追想
銀色の髪をきっちりと結い上げた女性は、再び宿から旅立っていった黒髪の青年を見送っていた。
その後ろ姿を見送った後、クロエ・ダールはぼんやりと、昔のことを思い出す。
四年前のあの日。
黒く長い艶やかな髪と、ティナと同じ深い緑色の瞳を持った少女が、目の前に現れたとき、あの時ほど、運命を呪った日はなかった。
事情を知らないレオの前では平静さを保ち、そして、彼女は向こうから部屋を訪ねてきた。
ルフレ・ルミエハと名乗る彼女は、ストレートに尋ねてきたのだ。
レオは、ヴェントス家の生き残りではないかと。
だから尋ねたのだ。
そういう自分自身もまた、ヴェントス家の生き残りだとは思わないかと。
そしたら、彼女は頷いた。
そして、ミドルネームはレンティシアだと言った。
あの時の衝撃は今でも忘れない。
何の因果か、彼女は正しいミドルネームを持って、あの日まで過ごしてきたのだった。
思わずクロエは声に出していた。
「どうして、あと三日……」
ティナはどうしてあと三日を生きれなかったのだろうか。
炎の一夜から十四年間、一日たりとも忘れたことのなかった娘を。
最期の瞬間、息子のシェードという名だけではなく、かすかにだが、しっかりと、レンティシアの名も呼んでいたのだ。
どうして母娘は再会できなかったのか。
クロエは泣いてしまっていた。
ルフレは泣かなかったのに、クロエには耐えられなかった。
たった三日で、ティナは最愛の娘をもう一度その手に抱くことができたのに。
たとえその瞬間に力尽きたとしても、彼女は笑顔でこの世を去っただろうに。
最期に生きてと願った母親の願いは、確かに叶ったけれど、あまりにも残酷すぎる事実だった。
だからクロエは語ったのだ。
ティナがどれだけ娘を、レンティシアを愛していたか。
そして、炎の一夜のクロエが知りうる限りの真相を。
「……ありがとうございました。母さんが、私を愛してくれたという事実だけで、もう、幸せです」
そう言って笑った彼女を、思わず抱きしめていた。
ティナの代わりにはならないけれど、それでも、その想いが伝わるように。
そして、ふと思い出したのだ。
ティナがなくなる前日に、これだけは焼かずに残しておいてほしいと言った、ラピスラズが等間隔につけられた銀細工。
その一つ一つのラピスラズリには、よくみると文字が書いてあり、すべてをつなげて読めば、『ティナとリオルド・ヴェントス』と読めるようになっている。
文字数にあわせてラピスラズリがつけられているため、首飾りにしては鎖が長すぎるその銀細工は、リオルドが、レン・ヴェントスが、ケルドに行った際に、ラピスラズリの意味を聞いて、プロポーズのために製作したものだった。
それは、この世に一つしかない、二人の約束の証。
レオにいつか渡そうと思っていたが、これがミオ・ヴェントスの存在を証明するものになってほしいと思った。
だから、彼女に渡したのだ。
ただ単に、ティナの形見だと言って。
彼女はその時、まだルフレ・ルミエハとしてやるべきことがあると言っていた。
だから、本当のことを言って、それが自らの出自を証明する可能性があると知れば、受け取ってくれなくなるかと思ったのだ。
レオには最近、このことに関しても、炎の一夜についても話した。
「シェリア様、レン様……。お二人の子供たちは、今、精一杯、生きているようです。それぞれの、大切なもののために」
クロエには、祈ることしかできないのだ。
ただ、子供たちの未来に、幸あれと。
四章完結です!
この四章と終章のためにこのお話は
存在しているといっても過言ではないです。
おそらく四章を読むと、今までの話で、意外と情報だけは
前からでていたことがわかると思います。
ただ……この章はかけて満足ですが
ロイとレンティの絡みが0です……
終章はさすがにそんなことはないので、
このさまざまな恋が軸になっている
光の奔走を、しっかりと完結するまで
見守っていただければ幸いです。




