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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Ep1:北方四国貿易網
15/34

15.虐殺

 イーギス属国に着いた途端、二人の人影がフォアシュピールの前まで来た。おそらく、セレスの仲間である宰相とアインハルト公爵だろうか。


「お待ちしておりました。まさか、早々に来るとは思いませんでしたが」


 燕尾服を着た、白髪が混じった黒髪のオールバックなナイスガイが丁寧な言葉で出迎えてくれた。

 もう一人はフードを被り、杖をついた猫背の老人。白い顎鬚が胸まで届いている。


「私はこの国の宰相をしておりました、エミル・フラミスです。それでこちらが……」

「アインハルトじゃ」


 オールバックがやたらと似合う燕尾服の人が宰相のエミルさんで、フードを被った爺さんがアインハルト卿、と。

 俺とアスパーも自己紹介をして、握手を交わす。


「この方たちはわたしと同じく、魔の血を濃く受け継いだ者なのです。わたしはリビングデッド、宰相はヴァンパイア、アインハルト卿はリッチです」

「……随分と個性的だな」


 アスパーの絞り出したような言葉に、アインハルトさんはかっかと笑う。


「個性的か。確かに、確かに。しかし我々が魔物だと告白しても構えもせんのだな」

「オニキスとやらを倒す前からいがみ合っても仕方ないだろ」

「かっかっか、おいエミルよ。こやつらはまこと面白いのぅ」

「はぁ、またアインハルト卿の悪癖が……」


 未だ笑うアインハルト卿に肩を落として憂鬱そうにため息を吐くエミル。セレスはいつもの事とばかりに我関せずを貫く始末。


「して、あのボンクラをどうするつもりじゃ。人心はあやつに傾いてしまっておるぞ?」

「それは民も?」

「いや、民は上がどうなろうと知ったこっちゃなかろうよ。だが、政の大半がヤツの派閥であってな……このままでは国が機能せんわい」


 いくら不死でも限度がある、とアインハルト卿は言う。エミルさんも同意見なのか頷いている。

 と言うか本当に手綱を握れてなかったのか。まぁ、数で押されちゃ握る暇も無かったか。話を聞く限りかなりの野心家らしいし。


「そういう事なら心配ない」

「……? それはどう言う……」

「簡単な事だ。このイーギス属国をアリフェレット王国が呑み込んでしまえばいい」


 俺の言葉にさすがに抵抗があるのか、アインハルト卿以外の二人が厳しい顔をして俺を睨んでくる。だが、残念ながらこいつらに拒否権というものはない。


「どっちにしろアリフェレット王国はオニキスを殺すつもりだぞ? 攻められたんだから迎撃する。何もおかしくないだろう」

「しかし、イーギスが無くなるなど……!」

「じゃあお前たちが死ぬか?」


 今度こそ黙り込む二人。不死だから死なないという話じゃない。これ以上何かを言うつもりなら監禁でも生き埋めでも、こいつらの声が届かない場所に連れて行けばいい。

 それこそリリアのいる叫喚の一族の島に引き取ってもらうというのも手だ。元々仲間だったらしいし、リリアも雑には扱わないだろう。


「アリフェレットに本格的に降ると言うなら、足りない人員はアリフェレットから派遣してもらう事になる。さぁ、どうする?」

「かっかっか。この際迷うこともあるまいて」

「アインハルト卿!」

「エミルよ。領地が無くなるわけではないのだ。名を奪われようとも、今まで通りアリフェレット王国に従い、国を豊かにしていくだけよ」


 最初こそ声を荒げたエミルさんだったが、アインハルト卿に諭されて反論が無くなった。セレスは既にアインハルト卿の案に乗ることに決めた様子だ。


「だがレンヤよ。もしも我らを騙そうと言うのであれば、覚悟してもらうぞ?」

「騙すも何も、国ですらないところを詐欺にかけて何を得しろっていうんだよ」

「かっかっか、違いない。わしも言ってみただけじゃ」


 言ってみただけ、と言いながらもキッチリ釘を刺してきた時点で、この国に並々ならぬ感情を抱いていることが覗えた。

 なら俺もこの三人を信じてみてもいいかも知れないな。


「それじゃあ先ずは……」


 そして俺たちは始める。オニキスを絞り出し、根本から変えるための策謀を。



 気が付くと既に夜だった。くそ、忌々しい魔物めが。既にヤツらの姿は無い。ふん、最初から時間稼ぎだったか。


「おい、異常はないな?」

「はい! 問題ありません」

「よし、行くぞ!!」

「お、お待ちください、オニキス卿!」


 俺が指示を出した途端、兵の一人が声を上げた。


「どうした?」

「し、食糧がありません! このままでは士気が下がってしまいます!」

「くそ! どこまでも小賢しい魔物め!!」


 俺たちが意識を飛ばしている間に運び出したか。次に会えば真っ先に殺してくれるわ。

 それよりも食糧だ。このまま侵攻したとしても、すぐには食糧が補給できるほどの体制は整えられまい。

 奪うにしても抵抗でもされればいたずらに兵を消耗しかねない、か。ならば一旦イーギスに戻るとしよう。

 どうせアリフェレットなぞ、いつでも潰せるのだからな。


「進路変更! イーギスへ戻れ!」


 まったく余計な時間を使わせてくれる。まぁいい。どうせ我らの勝利は揺るがんのだからな。



 元イーギス属国の寄港都市アヴェルから、イーギス艦隊が見えた。既に夜になっているが、光の魔法でも使っているのか、その全貌が丸見えだった。

 本当に警戒心のかけらも感じられないな。まぁ、その方がこっちもやり易い。


「運び終わったか?」

「おう。フォアシュピールの魔法カノン二十五門、全部港に運んだぜ」


 "炎弾"の法程式が刻まれたフォアシュピールの大砲だ。まだ試作段階ではあるものの、威力は申し分ない。いや、それよりも。


「おいおい、全部を使えるほど魔法使いはいないぞ?」


 アスパーの報告に俺は思わず眉を顰める。おかしいな、コイツは俺と違ってそんなしょうもないミスはしないヤツなんだが。

 そう考えてると、後から来たアインハルトが笑いながら言う。


「かっかっか、若造めが。伊達にリッチを名乗っとるワケではないんじゃぞ? これくらいの大砲なぞ、ワシ一人でいくらでも使えるわ」

「……ハリキリ過ぎてポックリ逝くなよ?」

「ふん、言いおるわい!」


 いや本当に成仏とかやめてくれよ。何かこの爺さん、あまりに気配が弱弱しいから今にも死にそうで怖い。

 悔いは無いぞ云々とか言って光の粒になって消えていきそうだ。半分冗談だが。


「そろそろ射程範囲内だな」


 アスパーの言葉に俺は無言で頷く。さて、歓迎させてもらおうか。俺はアスパーとアインハルト卿に指示を出す。


「これからイーギス船団を殲滅する! 魔法カノン、撃てぇっ!!」


 刹那、並べられた魔法カノンが文字通り火を噴いた。その威力はこの時代の船じゃまず耐えきれないだろう。

 それこそインパニスのアリスピュアでも無い限り、無傷で受けきることは不可能だ。


「悪いな、オニキスとやら。アリフェレットを侮った時点でお前の負けは決まってるよ」


 ここからは戦じゃない。一方的な虐殺だ。



 俺は夢でも見ているのか。次々と我が艦隊が沈んでいく。バカな、イーギス屈指の船団がこんなにもあっさり……?

 いや、それよりも。何故、イーギスが我らを攻撃しているのだ!?


「くそ、何がどうなっているッ!!」


 轟音と共に、また一隻沈む。焼け爛れた人間もろとも、暗い海へ吸い込まれていく。

 だが、この船の魔法使いではここからイーギスまで届かない。それに、これだけ混乱していては魔法も放てまい。

 

「こんなところで終わってなるものか!!」


 私は、アリフェレットを侵攻せねばならんのだ。こんな場所で躓いていいワケがない!

 操舵手と漕ぎ手に命じて全速力でイーギスまで突き進ませる。とにかく私だけでも生き延びなければ……!

 その考えは、傾く船と燃え盛る炎で完全に砕かれた。


「がああああぁぁぁっ!!?」


 熱い、熱い、アツイ、アツイ!!

 船が燃え、身体が燃える。執拗に肌を舐める火は衰えを知らず、俺は海へと無意識に飛び込んでいた。

 これで火も消えるだろう。安堵していると直後に近くの船に炎が直撃した。


「え?」


 最期の目に映ったのは、燃え盛りながらこちらへ傾いてくる一隻の船だった。



「壮絶じゃな」

「この世の光景とは思えませんね。……これは、地獄だ」


 アインハルトとエミルは目の前の光景を見て、顔を顰めている。

 阿鼻叫喚と炎と轟音の宴はまだまだ続く。このイーギス艦隊の悉くが潰えるまで。


「とにかくこれでここもアリフェレット王国領だ。領主はほぼセレスで決まりだろうが、国王から発表があるだろう」

「……これはあなたの独断なのですか?」


 エミルの質問に俺は間髪入れず肯定する。もともとイーギス船団に関してはバルトルード商会に一任すると言っていたし、そのバルトルード商会の代表たるシュトラウスも俺に任せると言ってくれた。

 完全に独断か、と言われれば微妙だが、それでも俺は肯定する。


「俺の……いや、俺たちとシュトラウスの目標のためなら何だってやるさ」

「随分とそのシュトラウスとやらに惚れ込んどるの」


 アインハルト卿が茶化すように言うが、そんなモンじゃないさ。

 俺がこの世界へ染まるための道であり、シュトラウスの望む高みでもある。

 レミニス海の頂点へ。そのための前哨戦でしかない。

 全ては南の二大国家へ対抗するために。手に入る力は全て手に入れてみせる。

 強欲だなんだと勝手に言えばいい。後ろ指をさされる覚悟など、俺は既にできてるさ。


「さぁ、辛気臭い話はここまでだ! 新しく始めるんだろ?」

「えぇ。ご助力、感謝します」

「元々恭順派ですからね。王国領になろうとも、反対はしませんよ。……ただまぁ、納得はしたくありませんがね」


 長い間イーギスのために骨を折ってたであろう宰相は力なく笑う。これも時代の流れだと納得するにはまだ時間がかかるだろう。

 さて、これでもう後顧の憂いは無くなった。崩れゆくイーギス船団を視界に入れながら俺は口角を吊り上げる。

 北方四国、その貿易網が完成したのだ。ここまで来れば後は突き進むまでだ!


「シュトラウスに見せてやらないとな。レミニス海の頂点ってやつを」


 赤く燃える海に、俺は改めて決意する。

 世界に染まれ。そう言い聞かせるように。

とりあえず、色々と矛盾点が出てきたのでプチプチと目立つ部分を潰しつつリメイクです。

そしてアズリア帝国視点の話は新しく書き直してます。

多少、まだ矛盾はありますが目を瞑っていただければ幸いです。

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