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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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ケルドでの任務⑥

 黒髪の青年の言葉に、ヒラリーとリリイは目を丸くした。

「狂言?ほんとは襲撃なんてされてないってこと?」

 リリイが問うと、レオはうなずく。

「すでに聞き込みはして、今回の事件の不審点はいくつかあるだろ?」

「あ……はい。商人が殺されなかったこと、商人がすぐに逃げてきたわけではなかったこと、そして……御者と傭兵の死体発見について、驚いた様子だったこと」

「そうそう。それって、こう考えたらうまくいくと思わない? 商人と賊は仲間だった。商人は金でつられて、この騒動に加担した。そして、商人が聞かされていた話では、傭兵と御者は、乗ってきた馬車で国に引き返してるはずだった。ところが伯爵家で、二人の死体の話を聞かされて話が違うと真っ青になる。賊は、ただの賊じゃない。たぶん、プロの暗殺者。ついでに、商人は、捨て駒だろうから、下手したら、もう……」

 レオの説明は、一応筋が通っている。そうすれば、確かに話は分かりやすくなるのだが。

 リリイの方をちらりと見ると、リリイも同じことを考えたようで、レオに問いかけた。

「それ、話はわかるけどね……動機は? そんなことして、いまのところ賊に利益がないわ。暗殺者って言っても、その対象になる人物が出てきてないもの」

 暗殺者の狙いが商人であったなら、こんな回りくどい手を使う必要はない。だからといって、今回の事件を起こすことで、誰かを殺すことにつなげるのは難しい。

「それは、二人で考えてください。俺は、ほとんど確信してる。でも、三人いるなら、三人が先入観なしで考えた方が、絶対により正確な答えが導き出せる」

「……分かったわ」

 リリイがそういってうなずく。

 それを見たレオは、用事があるといって、足早にその場を去って行ってしまった。

「リリイさん。ケルド伯爵は、関係していると思いますか?」

 今ある情報から、答えを導くには、ある程度考えの軸が必要となる。

 まずは、商人を保護したケルド伯爵は黒か、白か。

 ケルド伯爵の人柄は、領民からの支持を見ていてもわかるように、温厚でとても丈夫かいようだ。

 だから、いつも取引している商人が、困っていれば、助けてやる、というのもわからなくはない。商人を助ければ、それなりに見返りもある。

 ただし、ケルド伯爵が、自らの人望をあげるために利用したなら話は別だ。

 困っている商人を無償で助ける伯爵。

 それは、なかなかの美談である。

「私もそれを考えたけどね……でも、伯爵の美談を増やすのが目的の事件だと、彼が思っていたならば、暗殺者とは言わなかったんじゃないかしら?」

 指摘を受けて、ヒラリーははっとする。

 レオは、確かに暗殺者だと言った。つまり、誰か、殺される対象になる人物がいると確信していたということだ。

「対象って誰なのよ……」

 二人は宿に戻ってからも、ひたすらに考え続けたが、答えはでなかった。

 しかし、その答えは意外な形で明らかとなる。




 二人が黒髪の青年と出会ってからおよそ四、五時間後。

 何やら疲れた表情を浮かべ、ダグラスとレティス、それからデュエルが宿に戻ってきた。

「どうなさったんですか?」

 リリイの問いかけに、ダグラスとレティスに何故か睨まれているデュエルが語り始める。

 事件現場に行き、放置されていた馬車に違和感を覚え、調べようとしたところ、賊に襲われたこと。

 レオの予測通りその賊は商人と手を組んでいたが、商人はすでに殺されてしまったらしいこと。

 その賊、あるいは暗殺者が、デュエルをオブスキィト家の人間だと言っていたことから、デュエルがその暗殺対象であったこと。

 そして、リリイとヒラリーが出会った、黒髪の青年レオに助けられたこと。

「つまり、この事件は、隊長をおびき寄せるべく組まれたものだったわけですね」

 話を聞いて、リリイが問うと、デュエルは頷く。

「俺がこの時期にここにくることは、わりとみんな知っていた。特に今回は、オブスキィト家が動いたから、派手な動きで、情報はだだ漏れだった。そして、賊は、俺の性格も知り得ていたんだろう」

「しかも、商人の遺体が見つからない限り、拘束したあの四人を、その線で起訴するは難しい。傭兵と御者殺しも、立証は難しいから、正直言って、どんな罪状で拘束したらいいのかってところなんですよね」

 ダグラスがため息をつきながら言う。

 レティスとリリイもその言葉にうなずいていたが、ヒラリーには、よくわからなかった。

 罪状なんて、オブスキィトの人間を襲っただけで十分だ。

 ヒラリーはデュエルの方を見る。

 デュエルは何かを考えている様子だった。

「……隊長。罪状は、傭兵と御者、および商人殺し以外では、だめなんですか?」

 ヒラリーの言葉に、あからさまに意味の分からない、と言った表情をしたレティスと、少し困惑気味のダグラスとリリイが目に入る。

 しかし、デュエルにはヒラリーの意図は伝わったらしい。

 彼は静かに首を横に振る。

「どうしてですか? オブスキィト家の人間を襲うなんて、それだけで、三人の命を奪った罪と同じか、それ以上の罪が問えるじゃないですか!」

 納得のいかないヒラリーは、畳み掛けるように言った。口調がどうしても早くなる。

 ―――みんな知らないというの?

 どうして、三人ともそんな不思議そうな顔でヒラリーをみるのだ。

 オブスキィト家とは何か、ということは、そんなに知られていないことだというのか。

「どういうことだよ? 隊長は確かに襲われたけど、怪我してないし、いくらオブスキィトだって言っても、人殺し三人分以上の罪になんてなるわけないだろ?」

 レティスが我慢の限界だったのか、不機嫌そうな声でヒラリーに問う。

「どうして知らないんですか? オブスキィトが何たるかを? じゃあレティスは一体どうしてオブスキィト公爵家が、王族から血縁が遠ざかっても、いつでも公爵家でありつづけていると? オブスキィトに王家の血が混ざったのは、もう五代も前です。侯爵家、という方が、しっくりくる。ルミエハ家も然りです」

 いつもなら言い負けるヒラリーだが、今日ばかりは自分の言い分が正しいと自信を持っていた。

 そんなヒラリーの様子に、レティスが面をくらったような顔をして、茫然としている。

 だから代わりにダグラスが質問する。

「確かに、オブスキィトとルミエハは公爵家って言うけれど……それがどういう関係をしてるんだい?」

「関係大有りです! トレリは建国されてから四八七年経ちました。トレリ建国者アンリは二人の弟がいました。三兄弟はとても仲よく、弟二人は兄をよく助けたそうです。建国に際しても、弟二人の助力がなければ、彼の伝説は始まらなかったと。そして、言うまでもなく、アンリの血統が、今のシュトレリッツ王室です。そして、建国者の一つ下の弟の血統がルミエハ家、三つ下の弟の血統がオブスキィト家なのですよ!」

「英雄アンリ、神格化された彼の話は有名だけれど……兄弟がいたなんて」

 リリイが驚いたように口を挟む。

 確かに学校の教科書や、親に教わる話はアンリの伝説のみで、兄弟の話はでてこない。しかし、歴史書を一度でも開けば、どれにだって載っている。

「リリイさんの言う通り、アンリはもはやこの国では神格化されています。その兄弟の血統だからこそオブスキィト家とルミエハ家は永遠の公爵家であり、みなさんの反応をみる限り、あまり知られていないのかもしれませんが、オブスキィト家とルミエハ家の血を絶やそうとしたものには、かなり重い罰が科せられるんです! この両家の扱いは、王家に近いものがあるのですよ!」

 ヒラリーは歴史に強かった。現状のオブスキィト家の情勢については、家がルミエハ派であることから、少し普通の人より疎いかもしれない。しかし、ルミエハ家ではなく、ルフレ個人を崇拝するようになってからは、ルミエハ家とオブスキィト家の関係については相当な数の書物を読んだ。

 そのどの書物にも書いてあった基本事項だというのに、なぜ目の前の三人は、こんなにも呆けた顔をしているというのか。

「ヒラリーは流石、だな。詳しすぎる」

「って……本当なんですか?」

 デュエルが肯定するような発言をし、レティスが思わずといった風に聞き返す。

 その問いにはデュエルは頷いて答え、そして、さらに続けた。

「ただ、ここ数代、特に父の代では、そういう権力の使い方はやめようっていう方針になってるんだ。そして俺自身が、そういう形で罪を問うことに違和感を覚える」

 デュエルが困ったように笑っているのを見て、ヒラリーは急に羞恥を覚えた。

「すみません。そこまで、考えが至ってなくて……」

「気にしないで。実は俺も少しはそれを考えたから。でも、できればもうちょっと粘って、商人の遺体、あるいは傭兵と御者を殺したことの証拠をつかみたい。俺を狙った暗殺者たちの雇い主についても気になる。ただ、オブスキィト家長男がいなくなって喜ぶ家はたくさんあるから、難しいところだけど」

 現オブスキィト家当主アベル・オブスキィトはたいそう立派な人格者で、歴代稀に見る名君と名高い。 それゆえ、今代オブスキィトは国内に絶大な影響力を持っている。

 ただし、やはりルミエハ家勢力も小さくはなく、比率でいうならオブスキィトが六のルミエハが四、と言ったところだろう。

 デュエル暗殺者の首謀者候補が、国内貴族五分の二もいるということになる。

 実際は、急進ルミエハ派であろうが、それでも国内貴族の十分の一ぐらいはいる。ルミエハ家は、どうやら狂信的な信者を生むのに長けているらしい。

 そういう急進派は、二百年の対立の間、絶えず存在している。

「要するに、今回のこの事件は、私たちの担当外になってしまったわけですね? 最初は国外商人にまつわる事件だったので、手を出しましたが、正直、商人自体は国外の者でも、この事件は内部にまつわる事件です。国内ならA系統のどこかに振るのが妥当でしょう。あるいは諜報部でも構いませんが」

 リリイが冷静に話をまとめてくれたことで、ヒラリーは思考をいったん落ち着けることができた。

「リリイの言うとおりですよ、デュエル隊長。そして、何より、今回拘束した四人は、王都に送って、ルフレ隊長に調査を依頼すべきです」

「それはっ……そうだけど。彼女から受けた依頼を、面倒事にして突き返すなんて……。俺の立つ瀬がないじゃないか」

「ですが、今回の件。彼らが雇い主に関する情報を持っているかどうかを確実に判断できるのは、シュトレリッツ王国では彼女ただ一人です。オブスキィト家の権力を振りかざしたくないならなおさら、使用できる手段はすべて行使すべきですよ」

 ダグラスがそこまで言って、ようやくヒラリーは彼の意図を理解した。

 つまり、ルフレの嘘を見抜く力にすがりたい、ということなのだろう。ヒラリー自身は、崇拝する彼女に嘘をつくなんてことを考えたこともなかったので、実際に彼女がどれだけ嘘を見抜けるのかは知らない。しかし、ダグラスがそこまで言うのならば、ルフレの人の嘘を見抜く力というのは本物なのだろう。

「……わかった。ルフレには俺が交渉する。特殊部隊A系統じゃなく、諜報部に調査依頼を、オブスキィトの長男として出す。ついでに、この隊からとして、治安維持隊にも遺体捜索に力を貸してもらう。あと、伯爵に商人の身元についての詳細を聞くのと、馬車をどこで手配したのかも聞く」

 デュエルがまとめて出した指示に、残りの四人は各々うなずいた。


第一章もやっとここまで来ました。

あともう少しで一章完結できそうです!



ここまでお読みいただいている皆さんに

感謝の意を述べるとともに、お知らせです。


一章完結しましたら、一度登場人物と世界観を、一章完結までで

明らかになったところまでまとめますので、

登場人物が多すぎて、誰かわからない……などとなった方は

参考にしていただければ、と思います。


また、誤字脱字の指摘、または感想などがありましたら

書いていただけると作者の励みとなります。

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