ケルドでの任務④
「ちょっと安心だな」
黙り込んだデュエルを見て、再びからかうように、そして、どこか嬉しそうに黒髪の青年は言う。
「何が―――」
「―――デュエル隊長!!」
聞き返そうとしたデュエルの声に、ダグラスとレティスの声が重なって聞こえてきた。
「これはどういうことですか!」
ダグラスの叫びで、ようやく今自分がどういう状況かを思い出した。
賊に襲われて、レオに助けてもらった後、適当に男たちを拘束した後、そのまま今に至ったのだ。
つまり、デュエルの服は返り血で赤く染まっているし、血の止まらない男が二人、気絶している男が二人。
「実際に現場を見てみようと思ってきたら、馬車が壊れてて、不審に思って調べようとしたら、例の賊五人に囲まれたんだ。四人は、レオの助けもあってどうにかとらえたが、一人逃げられた」
「そういうことではありません!なぜ、あなたが一人でこんなところに来てるんですか!?」
ダグラスの説教は長いしくどい。できることなら聞かないで済ませたい。
「悪かった。ただ、賊に襲われたのは想定外であって、自ら干渉したわけじゃないってことはわかってくれよ」
だからいつだって、デュエルは、反論すべきところ以外はすべて自分の非として認めてしまうのだ。
「……分かりました。反省なさってるならいいです」
そうすれば、ダグラスだってそれなりにあっさり引き下がってくれる……ことが多い。
「あの、彼は誰ですか?隊長の知り合いですか?」
レティスが、ようやくレオの存在に気づいたかのように問いかける。
「俺が一方的に知ってて、オブスキィト家に恩があるから、勝手に助けただけ。今、さっきひと段落したばかりってとこ」
レオはさらりと嘘をつく。
どうやらデュエルの状況を慮っての行動らしい。
それはとてもありがたい話だったが、ダグラスとレティスの登場で、聞きたかったことを聞きそびれてしまった。
「オブスキィト家に恩?」
レティスがさらに追及する。
「俺はヴェントス領に住んでるから」
「ヴェントス? ヴェントスって、炎の一夜のあったとこ?」
今度はダグラスが問う。レオの軽薄なしゃべりにつられたのか、ダグラスまで敬語を忘れている。
「そうそう。炎の一夜の舞台。あれ以降、オブスキィト家にはお世話になりまくってるから。基本的に領民はオブスキィト家には感謝してる」
「なるほど。それでデュエル隊長を助けたのか。やっぱり隊長もオブスキィトの人間なんですね。ルフレ隊長との掛け合いを見ていると、そんな気はしませんけれど」
ダグラスがさらりとルフレの話を持ち出し、レオは興味ありげな反応をみせた。
あまりルフレの話はしたくない。
今は、少し、心が乱れている。
ラピスラズリの送り主と、その意図を知りたいと思う反面、現実と向き合う怖さもある。
「ルフレ隊長って、ルミエハの人ですよね。ルミエハの人と交流が?」
レオは何も知らないふりをして聞く。しかも、きわどいラインだ。
「仕事以外で話してるのは、ほとんど見ないけど……デュエル隊長とルフレ隊長は、仕事上は良いパートナーって感じがする」
「あ、それ、俺もわかります! スミア騒動の時、ヒラリーを預かってくれたりとか、意外とデュエル隊長のこと、オブスキィトの人間としてでなく、デュエル隊長そのもので見てる感じですよね」
ダグラスに続き、レティスまでもがそんなことを言う。
それでも、彼らは知らない。
本当は、隊長同士以上の関係が存在した、あるいは存在しているということを。
「仕事以外では話さないけど、仕事に家事情は持ち込まない。……本当に一定距離を保ってるんだな」
レオがどこか呆れを含んだような口調で言う。
デュエルだって好きでそんな演技をしているわけではない。
それでも、ルミエハとオブスキィトの問題は、やはり解決しなければ次へ進めないのだ。
「とりあえず、この拘束した賊を引き取るように、ケルド伯爵家に伝達してくれないか?」
話を変えるため、あえてダグラスに、賊についての話題を振る。
すると予想通り、彼は一気に仕事モードになり、ある程度の情報をまとめた後、ケルド伯爵家の方へ向かってくれた。
「じゃあ、俺はこれで」
レオはそういって、デュエル立っている方へ向かって歩き、デュエルの横を通りすがりざまに、耳元でささやいた。
「頼みますよ、レンティシアを」
一瞬のことに思考が停止する。
そのことを確かめる前に、黒髪の青年は歩いて行ってしまった。
―――どういうこと、だよ。
ルフレは軍属してから、一度たりともレンティシアの名を名乗っていない。ミドルネームは、養成学校で、最初に書かされた登録書以外は、他のどの書類も省略して良いからだ。
養成学校から、正式名称は軍に送られているはずだが、使われていないミドルネームなど、誰も覚えていない。
ルフレだけでなく、デュエルも同じで、ミドルネームは使っていなかった。
二人だけのものだと思っていた。
―――なんで……。
デュエルはずっとルフレしか見ていなかった。
だが、ルフレはどうだったのだろうか。
ロイは、レンティを想い続けているが、レンティは、ロイのことをどう思っているのだろうか。
ロイは彼女にとって特別ではなかったのか。
それは自分の自惚れだったのか。
レイラの言葉は、実はただの慰めだったのか。応援だったのか。同情だったのか。
ロイの思考は闇に落ちていった。




