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光の奔走  作者: 如月あい
二章 炎は照らす
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うそつき。

月明かりが差し込む部屋に、一つだけともした蝋燭の火が揺れる。

 月光が当たる位置にベッドがあり、そこには美しい黒髪の女性が、横になっていた。

 具合が悪くなってから、やせたものの、やはりその美しさは失っていない。

 しかし、九の月に入ってから、すでに二週間たった。レオの休暇は、あと二週間しかない。

 青ざめた彼女は、逆に人外の美しさを醸し出しているが、あと二週間であの明るく元気な母親に戻るとは思えない。

「レオ」

 ティナが目を開け、こちらを見ている。

「クロエ、呼んできてくれた?」

「ああ。たぶん、もうすぐ来る」

 階段を上ってくる音が、レオの耳に届いていた。

 夜はよく音が響くものだ。

「ほら」

 ドアが静かに開けられ、シルバーブロンドの女性が姿をあらわす。

「ティナ、呼んだ?」

 静かにこちらにちかづき、ティナのベッドの横にある椅子に腰かける。

 レオも同じように椅子に座って、ティナの額に乗せていたタオルを、換えようと手を伸ばす。

 しかし、ティナは何故かレオの腕をつかみ、そうして、微笑んで首を振る。

「笑って、レオ。あなたが笑ってないと、私、困るじゃない。なんて顔してるのよ」

 明るい声で、笑いながらいうティナを見て、レオは安堵した後、笑顔を作る。

「そうそう。私、レオにはいつだって笑っててほしい。レオが笑っててくれたら、私にはもう、十分よ」

 そこまで言い終えると、ティナは少し苦しげに咳をする。

 背中をさすってやろうにも、ティナは横になったままの状態なので、どうしようもない。

「ねえ、クロエ」

「……何?」

「ありがとう。ずっと、いてくれて。助けてくれて」

「っ……ティナっ!」

 まるで最期かのような物言いに、いつもは冷静なクロエが、取り乱してティナの名を呼ぶ。

 その明るい口調も、微笑みも、いつものティナだと言うのに。

「ねえ、レオ。あなたは、自分で好きなように生きなさい。私はね、レオが選んだ道なら、どんな道だって、応援する」

 その言葉の一つ一つが、どこか、別れを告げているようで、レオの心に不安の波を立たせる。

「ごめんね、リオルド」

 ここにはいない者の名を呼ぶ、その姿は、レオの母親としての言葉だろうか。

「ごめん……―――ア。ごめん……シェー、ド」

 いつもは呼ばれることのない、このヴェントス地域では大切にされるミドルネーム。

 ティナの瞳がしっかりとレオを、レオ・シェード・ヴェントスを見た。

「―――シア、シェード……生き、て……」

 時間が止まったかのようだった。

 ティナの瞼が閉ざされ、ゆっくりと首がこちらに傾く。

 それと同時にずり落ちたタオルは、レオの手の上にのっかり、彼女の体温を感じさせる。

「かあ……さん?」

 声が震える。

「母さん」

 手に落ちてきたタオルには、まだティナの体温が残っているのに。

 手を伸ばして触れた彼女の体は、まだ温かいと言うのに。

「ティナ……シェリア、さま……ああっ」

 崩れ落ちたクロエが、残酷な現実を突きつける。

「ウソだろ……。十八になったら、全部話してくれるって約束しただろ! 母さんは約束破ったことなかっただろ! なんでだよ!」

 静かな部屋に、レオの声が響き渡る。

レオの声がやめば、聞こえるのはクロエの泣く声だけ。

 レオの望む声は、聞こえることはない。

 手に持っているタオルが、冷えていき、その熱を失っていく。

 笑っているティナの顔が目に浮かぶのに、目の前の女性は、笑ってはいない。

 レオを育てた温かい手は、時を重ねるごとに、だんだんと冷たくなっていく。

 シェードと呼んだその声は、まだ耳に残っているのに、部屋はクロエのすすり泣く声しか聞こえない。

 受け入れられないレオを残して、シェリア・ティナ・ヴェントスが生きていた証は、どんどんと遠ざかっていく。

「母さん!母さんっ……っ」

 


叫び続ける黒髪の少年の声に、黒髪の女性が答えることは、二度となかった。


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