炎に焼かれし真実①
ファリーナに誕生日プレゼントも無事に渡し終え、ファリーナの行動に驚いて、混乱させられながらも、どうにか落ち着きを取戻し、レオは家の前まで来ていた。
「ん……なんで、休み?」
いつもなら開いている扉は閉じており、その扉には、本日は宿泊していただけません、と書かれた紙が貼られている。
不審に思いつつ、扉を開けようとすると、ご丁寧に鍵までかかっている。
どうやら本気のようなので、あきらめて裏口から入るべく、ぐるりと建物の周りを回った。
厨房につながるドアは、さすがに鍵も開いていて、そこから中に入った。
「ただいま!」
中に入り、ドアを閉めてから、とりあえず叫んでみる。
階段から降りてくる、二人分の足音が聞こえ、厨房を出て、階段の方へ向かう。
「レオ! 悪いけど、先に猫の部屋に入って、窓の鍵とカーテンを閉めてきて!」
ティナの声が聞こえ、意味が分からないながらも、指示通り、猫の部屋に入る。
猫の部屋、というのは、あくまでもこの宿での通称であり、猫がいるわけではない。
猫のほかに、犬、ひよこ、リス、など、ティナがかわいいと思う動物たちの名前が書く部屋に割り当てられている。
窓は鍵まですでにしまっていたので、とりあえずカーテンを引いた。
ちなみに、この猫の部屋は、ダブルベッドが置いてある、夫婦向けの部屋では一番広く、値段も張るため、新婚旅行に訪れた夫婦に使用されることが多い。
値段が張ると言っても、もっと大きな都市の宿に比べれば安いらしいが。
「おかえりなさい、レオ」
そう言って入ってきたのは、何故かシルバーブロンドをきっちりと結い上げた女性だけ。
さきほどの声は間違いなくティナだったのに、なぜクロエしかいないのか。
「今日、客を全部追い払ったのか?」
「……ええ。大事な話があるの」
「それは、人に聞かれたくない話?」
ここらへんでは唯一の宿なのにもかかわらず、閉鎖し、話をするために選ばれたこの部屋は、窓もしめ、何故かカーテンまでも引いている。
どう考えても、あんまり良い話ではないだろう。
「聞かれても……見られてもいけないわね」
クロエは部屋の中に入り、置かれていたソファに座る。
レオも座るように促され、ソファが二つしかないため、レオはティナのことも考え、ベッドに座った。
「母さんは?」
レオがそう聞くと、クロエは自分が入ってきたドアの方を見て、呼びかける。
「もう入ってきていいはずですよ。覚悟は、なさってるんでしょう?」
思わずレオはクロエの方を見る。
話し方が、堅い。いつもなら、ティナに彼女は敬語など使ったりはしない。そもそも、ティナはクロエの妹だったはずだ。
「覚悟はしてるわ……でも、本当にいいのか、悩んでるの」
扉の向こうから聞こえてくる声は、間違いなく母親のものだった。
しかし、声のトーンが、いつもより低い。
「もう一年も悩んでおられたではないですか。やっと今日、実行に移したというのに、まさかここまで来てお止めになる気ですか?」
「それは……」
レオは考えるより先に立ち上がっていた。
クロエが反応するよりも早く、レオはドアを思いっきり引いた。
「え……」
そこに立っていたのは、女性だった。
長い癖のない黒く艶やかな髪を、いつもは決して結うことのないその髪を、完璧に結い上げている女性。
いつもは化粧など申し訳程度にしているだけだったのに対し、今日は一切の手抜きなしに完璧な化粧が施され、もとより美しい顔立ちを、いっそうまぶしいものにしていた。
そしていつもと完全に違うのは、彼女の服。
いつも着ているような動きやすい服ではなく、誰もが憧れるようなレースをふんだんに使った上品なドレス。
「あ、開けちゃったか」
声はいつも通りだった。
その声に、やはりこれは母親だと実感する。
「どういうことだよ? ……母さん……あんた、誰なんだ?」
確かに、似ていると言われていた。それは自慢でもあったはずだった。
だが、今日の彼女は似ているのではない。
レオが、見たことのある顔が、そこにいた。
「私はね。ティナ……。シェリア・ティナ・ヴェントスよ」
その言葉は、ばかばかしいと言って否定できるものではなかった。
目の前にいるのだ。
炎の一夜で亡くなったとされる、ヴェントス侯爵の夫人の、肖像画と全く同じ顔が。
「何、を……」
「そしてね、あなたは、レオ・ダールじゃない。レオ・ヴェントスよ」
静かに告げられた言葉は、部屋に更なる静寂と混沌をもたらした。




