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光の奔走  作者: 如月あい
二章 炎は照らす
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天然ふんわり少女の憂鬱

 太陽がそれなりの高さまで登ってきた昼前。

 黒髪の少年は、町のはずれにある、小高い丘の上まで走っていた。

 太陽の光を受け、緑が鮮やかに映える丘の上には、短いふんわりとした金色の髪に、琥珀色の瞳を持つ少女が立ってこちらを向いていた。

 黒髪の少年は走って一気に少女との距離を詰めると、少女の目の前に立つ。

「レオは、いつも走ってるね」

 少女はのんびりとした声で言う。

「トロトロするの嫌いだから」

 少年は、冷たい印象をも与える整った顔立ちに見事に合う、冷めた声で応答する。

「んー? 私がトロトロするのは平気なのに?」

 不思議そうに首をかしげる少女に、少年はため息をつく。

「人と自分はちがうって」

「そうなのかなあ……?」

「そうなんだよ」

 少年は無理やり話を打ち切り、思い出したとばかりに少女をにらむ。

「ファリーナ」

 睨まれたことと、その声色の変化に、少女は少しだけ後ずさりする。

「ど、どうしたの?」

「母さんが、今日のこと、知ってた」

「うっ……」

「ファリーナの母さんから聞いたって言ってた」

「……いや、たぶんお父さんからじゃないかな……?」

「げ、それ、もっと嫌だ」

 確かに言われてみれば、ゴデチアさん、とは言ったが、それがどちらかについては言及していなかった気がする。

「あのね、今日の、お弁当作るのに、材料買わなきゃいけなくて、それでお父さんに頼んだら、ばれちゃった。それをね、買い物にきた、レオのお母さんに喋っちゃったんじゃないかなあ……」

 そういってファリーナは、自分の足元に置いてあった、包みを指す。

 いつだったか、二年くらい前に、ファリーナが料理ができると自慢してくるので、試しに作って来いと言ったら、お弁当を作ってきた。さすがに、ファリーナの母親が手伝ったものだったらしいのだが、ファリーナの作った卵焼きはなかなか美味しくて、驚いたのだ。

 それ以来、たまにファリーナが料理自慢の一環として、お弁当を持ってくる。

 そのお弁当を一緒に食べるのは、レオだけなので、ファリーナがお弁当を作れば、恒例のピクニックだと、親にも悟られてしまうのだ。

「もっとうまくやれないのかね……」

「じゃあ、作ってくるのやめようか?」

「……」

 ファリーナの、鋭いのか鈍いのかよくわからない質問に、レオは沈黙を持って答える。

「嫌なのね」

「……」

 ダメ押しされて、うんともすんとも言えず、レオはこの天然ふんわり少女に負けたことを自覚する。

「はあ。ていうかさ、人に頼むからそうなるんだろ?」

「だって、お父さん、私が一人で買い物するの、嫌みたいなんだもの」

 ファリーナの父は、商人である。それも、それなりに裕福な。

 商家の娘にしてはあまり欲のないファリーナは、目に入れても痛くないほどかわいい娘であるらしいのだが、それゆえに、少し過保護である。

「それにね、うるさいの。お前はかわいいから、子爵か、男爵家に貰ってもらえるって。私、そんな見たこともない人のお嫁さんになるの嫌なのに」

 確かにファリーナはかわいい。

 だが、この町では、とてもかわいらしいファリーナも、やはり貴族の令嬢の中に混ざれば、迫力負けするであろうことはなんとなく想像がつく。

 今は亡き、ここヴェントス侯爵の奥方は、美人で名高かった。薄いベールで顔を隠していることが多かったそうだが、領民の前にも、それなりに姿を現し、その美しさと、皆に愛された侯爵を支える彼女は、とても領民から愛されていたらしい。ヴェントスの地に住む大人たちは、みな口をそろえてその話をする。

 奥方が美人だったという話と、ヴェントス侯爵がいかに素晴らしい人物だったかについては、もはやだれでも知っていることだ。もちろん、あの忌々しき炎の一夜についても。

 その、美人と名高かった奥方の肖像画が、相当焼けてしまったらしいが、いくつかだけ残っており、レオも見たことがあるのだが、本当にとても美人だった。

 そして、レオのひそかな自慢は、自分の母親ティナが、その奥方に似ていると言われていることである。

「まあ、ファリーナの父さんは、ファリーナがかわいくてしょうがないんだろ」

「それは分かってるんだけどね。そういうことじゃないの……」

 何故か大きくため息をついてこちらを見つめるファリーナに、レオは、首をかしげるしかなかった。


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