけど、それを形にしたのはそこにいるレンヤの功績よ。私は投資しかしてないわ」


 レオノールが信じられないとばかりに凝視してくる。他三人の反応も似たり寄ったりだ。


「因みにその後アズリア神州の貿易権限をもぎ取って、イーギス船団を返り討ちにしたのも全てレンヤよ。私は商い以外は深く関わってないのよ」

「……とんだバケモンだぜ、大将」

「す、すごいです! まるで御伽話の英雄みたい!」

「人は見かけによらない、ということか」

「なるほど。"右腕"と紹介するだけの功績は充分ありますね」


 オルゲイト、ティリアス、クロンガルダ、レオノールが順番に呟く。あれ、確かにそう考えればけっこうな功績があるな俺。


「レンヤは自分の功績が自覚できたかしら?」

「俺としちゃあ、シュトラウスの側にいるだけでいいからなぁ。正直、今まで考えたことも無かった」

「……まぁ、レンヤらしいと言えばらしいけれど」


 少し赤みがかった顔で肩を竦めるシュトラウス。あぁ、可愛いな。


「んで、大将! その船ってのは一体どういうモンなんだ?」

「そうだな。それなら実物を見ながら説明していくか。シュトラウス、ちょいと行ってくる」

「えぇ、行ってらっしゃい。魔法戦艦に関してはあなたに一任してるから」


 何とも心強い言葉と共に送り出された。よし、とにかく下手なことを言わないように気を付けないとな!



 港に停めてあるフォアシュピールを見せると四人は目に焼き付けるかのように注目している。


「こりゃあ……」

「予想以上に大きいね」

「横に大砲も付いてますね!」

「商会が保有していい船じゃないぞ、これ」


 各々感想を言ってもらったところで説明に入る。


「これがバルトルード商会の魔法戦艦フォアシュピールだ。最低限の水夫と、一名以上の魔法使いで動かしている」

「魔法使い、ですか?」


 ティリアスの問いに頷いて見せる。


「そう。この船には法程式を刻んであってな。魔法使いを乗せないとただの船だ」


 そしてただの船じゃ、近海に住む魔物に対処できない。だから海路貿易のためにはそれらを撃退できるだけの武装が必要なのだ。

 アリフェレット海戦記であればエンカウントロールという特殊な判定があって、その結果によって襲撃してくる魔物が変わってたな。


「ただの商船じゃ魔物の餌食になるからな。それに魔法使いってのは日常生活でも便利なんだぞ」

「……興味本位で聞くが、バルトルード商会にいる魔法使いは何人いるんだ?」

「おっと、それは機密事項だ」


 そうペラペラと喋ってたまるか。クロンガルダも特に期待してなかったのか、気にしていない様子。


「横に備え付けてある大砲にも法程式が刻まれている。威力はイーギスの船団が身を持って証明してくれたよ」

「敵に回したくないね」

「お前らの物量で攻めて来られたらさすがに潰されるっての」


 この一隻じゃあ、アズリア帝国とレストール群国を相手取るのは無理だ。いくらなんでも手が足りない。

 さて、後は何を説明しようかなと考えて――。


「よう、レンヤ。何してんだ?」

「アスパー。それにレティも一緒か」


 タイミングが悪いな、おい。頼むから余計なことは言うなよ。本当に。切実に。


「あら可愛い。ねぇ、あなたのお名前は?」

「ふぇ? れ、レティです。えと、魔法使いです。えっと……」

「ごめんなさい。私はティリアスよ。同じ魔法使い同士、仲良くしましょう」


 レティに目を付けたティリアスが可愛いわとはしゃぎながら抱きしめる。と言うかティリアスも魔法使いだったのかよ。

 ふとオルゲイトを見ると、何故かレティに視線を合わせて動かそうとしない。レティはレティで、黒甲冑に睨まれて怖いのかティリアスの身体に自分の頭を埋めている。随分とティリアスに懐いたもんだな。


「オルゲイト。女の子の顔を不躾に見るものではありませんよ」

「いや、すまんすまん。随分と可愛らしい嬢ちゃんだと思ってなぁ」

「黒甲冑。レティに手を出すなら相応の覚悟をしてもらうぞ」


 アスパーがオルゲイトに笑いかけながら告げる。そこに軽薄さは一片もない。間違いなくアスパーは本気だった。


「だから悪かったって。そういうあんたはこの嬢ちゃんの保護者かい?」

「保護者兼師匠だ。名前はアスパー・シガレット」

「俺はオルゲイト・ラウクルスだ。よろしくなアスパー!」


 あれ、これはもしかして……。


「へぇ。レティはバルトルード商会の魔法使いなのですね」

「うん。師匠と一緒に頑張ってるの!」

「偉い偉い。その年で魔法が使えるなんて羨ましいわ」

「おねえちゃんも師匠に教わったら使えるよ?」


 もしかして、この二人がバルトルード商会の魔法使いってバレたんじゃ……。いや、これ確実にバレたな、うん。

 あんまりコイツらに情報を渡したくなかったのになぁ。一人でうんうん悩んでるとアスパーが怪訝そうに聞いてきた。


「おい、レンヤ。こいつら一体誰だ?」

「南の国のスパイ」

「……どっちだ?」

「両方」

「何で敵国同士が仲良く一緒にいるんだ?」

「一枚岩じゃないってことだろ」


 厄介なことになってしまった。これを国に報告されたら標的をこっちに絞ってくる可能性もある。とは言えアズリア帝国とレストール群国の溝は深い。美味しいイチ抜けを許すはずがないだろう。

 今のところはお互いが抑止力として働くだろうが、こいつらの意見が通るようになってしまえば危うい。

 最悪アズリア帝国とレストール群国が手を組む可能性も出てくるのだ。あぁ、もう。頭痛い……。

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