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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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ケルドでの任務④

「ちょっと安心だな」

 黙り込んだデュエルを見て、再びからかうように、そして、どこか嬉しそうに黒髪の青年は言う。

「何が―――」

「―――デュエル隊長!!」

 聞き返そうとしたデュエルの声に、ダグラスとレティスの声が重なって聞こえてきた。

「これはどういうことですか!」

 ダグラスの叫びで、ようやく今自分がどういう状況かを思い出した。

 賊に襲われて、レオに助けてもらった後、適当に男たちを拘束した後、そのまま今に至ったのだ。

 つまり、デュエルの服は返り血で赤く染まっているし、血の止まらない男が二人、気絶している男が二人。

「実際に現場を見てみようと思ってきたら、馬車が壊れてて、不審に思って調べようとしたら、例の賊五人に囲まれたんだ。四人は、レオの助けもあってどうにかとらえたが、一人逃げられた」

「そういうことではありません!なぜ、あなたが一人でこんなところに来てるんですか!?」

 ダグラスの説教は長いしくどい。できることなら聞かないで済ませたい。

「悪かった。ただ、賊に襲われたのは想定外であって、自ら干渉したわけじゃないってことはわかってくれよ」

 だからいつだって、デュエルは、反論すべきところ以外はすべて自分の非として認めてしまうのだ。

「……分かりました。反省なさってるならいいです」

 そうすれば、ダグラスだってそれなりにあっさり引き下がってくれる……ことが多い。

「あの、彼は誰ですか?隊長の知り合いですか?」

 レティスが、ようやくレオの存在に気づいたかのように問いかける。

「俺が一方的に知ってて、オブスキィト家に恩があるから、勝手に助けただけ。今、さっきひと段落したばかりってとこ」

 レオはさらりと嘘をつく。

 どうやらデュエルの状況を慮っての行動らしい。

 それはとてもありがたい話だったが、ダグラスとレティスの登場で、聞きたかったことを聞きそびれてしまった。

「オブスキィト家に恩?」

 レティスがさらに追及する。

「俺はヴェントス領に住んでるから」

「ヴェントス? ヴェントスって、炎の一夜のあったとこ?」

 今度はダグラスが問う。レオの軽薄なしゃべりにつられたのか、ダグラスまで敬語を忘れている。

「そうそう。炎の一夜の舞台。あれ以降、オブスキィト家にはお世話になりまくってるから。基本的に領民はオブスキィト家には感謝してる」

「なるほど。それでデュエル隊長を助けたのか。やっぱり隊長もオブスキィトの人間なんですね。ルフレ隊長との掛け合いを見ていると、そんな気はしませんけれど」

 ダグラスがさらりとルフレの話を持ち出し、レオは興味ありげな反応をみせた。

 あまりルフレの話はしたくない。

 今は、少し、心が乱れている。

 ラピスラズリの送り主と、その意図を知りたいと思う反面、現実と向き合う怖さもある。

「ルフレ隊長って、ルミエハの人ですよね。ルミエハの人と交流が?」

 レオは何も知らないふりをして聞く。しかも、きわどいラインだ。

「仕事以外で話してるのは、ほとんど見ないけど……デュエル隊長とルフレ隊長は、仕事上は良いパートナーって感じがする」

「あ、それ、俺もわかります! スミア騒動の時、ヒラリーを預かってくれたりとか、意外とデュエル隊長のこと、オブスキィトの人間としてでなく、デュエル隊長そのもので見てる感じですよね」

 ダグラスに続き、レティスまでもがそんなことを言う。

 それでも、彼らは知らない。

 本当は、隊長同士以上の関係が存在した、あるいは存在しているということを。

「仕事以外では話さないけど、仕事に家事情は持ち込まない。……本当に一定距離を保ってるんだな」

 レオがどこか呆れを含んだような口調で言う。

 デュエルだって好きでそんな演技をしているわけではない。

 それでも、ルミエハとオブスキィトの問題は、やはり解決しなければ次へ進めないのだ。

「とりあえず、この拘束した賊を引き取るように、ケルド伯爵家に伝達してくれないか?」

 話を変えるため、あえてダグラスに、賊についての話題を振る。

 すると予想通り、彼は一気に仕事モードになり、ある程度の情報をまとめた後、ケルド伯爵家の方へ向かってくれた。

「じゃあ、俺はこれで」

 レオはそういって、デュエル立っている方へ向かって歩き、デュエルの横を通りすがりざまに、耳元でささやいた。

「頼みますよ、レンティシアを」

 一瞬のことに思考が停止する。

 そのことを確かめる前に、黒髪の青年は歩いて行ってしまった。

 ―――どういうこと、だよ。

 ルフレは軍属してから、一度たりともレンティシアの名を名乗っていない。ミドルネームは、養成学校で、最初に書かされた登録書以外は、他のどの書類も省略して良いからだ。

 養成学校から、正式名称は軍に送られているはずだが、使われていないミドルネームなど、誰も覚えていない。

 ルフレだけでなく、デュエルも同じで、ミドルネームは使っていなかった。

 二人だけのものだと思っていた。

 ―――なんで……。

 デュエルはずっとルフレしか見ていなかった。

 だが、ルフレはどうだったのだろうか。

 ロイは、レンティを想い続けているが、レンティは、ロイのことをどう思っているのだろうか。

 ロイは彼女にとって特別ではなかったのか。

 それは自分の自惚れだったのか。

 レイラの言葉は、実はただの慰めだったのか。応援だったのか。同情だったのか。

 

 ロイの思考は闇に落ちていった。


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