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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Ep1:北方四国貿易網
13/34

13.マーメイド歌劇団オルケゾグラフィ

 イーギス属国の戦艦が北の方で確認された。時間的にも丁度いい頃合いか。それに向こうは進軍を隠そうともしていない。そんなんじゃ、どの道戦じゃ長生きできないな。

 反アリフェレット勢力の筆頭が誰かはまだ分からんが、ロクなヤツでもあるまい。


「腐っても船の数だけはこっちの百倍だ。どう足掻いても普通じゃ勝てない」

「今更んなこと言われてもなぁ」


 フォアシュピールの甲板上でぼやく男二人。当然俺とアスパーだ。レティは商会でお留守番である。

 さて、一応攻撃魔法の法程式を刻んだ兵装はあるもののアスパー一人じゃカバーしきれるわけがない。

 しかし魔法の才能が無ければ刻んだ法程式は発動できない。

 他国に援軍を要請するのも現状では悪手だ。まだ地盤の緩いアリフェレット王国が弱みを見せれば、いらん欲を刺激するだろう。

 それでも滅亡するよりは、とも考えたがアズリア神州の出方一つでアリフェレットの利益が貪られる可能性を考慮すればいっそ滅亡の方が幸せかもしれない。


「今回のフォアシュピールは逃げに徹する」

「は?」

「何も海戦だけが戦じゃないさ」


 奇策、奇襲でも百倍の戦力差はどうにも揺るがすことはできない。けれど、何も海戦で勝てなきゃダメだなんて聞いてない。それならいっそ逃げてしまおうってワケだ。


「囮にはマーメイドの歌劇団を使う。漁船を拝借して、彼女たちをイーギス艦隊へぶつける」


 漁船が壊れたとしてもマーメイドは元々海の種族だ。普通の人間よりも生存確率はある。

 アスパーは不安げな顔だが、コイツは一つ忘れている。


「今までマーメイド諸島を渡れなかったのは何故か、イーギス艦隊が教えてくれるだろうさ」


 俺の言葉を聞き、アスパーはあぁ、と納得顔。そもそもマーメイドが弱いならマーメイド諸島を強引に突破できたヤツもいる筈なのだ。

 それがいない。という事は、彼女たちは彼女たちなりの自衛の手段があるという事だ。


「さぁ、納得したんなら船を動かしてくれ。この戦、楽に勝てるから」


 今まで大きい戦力差のあるプレイヤーの商会や軍を解散させてきた俺の手腕をナメてもらっては困る。これでもアリフェレット海戦記では負け無しというのが俺の密かな自慢だ。

 大丈夫だ、勝てる。勝つさ。この世界に染まれ。初めて踏み入れた時から胸に刻み続けた誓いを裏切らないためにも!


「……やれやれ、ここまで来たら俺も腹ぁ括るか! 俺の命、預けるぜ艦長ッ!!」

「おう、任せとけ! 絶対に損はさせねぇよ!」


 俺たちは拳を突き合わせて少し笑った後、奴隷たちに出航の命令を送る。

 この戦争は長引かせてはならない。その分だけ南に隙を作ることになる。この一回の出航で勝敗を決める。

 相手は国とは言え、こちらをナメきってるただの集団だ。恐れることは無い。


「さぁて、頼んだぜエナ」


 マーメイドの長の名を呟いた後は、頭の中にイーギス属国を降伏させる術を思い描いていく。



「オニキス卿、前方に漁船が! その数五十!」

「構わん、突っ切れ! アリフェレットのクズ共を根絶やしにせよ!」

「いえ、それが……。漁船に人影がありません!」


 見張り台の困惑した報告に眉を顰める。漁船に人影が無い。確かにそう言った。

 この艦隊に恐れをなして泳いで逃げたか。何とも腑抜けな。最早殺す価値もあるかどうかも分からんな。

 そう考えていると突然後方から水柱が上がる。


「オ、オニキス卿! 今の水柱で後方三隻の船が転覆した模様!」

「何だと!? アリフェレットの魔法か?」

「不明です!」


 役立たずめ、それでもこのジェラルドに仕える兵か。それではこの俺が直々に確認してやろうではないか。

 アリフェレットの脆弱な魔法で沈みおって、イーギスの面汚しどもが。


「こんにちは。いい天気ですね、オジサマ」

「……貴様、魔物か!」


 上半身は美しい女だが、下半身が魚の異形の者。それが俺の船の近くで嘲笑わらっていた。

 魔物の分際でこの選ばれた貴族である俺を侮辱するか!


「魔物、ねぇ……。アリフェレットの人間を知って少しは見直し始めたのだけど――やっぱり居るものね、ゴミって」

「貴様あああぁぁっ!!」


 もう我慢ならん! この無礼な魔物を討伐せよと兵たちに命令を送る。しかし、誰一人としてその場から動こうとはしない。

 よくよく兵たちの目を見れば濁りきっていて、どこを見ているのかすらも分からない状態だった。何だこれは。この魔物は一体兵たちに何をした!?


「ようこそ、マーメイド歌劇団"オルケゾグラフィ"へ。私の名はエナ・バルトルード。我が字を賜りし主、シュトラウス・フェン・バルトルードの命によりあなた達をこれ以上踏み込ませるわけには参りません」


 まるで今から開演とでも言いたげに、魔物は恭しく一礼する。その仕草が何とも不気味で知らず背筋が冷えて固まる。

 そしてこの艦隊を包囲するように、次々と同じ種族の魔物が海から姿を現す。


「人影のない漁船を不思議に思い、停まった時点であなた達の負けは確定しています。我がマーメイドの歌と踊りに魅了されて下さい。文字通り、骨になるまで戯れましょう?」


 妖艶な声と共に私の意識は深く沈んでいった。何故、こんな魔物がアリフェレットに……。

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