心配するもの、謝罪するもの
「珍しいですね。この組み合わせは」
目の前の女性が、不思議そうに言う。
金髪碧眼の少年は、幼い仮面をかぶったままだが、どこか何かを疑うかのようにこちらに目を向けてくる。
「確かにね。でも、考えがあってのことだから」
「わかってます。隊長は、いつでも数歩先のことを考えていますから」
即座に切り返してくる自分の隊の副隊長に、ルフレは罪悪感を感じた。
「シリヤ……今回の任務のことだけど―――」
「―――ルフレ!」
シリヤに話しだそうとしたところ、聞きなれた声に遮られる。
「どうしたの?セレス」
「……仕事に行くところなのはわかってるけど、急用だから。十分でいい、ルフレを借りてもいいかしら?」
セレスはシリヤとジオに確認をとり、二人がうなずくのを見ると、ルフレを引っ張るようにして二人から距離を取る。
どうしたというのか。
こんな風に人払いをしてまで話す急用というのに心当たりがない。
「ねえ、ルフレ、何か、無茶してない?」
碧い瞳がまっすぐにルフレの目を見てくる。
心配そうな表情が、ルフレの心を波立たせた。
「無茶?いいえ。何も。今日のリーシェン行きだって、日帰りで帰ってこれる距離だし」
無茶ならいつだってしているが、セレスはルフレの無茶は承知だ。そんなこといまさら聞くわけがない。
それならば、彼女は、何を考えてここに来たのか。
「諜報部に通せないようなこと、調べてるんでしょ」
―――昨日の、見られてたのか。
情報を受け取るのに、こそこそするより、喫茶店のような明るいところでのほうが、逆に人目につかないし、見つかっても噂にならないだろうと踏んだのだ。
だが、敏いセレスに見つかったのは誤算だった。
普通なら、セレスが城下町にいるような時間ではなかったのだ。昼下がりのあの時間は、ユーフェミア王女の庭園にいることが多いのだから。
「黙ってるってことは、間違ってないのね。昨日はユフィに頼まれて、城下町に出てたの。そしたら、偶然あなたを見たわ。ねえ、何について調べてるの? 諜報部でもなく、ルミエハの諜報員でもない人に頼むことなんて……」
彼女なら、誰にもしゃべらないだろう。
たとえ、ルフレが黙っていても。
「ごめん。話せない。あなたを巻き込めないわ」
「巻き込めないのは私だけ? デュエル隊長には言ってるの?」
予想外の反応に、思わずルフレはたじろいだ。
これはセレス以上にデュエルに話せないことなのだ。話すわけがないし、できれば悟られたくもない。
―――どうする? セレスにデュエルに黙っててほしいって言う? でも、そうしたらデュエルが関わってることをばらすことになる。
「もちろんデュエルにも話さないわ。誰にも、例外なく、よ」
迷った末、そう答えておいた。
「……いいわ。でも、困ったら、頼りなさいよ。なんでも一人でやりすぎだから」
セレスの顔が、一瞬、泣きそうに見えた。
ずきりと心臓が痛む。
心配してくれた親友にこんな顔させるつもりじゃなかった。
「引き留めて悪かったわね」
そういって離れていくセレスを止めることもできず、謝ることもできないまま、ルフレは静かに目を閉じる。
何があっても一人で解決しなければならないのだ。
それは、デュエルが望んだことでもある。
「ごめんね。セレス」
小さく謝り、待っていたシリヤとジオのところに戻った。
「個人的な話ですか?」
シリヤの問いかけにうなずく。
シリヤはそれ以上は問わない。個人的なことに、彼女は必要以上には踏み込まない。
本当に、優秀な部下だ。彼女は。
―――だからこそ、なのよ。許して。
ルフレは、今日、もう一度ここに帰ってきたときに、彼女に告げる予定のことに、押しつぶされそうだった。




