表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の奔走  作者: 如月あい
三章 闇の追求
77/109

守るための剣

 単調な足音が、夜明け直前の町に響く。

 まだ空は夜明け前の藍色で、あたりは暗い。

 その闇に溶けるような長い艶のある黒髪をなびかせ、一人の女性が歩いている。

 祭りの日とはいえども、まだ人通りがほとんどないこの時間に、女性は迷うことなく歩みを進めていく。

 大通りを歩いていた女性は、一つの建物の前で立ち止まり、そのわきにある細い路地へと進む方向を変えた。

「建国祭の日に、こんな夜明け前の時間から訪問を受けるとは思いませんでした」

 三十代後半ぐらいだろうか、落ち着いた雰囲気を見せる女性が、待ち構えるように、建物の裏側に立っていた。

「それにしては、待っていたかのように現れてくれるのね、アンナは」

 呆れたように黒髪の女性が言う。

「私はいつもこの時間には起きておりますから。そして、こんな時間にさっそうと歩いてくる黒髪の女性は、あなたぐらいのものでしょう?」

 平然と答える女性。

「どこから見てたの?」

「二階から、ルフレ様をお見かけしました」

 その落ち着き具合は、やはり歳の功だろうか。

「頼みたいことが、あるわ」

「それは構いませんが……」

「なに?」

「あなたは、私の罪をお許しになるのですか?」

 夜明け前の王都は、まだ静寂に包まれている。

 女性の声は、ささやいているかのようだったが、それでも十分に相手に伝わるほどの音量を保っていた。

「私はあなたが身を守るための盾を奪ったのですよ」

 黒髪の女性は、静かに首を振る。

「あなたは私に剣をくれた。私が、大切な人を守るための剣を」

 迷いなく切り返された言葉に、落ち着いていた女性が、少し慌てたように言葉を返す。

「それは盾を失ったあなたの自衛の手段となればと……」

「そして、アンナはくれたわ。私が、罪を償うための剣を」

「あなたが罪を? 何をおっしゃっているのですか? まさか言葉通り、自らの体を剣で貫く気でおられるのですか?」

 憤ってまくしたてる女性を手で制し、黒髪の女性は、その美しく整った顔に、完璧な笑みを浮かべてみせる。

「許してくれない人がいなければ、喜んで」

「では私が許しません」

「……そういうと思ったわよ」

 黒髪の女性はため息をつき、あさっての方向を向く。

「さすがにそんなことは考えてない。それは償いにならないもの。とりあえず、優先すべきは、敵討ちってところかしら?」

「レイラ・ストケシアのことですか?」

 一瞬の沈黙がその場を襲う。

「……そうね。ある意味では、あなたのことも」

「!」

 そうしてつぶやかれた言葉は、女性を驚愕させた。

「知って、しまわれたのですか?」

「ええ。あっさりと、教えてくれた」

「っ……余計なことを」

 怒りに震える女性を横目に見ながら、黒髪の女性は、長い髪をすべて左側に流し、その毛先をもてあそぶ。

「罪だと思わない?」

 ぽつりとつぶやかれた言葉。

「何が、ですか?」

「私の存在全てが」

「何を!」

 あっさりと返されたその言葉に、反射的に叫ぶ女性。

 そんな女性に、今度は悲しみの表情を浮かべながら、黒髪の女性は問う。


「ねえ、あなたは憎くないの? あなたの大切なものを奪った、私が」

「奪ったのは、あなたでは、ありません。そこだけは、分かってください」


「ありがとう。やっぱり、あなたは優しいわ」

 春の風は、やはりまだ、冷たかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ