ケルドでの任務①
ケルドまでは、馬で五日ほどで着いた。
一日休んでから、町にでて、仕事は驚くほどあっさりと片付いた。
オブスキィト家当主であるデュエルの父が、ほとんど完成させてくれていたからだ。
予想以上の出来栄えに、正直、研修生二人以上にデュエルが驚いた。
しかしながら、仕事は大したことをしていないというのに、滞在三日目にして赤銅色の髪の青年は、疲れていた。
「デュエルさん! これ、食べてもらえませんか?」
「もらってください!」
「あの、お茶でもいかがですか?」
これは何の茶番だろうか。
ケルド伯爵家は、オブスキィト寄りの家である。
オブスキィトが、市場と引き換えに技術提供しているから、恩を感じるのも無理はない。しかし、これはどう考えても、恩返しというより、オブスキィト時期後継者の正妻という肩書に群がってるようにしか思えない。
「デュエル隊長は流石に顔立ちが整っているだけあって、モテますね」
どの誘いも、オブスキィトの名を汚さない程度に礼節を持って断っていくデュエルを見て、冷やかすようにレティスが言う。
「顔が整って? いや、お前のが美形だろ」
つんとしたその表情は、レティスのプライドの高さを表すようだったが、それがまた、魅力を引き出しているようにも思う。
現に、彼だってそれなりの数のお誘いを受けているのだ。
「まあ、レティスのが美形ではありますね。ですが、隊長の方が、親しみやすく、優しげな顔立ちかと」
リリイがあっさりと本音で褒め言葉を述べたのだが、デュエルはそれをプラスにはとれなかった。
そもそも、どれだけ顔立ちが整っていようが、デュエルの望む女性は振り向かないのだから、気を使ってもしょうがない。
―――ああ。また思い出した。
黒髪の少女のことを思い出すと、ついでに先日の銀細工の話が頭によぎって、心に闇が広がって収拾がつかなくなりそうになる。
「オブスキィトの名につられてるんだろ」
「デュエル隊長は、オブスキィトの名を……背負っていらっしゃらなくても、立派ですよ」
デュエルの独り言を、ヒラリーは流すことなく否定する。
ヒラリーはどうやら隊長として、デュエルを尊敬してくれているらしい。それは、スミアから寄せられるものとは違うとはっきりとわかっているから、なんだか純粋に嬉しい。
「ありがとう、ヒラリー。ところで、先日、賊に商人が襲われた道っていうのは?」
仕事があまりにもあっさり片付いたため、諜報科特殊部隊B系統の第五小隊としてではなく、諜報科として、ケルド付近の情報を集め、五人で解決できそうな小さな案件なら片付けてから帰ろうという話になったのだ。
「この町の東にある道ですね。森の中をわりあい広い道がとおっているので、馬車はとおれるものの、見通しが悪く、賊が待ち伏せするにはちょうど良い場所のようです」
ダグラスが集めてきた情報を述べる。
賊の規模によっては、治安維持隊に回す案件だが、二、三人ならば、片付けてしまえるかもしれない。
「……。よし、じゃあ、ヒラリーとリリイ、ダグラスとレティスでペアを組んで、それぞれ町で情報を集めてくれ。俺も一人で情報を集める。ヒラリーとレティスは、どうやって情報を聞いていくのか、そういうことに注意しながら、リリイやダグラスを補佐してくれ」
「了解です」
「わかりました」
ヒラリーとレティスがうなずいたのを見て、あとは任せる、と、リリイとダグラスに言い置き、デュエルは町を歩き出す。
相変わらずよってくる女性陣に、それなりに愛想をふりまき、しっかり断りながらも、話を聞いていくと、意外といろいろなことが分かった。
どうやら、襲われた商人は、商品こそとられたものの、命に別状はなかったらしい。ただ、その商品がケルド伯爵家当主の注文した品だったらしく、頭を抱えていたらしい。
ケルド伯爵は事情を聞き、商品はまた今度でよいと言っただけでなく、商人に数日分の宿と、商人が戻れるように馬車を手配したらしい。
商人の証言によれば、賊は三人で、商人が雇っていた御者と傭兵はあっさりと殺されたようだが、何故か商人には手を出さなかったということだ。
顔は布で覆って隠していたためわからないそうだが、背の高い男三人だったそうだ。
だが、どうやら女性陣の話を聞くと、その商人自体が、中年の小太りで小さ目の男らしく、どんな男でも背が高く見えたのではないかと彼女たちは嘲笑しつつも話していた。
―――実際、行ってみた方が早いか。
町を巡って、それなりの情報は集めた。
どうやら賊の人数は多くないようだし、軍の制服を着ている人間にわざわざ手をだす物好きはいないだろう。
そう思い立って、デュエルは町の東のほうへ一人で歩いて行った。




