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光の奔走  作者: 如月あい
四章 光の策略
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闇と炎は覚悟を決める

「おはようございます」

 まだ開店前の店に、赤銅色の髪の少年は、ためらいなく入った。

「……その色は、もしかして、デュエル・オブスキィトさんですか?」

「アンナさん、ですね?」

 デュエルが確かめれば、アンナは頷いた。

「レンティに、聞きました」

「私も彼女から聞きましたよ。最近になってから、ですが」

「アンナさんは、知っているんですか? レンティが、何をしようとしているのか」

「そうですね。私は、きっと……誰より、真実を知っています。しかし、彼女の本当の意図は、私にも測り兼ねています」

「真実を、聞いても構いませんか?」

「レンティシアにはもう、話しましたからね。あなたにも話さないと、不公平でしょうね」

「不公平?」

「あの子は、その情報をもとに、動くんですよ。そしてそれは、きっとあなたのためになるようにという計算が存在する。だから、あなたも動いてあげてください。私が与えた情報を使って、彼女のために」

 








 短いふんわりとした金髪に、琥珀色の瞳の女性が、黒髪の青年に抱き着いた。

「おかえりなさい! 待ってたわ」

「ただいま。……シエル、話がある」

 ゆっくりと体を離しながら、深い藍色の瞳を、女性に向ける。

「シェード……何?」

 互いにミドルネームは小さな声で囁きながら、それでもいとおしそうに、その名を呼ぶ。

「決めたんだ、俺が、何者として、生きるのかを」

 ファリーナにはまだ、ほんのわずかにしか話していない。

 彼女が知っているのは、ただ、レオがヴェントス家の人間だと言うことだけだ。

「……ヴェントスとして、生きるのね?」

 何も言っていないのに、すべてお見通しだとばかりに、笑う彼女に、何も言えなくなった。

「だってわざわざ私に言うんだもの。ダールなら、そんな必要はないわ」

「ファリーナ……」

「……なあに、レオ?」

 今度はなれた呼び名で呼ぶ。

 その決意以外に、もう一つ、はっきりさせておくべきことがあった。

「俺がヴェントス家の人間として生きるとなると、ファリーナに紹介すべき人がいる」

「紹介?」

 ファリーナが不思議そうに首をかしげる。

 炎の一夜の舞台となった町ではないが、ここはヴェントス領なのだ。

 どこの住民よりも、その言葉の異様さを知っている。

「俺には、姉がいる。そして、それは、ファリーナも知ってる人だ」

「え……あ……。まさか!」

 驚きに見開かれた目は、いつしか納得の色を浮かべた。

「似てるだろ?」

「やっぱり、ルフレさんなのね?」

 レオがいたずらっぽく問えば、ファリーナは正解を口にする。

「正確には、ミオって名前だけどな」

「いつから? いつから知ってたの?」

「建国祭の時にはもう、分かってたよ」

「そんな……。私、バカらしい勘違いしてたんだね……」

 ファリーナが安堵と落胆をないまぜにしたような表情で、ため息をつく。

「さすがに姉に恋はしないな」

 冗談めかして言えば、ファリーナが疑わしげにこちらを見る。

「でも、知ったのは最近でしょう? それより前は?」

「……母さんに、ティナに似てるだろ? 俺には母親みたいな存在だったよ、あの人は」

 ファリーナは、今度は何も言えなくなったようだ。

 まだ、ティナの話題は、彼女の中で扱いきれないものなのだろう。

 レオ自身も、だいぶ受け入れたものの、おそらく、あの悲しみが薄れたのは、自分の姉の存在が大きいと思っている。

「呼べるかな?」

「え?」

「姉さんって……、あの人のこと」

 一度も呼んだことがない呼称。

 そして、気づいたあの日、一番後悔したのは、彼女に母の死をあんな形で知らせてしまったことだ。

 弟として最悪だと、あの時の自己嫌悪は尋常ではなかった。

 そんな自分が、呼んでいいのだろうか。

「呼べるよ。絶対。だって、彼女はティナさんの娘でしょう?」

「……?」

「何をしたって、許してくれるわ、きっと」

 レオの心を見透かすかのように、ファリーナが言う。

「そう……だな」

 まだまだ問題は山積みで、そうするには、時間がかかるだろう。

 生誕祭の話は、聞いた。

 レオは、レオにできることをする。

「待っててくれ、シエル」

 その名は契約。

「待ってるわ。シェードに言われなくっても」

 


微笑む彼女が、そばにいてくれるなら、レオは、ただ前だけを見つめられるのだ。


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