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光の奔走  作者: 如月あい
二章 炎は照らす
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無愛想な男の羨望

 町の人の視線が時折こちらを向く。

 軍の制服は、それなりに人々の好奇心をそそるものらしい。

 レオは、隣に歩いている、金髪碧眼の無愛想な男を横目に見ながら、ため息をついた。

 彼はただの軍人だ、ということで情報収集をすると決めたらしく、ウィンのところへ行って、口止めをしようということになった。

 そこで、その口止め作業だけは、レオも一緒に行って、ダールの宿のためなのだということのダメ押し作業をするように言いつけられたのだ。

 だから、早朝から、無愛想な軍人と、町を肩を並べて歩くことになった。

 しかも、この男は、顔立ちがそれなりに整っているため、無愛想ゆえの無表情は、どこか不機嫌に見えるのだ。

 昨日も町を歩いたが、レイラも一緒にいたため、その威圧感はかなり薄れていたから、旅人だという認識を持たれていたのだろうが、今日は、旅人というよりは、軍の人間が何かしに来た、という認識なのだろう。

 話しかけたいけど、何か言われたら困るからやめとこう、といった考えが、人々の共通のものだと分かるのに、そう時間はかからなかった。

「うらやましいな」

 周囲の人間の反応に気をとられていて、話を聞いていなかったのかと、少し返事をするのをためらう。

 何がどうつながってうらやましいのか、全く予想ができない。

「すみません、聞いてませんでした。何がうらやましいんですか?」

「聞いてるじゃないか。うらやましい、しか言ってない」

 無表情が、わずかに驚いた表情へと変わる。

 レオは、思わず眉をひそめた。

「レイラが、あんな風に話すのを、初めて聞いた」

 思い返してみれば、彼女はずっと敬語で話していた気がする。夫婦にしては、どこか壁を感じる応対だった。

 それでもそれなりに仲はよさそうだったが。

「名前さえも、最初は呼んではくれなかった」

「え?」

「それが、貴族社会ではよくあること、ではあるが、ストケシアはそういう家系でもない。正直、拒絶されてるのかと」

 格上の貴族にはいかなる時であっても敬意を払う。

 恋愛結婚では話は別だが、政略結婚であるならば、なおさらそれは大切であるのだ。

 平民として育ったレオに、実感はないが、ティナが細かいことを教えてくれていたため、知識としては持っているし、理解もできる。

「それで、少しは前進したってことですか?」

 少なくとも、昨日の会話を思い出してみると、レイラはクロッカスの名を呼び捨てていた。

 すでに距離は埋まりつつあるということだろう。

「そうだな。それでも口調まで、あんな崩したしゃべりができるものだと思っていなかった。だから、正直、とても驚いた」

「たしかに、終始敬語でしたね。まあ、俺に対してあんなに崩してしゃべれるっていうのは、貴族の令嬢にしては珍しい気もしますが」

 レイラからは、貴族令嬢特有の無駄な気位の高さを感じない。

「だから……うらやましい」

 ぽつりとつぶやいたその言葉は、無愛想な男から漏れるには似つかわしくない。

 さきほども同じセリフを言っていたのだが、こちらが上の空だったため、そんなことを考えている余裕もなかったのだ。

「レオといるレイラは、私には遠い」

 レオの出生が、本当は貴族だった、と言われても、レオは貴族としては育ってきていない。

「レオといるレイラは、私の知らないレイラだ」

 貴族のとしての礼儀作法、常識は、ティナから聞かされているものの、それは知識であて、自分の体になじんでいるものではないのだ。

 だからこそ、レオにとっては、それは煩わしいもののように思えた。

 なんと回りくどいのか。

「頼めばいいじゃないですか」

「は?」

「敬語は止めてほしいと。別に、二人でいるときは、ストケシアの名を背負う必要はないんじゃないですか?」

 軽くため息をつきながら言ってみれば、クロッカスにしては珍しく、驚いているのが分かる程度には、表情がしっかりとあった。

「貴族として振る舞うのは、公の場でいい。二人きりの時まで、貴族でいる必要なんて、ないでしょう?」

 おそらく、母親はそうやって生きてきたのだろう。

 数日前の話を聞いて、確信めいたものがある。

「クロッカス・ストケシアではなく、ただのクロッカスさんとして、レイラさんと向き合ってみたらどうですか?」

 ティナとシェリアは、同じでありながら、別人でもあるのだ。

 少なくとも、レン・ヴェントスの妻はシェリアだが、リオルドの愛した人は、ティナだけだったはずだ。

 リオルドとしてシェリアを愛すことはありえなかっただろうし、ティナとして、レンを愛すことはなかったのだろう。

 自分の父については、詳しくは知らないが、ティナを見ている限りでは、二人の関係は、貴族同士の形式的なものではなかったことは分かる。

「……そうだな」

 クロッカスがこちらを見る。

「参考になった。ありがとう」

 その無愛想な顔に、わずかに浮かぶ笑み。

「子供は案外、考えているものですよ」

 率直な礼に照れも手伝い、レオは少しだけ、外れた返事をして、その場をごまかした。


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