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光の奔走  作者: 如月あい
二章 炎は照らす
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身分の高すぎるお客様③

右側で、半歩先を歩く黒髪の少年は、町を紹介しながら歩いてくれている。

 左で、その説明を聞きながら、金髪碧眼の男性は、感心したような表情をしている。

 無愛想で分かりにくいが、すでに結婚してから半年は経ったため、だいぶ表情から彼の心情を推し量れるようになった。

「そういえば、レオ君って何歳なの?」

 ほどほどに打ち解けてきたところで、気になっていたことを聞いてみる。

 この少年は、どこか誰かに似ているような気がして、とても親しみやすいのだが、誰だったか思い出せない。

 とりあえず、少年について聞いてみれば分かるかもしれない、と思ったのだ。

「十一ですよ」

「え?」

 クロッカスとレイラの声が、見事に重なる。

 最初に見せた完璧な作法だけでなく、町を紹介する彼の口調も、ずいぶんと落ち着いているし、内容もとても教養を感じるものだ。とても十一歳の子どものものとは思えない。しかし彼が嘘をついているようにも思えない。

 もう一度、レイラはレオを見た。

 さらりとした癖のない黒髪の少年と目が合う。

 その目は、黒だと思っていたが、深い藍色だった。

「ああ。そうか」

 ようやく、少年に感じた親しみの正体に思い当たる。

 この少年は、似ているのだ。

 レイラの家の近くに住む、ルミエハを背負う黒髪の少女に。

 顔立ち、というよりは、髪の色や、その年に合わない大人びた立ち振る舞いが、どことなく、少女を彷彿させる。

「どうしたんですか?」

「いや、ちょっと、私の知ってる子に、レオが似てるなって思って。髪の色とか、黒色だし」

「そうなんですか? 黒髪の人は、母さん以外には会ったことないです」

 金髪碧眼が標準であるこの国で、黒髪は特に珍しい色だ。レイラも、ルミエハの父娘ぐらいしか、他に黒髪を持つ人は思いつかない。

「確かにね。珍しいかも。……それにしても十一歳かぁ」

「私も正直に言って、驚いた。君はずいぶん、年の割に博識だな」

 クロッカスも慣れてきたのか、その表情は、いつもよりかはやわらかいものになっている。

「そんなことないですよ。そもそも、俺が十一歳だということなんかより、ストケシア侯爵家の次男夫妻が、ダールの宿の客になってることの方が数百倍驚きですよ」

 黒髪の少年は、呆れた表情を見せる。

 その表情は、とても年相応で、少しだけ安堵する。

「どうしてダールの宿に泊まる気になったか、聞いてもいいですか? 地理的に、確かに爵位持ちの貴族が泊まることはありますが、予約で来る客は珍しいです。そして、侯爵家ともなれば、わざわざここに泊まる必要はないでしょう? 護衛を増やせば、夜の森だって問題ないでしょうし」

 やはり、どことなくルフレに似ている。この、十一歳とは思えない頭の切れる感じが。

 ―――黒髪はそういうもんなの?

 ルミエハ当主の夫、ダンテ・ルミエハも、黒髪で、頭の切れるイメージがある。流石は、ルフレの父親だと、子供ながらによく思っていたのだ。

「確かに、レオの言うことは最もだ。私はどこでも気にしないが、レイラが提案した時には驚いた」

「レイラさんが?」

「ええ」

 ヴェントス領は、東西に細長く伸びる領地で、北側の中央に小さな山を抱えている。北側にオブスキィトの直領地、西側に南北に小さくまとまっているクルクマ伯爵家領、南東にケルド領が主な領地として隣接しており、その他小さな領地がこまごまと隣接している。

 ヴェントス領は、山を扇型に囲むような領地であり、山の東側に町が一つ、山の南側にも小さな町、それがこの町だが、それがあり、山の西側にも町が一つあり、計三つの町がある。それぞれの町は森を挟んで並んでいる。

 王都はヴェントス領から見れば西側にあるため、直線距離で言えば、西側の町が一番王都に近い。

 しかしながら、王都からは、馬車がすれ違えるほどの大きな道が、いくつか地方に向かって伸びているのだが、その大きな道は、王都に隣接するオブスキィト家領を通り、ヴェントス領の、山の東側にある町を通って、ケルド領へとつながっている。

 そして、山の西側を通る大きな道は存在しない。

 その理由は簡単で、クルクマ伯爵家が、ルミエハ寄りの貴族だからだ。急進的ではないが、かなりルミエハに寄っている家である。今よりもっとルミエハとオブスキィトの対立が酷かった時に、道が作られたため、互いに広い道を通すのを嫌がったのだ。

 そんなわけで、整備された道を通って、ヴェントス領の山の西側の町に行くためには、どうしてもこの山の南の町を通る必要があるのだ。

「確かに、東の町から来れば、ここは中間地点ですが……」

「王都からの整備された道が通る東の町から、ヴェントス家の本邸があった町に行くのに、予約してまでここに泊まる必要はないと思った。そういうことか?」

「はい。東の町から西の町までは、馬車で一日半ぐらいで着きます。そのぐらいなら、人を多めに雇えば、ここらへんは治安もそんなに悪くないですし、ここに泊まる必要を感じません」

 レオが最初に言った、護衛云々は、そういうことなのだ。

 ヴェントス領は、山の東は王都につながる道があるため、交易が盛んであり、とても活気のある町となっていて、山の西の町は、ヴェントス家の本邸があったため、こちらも大きな町で、東にも西にも、貴族が泊まるような豪華絢爛な宿泊所は存在する。

 この南にある町だけが、ダールの宿しか宿が存在しないような、小さな町なのである。

「私のわがままなの。ストケシア家に、数か月に一度、ケルドやオブスキィトの銀細工を持ってきてくれる商人さんがいてね、その人に地元の話をしてほしいって言ったら、ここの話をしてくれたの。その時に、ダールの宿の主人が、炎の一夜で亡くなったヴェントス侯爵夫人のシェリア様に似ているティナっていう美人だっていう話を聞いて、一度どんな人か見てみたかったの」

「その商人の名前って……」

「ああ、ゴデチアさんよ」

「やっぱり……あんなに俺のこと嫌いな割に、母さんは美人だと思ってるのか」

 ゴデチアという名前を聞いたレオは、苦々しい顔をして何事かつぶやいたが、それはレイラには聞き取れなかった。

 しかしどうやらクロッカスは聞き取れたらしい。

「何かしたのか?」

「何もしてないですよ。ただ、ゴデチアさんの娘のファリーナと幼馴染ってだけです」

「……なるほど」

 男二人だけで完結した会話は、レイラには分からなかった。



やっぱりレイラは書いてて楽しいです。

ああ、レイラ……

自分で書いておいて嘆いてもしょうがないですが。


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