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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Ep2:南方の二大国家
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16.第十二回二国間会議

 さて、北から離れてここは南。アズリア帝国とレストール群国が争い、侵略が日常的に行われている危険地帯だ。

 もう誰も戦争の引き金を覚えていない程、実に永い間戦争が続いている。俺が上だと言わんばかりに攻撃は日々激化するばかり。


「これより、第十二回二国間会議を始める」


 ここはアズリア帝国とレストール群国の丁度中心地点にある孤島だ。この孤島は特に価値がないのでどちらの国も放置している。

 ゆえに、こうやって誰かと密会をするのに適している。国の目が届かないだけで、この孤島は何よりも価値がある。


「司会はいつも通り俺とオルゲイトで行う」


 今、この島にいるのは四人だけだ。

 アズリア帝国側は海竜将軍クロンガルダ・フラミス、第二皇子レオノール・フィッツ・ジン・アズリア。

 レストール群国側は亀甲将軍オルゲイト・ラウクルス、序列第五位ティリアス・イヴ。

 レストール群国は五つの集落の長で構成される評議会によって政治が行われる。表向きは平等だが、実際は序列が発言力に直結するのだ。

 ティリアスは序列第五位、つまり発言力は最低であり居ても居なくても変わらないという扱いだ。


「んじゃ、まずは定期報告だ。レオ坊、何かあるか?」

「こっちは愚帝が自国の生産ラインを圧迫して、新兵器開発に着手し始めたくらいかな」

「新兵器、ですか?」


 こてん、と小さな首を傾げるティリアス。彼女は妖精族であるため、成人しても人間の五歳児くらいの身長しかない。

 しかも今はオルゲイトの肩に乗っているので、さながらオルゲイトの娘だ。


「北のアリフェレット王国が、ヴァンパイアとマーメイドを取り込んだと噂になってましてね。ならばこちらも魔物を取り込もうと隷属化させる魔法道具をね」

「んなことできるか?」

「十中八九、無理だろう」


 オルゲイトの疑問にクロンガルダが断言する。魔物は人間がどうこうして隷属させれるような存在ではない。

 アズリア帝国の海竜騎士ドラゴンナイトが使役するリヴァイアサンも、幼いころからの刷り込みでようやく"お願い"を聞いてもらえるのだ。

 ましてや野生の成体個体を支配するなど到底できない。それは亀甲騎士タイマイナイトの長であるオルゲイトも概ね予想通りだ。

 亀甲騎士タイマイナイトが使役しているダマスカスタイマイは、性格こそ大人しいもののやはりこちらも幼いころからの刷り込みによって"お願い"を聞いてもらう事に変わりは無い。


「そんな無駄なことを推し進めて国庫も残り少なくなっているからね。こっちは気が気じゃないね」

「じゃあ、次はそっちの姫さんか」


 クロンガルダがレストール群国側に報告を求めると、ティリアスはやや緊張した面持ちで言う。


「序列第二位のグルファーが、新しい船の開発に成功したらしいです」

「新しい船、かい?」

「はい。アリフェレット王国の所有する船を模したと聞きました」

「そっちもアリフェレット王国に影響を受けてるのかよ……」


 無理もないかと四人はため息をつく。今まで大したことがないと思われていたアリフェレット王国が、瞬く間に北方四国を纏め上げてしまったのだ。

 いまやアリフェレットのバルトルード商会無しでは北方は回らないと言われている。


「シュトラウス・フェン・バルトルード、でしたか。彼女にそんな才能があったのですね」

「その功績があの嬢ちゃん一人で築き上げたってのは違和感があるぜ」

「まぁ、どう考えても一人でやらかしたワケじゃないだろうな。特にイーギスの一件は協力者がいたと見るべきだ」

「……"奴隷女王"の名は伊達じゃなかったってことかな」


 有能な奴隷を見抜き、どれだけ高額であろうとも商会の予算から捻り出し、利益を叩きだす様を見た人々がシュトラウスをそう呼び始めたのはいつだったか。

 北方ではあまり知られていない二つ名だが、南方ではむしろシュトラウスという個人名よりも知れ渡っている。

 バルトルード商会は"奴隷女王"が束ねている。南方の人々は大体がこういう認識だった。


「それで、その新しい船というのは?」

「形は大きな長方形の箱で、一般的な船の見た目とは大きくかけ離れてますね」

「ただの長方形の箱、なのか?」

「はい。箱です」


 ただの長方形の箱を指して船とは何ともてきとうな。クロンガルダは小さく呟く。


「それで、その船は沈没するんです!」

「「は?」」

「ですから、勝手に沈没するんです!」


 すごいですよね、とティリアスは興奮しているがクロンガルダとレオノールは何も言えなかった。

 勝手に沈没する長方形の箱。それは船とすら言えない欠陥品じゃないのか。けれどティリアスの興奮ぶりを見ると沈没することが強みのように感じられる。

 どう言う事か、そんな思いを込めて二人はオルゲイトを見る。


「あ~、まぁ。ウチの嬢ちゃんが説明不足なのは謝る。つまり、その船は潜るんだよ」

「……潜る?」

「そうだ。潜って海の底を進む船なんだよ」


 付け足された説明にようやく納得する二人。海底を進む船。今までそんな船なんて見たことも聞いたこともない。ティリアスが興奮するのも頷けると言うものだ。

 報告された情報を纏めて、クロンガルダは言う。


「つまり、どっちもアリフェレット王国に火をつけられたと見ていいな」

「愚帝は変なところに目を向けてるあたり、身内として恥ずかしい限りだけれどね」


 レオノールは力ない声で笑う。本気でそろそろ暗殺でもしてやろうかと黒い笑顔でブツブツ呟く様子に、レストール群国側の二人は軽く引いている。


「こっちは評議会が無くならない限りどうにもできませんし……」

「クーデターなら協力するぜ」

「そうだね、その時はお願いするよ」

「他に何か無いか?」


 そろそろ解散しようとクロンガルダが聞くと、ティアリスが小さく手を挙げる。


「あの。二国が火をつけられたというアリフェレット王国を一度見に行きませんか?」


 その発案に、他の三人は思わず黙り込んだ。


「……ふむ、予定をどうにか開ければ何とかなるか?」

「僕は特に政治に関わってないから問題ないね」

「俺は嬢ちゃんの護衛だからな。嬢ちゃんさえ何とかなるならいつでもいいぜ」


 しかし数瞬後には己の考えを纏める。答えとしては特に問題は無いだろうというものだった。

 確かに実際にアリフェレット王国を見てくるのは良い考えだと言える。あわよくばバルトルード商会に探りを入れてみるのもいいかも知れない。


「じゃあ出発は五日後でいかがですか? その時にまたここに集合ということで」

「そうだな。その間に船の手配をしておこう」


 こうして第十二回二国間会議は幕を閉じた。



 兼次鉄鉱の造船が中々進まない。シュトラウスは焦ることはないと言ってはいるが、俺としては気が気ではない。

 バルトルード商会の情報網から南の情勢が耳に入ってくるのだが、色々とアリフェレット王国に触発されたらしい。

 アズリア帝国は他種族を、レストール群国は魔法戦艦を。下手をすればフォアシュピールの優位性が崩れかねないのだ。

 この時代はまだアリフェレット海戦記時代に溢れかえっているレベルの魔法戦艦を造るだけの技術はないかも知れないが、楽観はできないだろうな。


「……ちょっと、外の空気でも吸ってくるかな」


 部屋の中でうんうん唸ってても物事が好転するわけではない。それにマーメイドの歌劇団のチケットも持ってるし、気晴らしには丁度いい。

 シュトラウスに一言告げて外に出る。実績を出してさえいれば割とその辺は自由だったりする。奴隷とは名ばかりだなと常々思う。

 商会の本部から外に出て、ちょっと市場覗いていると異様な四人組が目に映った。


「……何だありゃ?」


 黒い全身鎧の騎士に、その肩に乗る小さな女の子。軽くウェーブがかかったエメラルドグリーンの髪を弄っている様子は可愛いものがある。だからこそ、黒い甲冑の男が異質に見えてくるわけだが。

 その隣には俺のような黒髪を持った青年。東方の人かなと思ったが、目の色が透き通った青だったので多分違うと思う。東方の人間の特徴ってまんま日本人と同じだし。

 そして最後にフリルが多いゴシック調のドレスを着た"男"。間違いない、あれ男だわ。薄い水色みたいな――確か勿忘草色――髪を振り撒き、瑠璃色の瞳に白磁の肌を上品に晒していかにも令嬢っぽい雰囲気を出しているが、男だ。

 あれ、そう言えば男がドレスっぽい服を着ることがある国が一つ無かったか。それも南に。


「いやいやいや……でもなぁ」


 もしかしたらただのオカマかも知れない。けど、あの上品な物腰が凄く気になる。ただのオカマには醸し出せないほどの色気がある。顔はイケメンなのに、何でそんな女性みたいな魅力を感じてしまうのか。

 知らず知らずガン見していたようで、向こうの四人組が俺に気付いた。


「おう、そこの! ちょいといいか?」


 黒甲冑の男がやたらフレンドリーに話しかけてきた。何か堅物っぽいイメージだったんだが、どうやら違ったようだ。


「何ですか?」

「いやな、噂に名高いマーメイドの歌劇を見に来たんだが……ちと迷ってな」

「何と言ったかな、オル、グラン……?」

「オルケゾグラフィ、ですか?」

「そう、それだ!」


 オルケゾグラフィという名前が覚えにくいのか、黒髪の青年がつっかえてたので助け舟を出す。

 ただの観光者っぽいが、何と言うか本当に観光だけが目的なのか分からないな。イヤな予感をひしひしと感じてしょうがない。


「マーメイドさんってどうやって陸に上がるんでしょうね~?」

「あぁ、下半身が濡れていなければ人間の足に変化させることができるみたいですよ」

「そうなんですか!?」


 初めて知りました、と黒甲冑の男の肩に乗った少女が興奮している。やはりマーメイドに関することはあまり知られていないようだ。


「あぁ、そろそろ開演時間が近いですね。よければ案内しますよ。丁度俺も行こうと思ってましたし」


 この四人組は何か臭う。厄介事とは言い切れないが、何かしらの裏があると睨んでいる。こんな目立つ格好をしてスパイ活動中ですなんてことは無いと信じたいが、なにせ色々と現代の常識が通じない世界だ。

 案外この恰好がスパイ活動に適していると本気で考えてる可能性も否定できない。ただの観光客であれば問題ない。けれどもしも俺の予想が的中すれば面倒なことになるだろう。

 鬼が出るか、蛇が出るか。余所行きの笑顔を貼りつけて、オルケゾグラフィのステージへと案内するのだった。

ここから先は以前と展開がガラリと変わります。前の展開のままだともうメチャクチャな話になってしまい、どうやっても続かなかったというのが理由です。

ほぼ一年間修正に手間取りましたが、これからは不定期ながら更新を再開したいと思います。

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