表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
39/109

隊長の奇行の謎②

 あれは、任命式の三か月前。

 雨の日だった。

 デュエルはルフレが突如失踪した、という話をセレスから聞いた。正確には、セレスとクロッカスが話しているのを、たまたま立ち聞きしてしまった。

 セレスはルフレは無断で出ていくようなバカじゃない、と彼女を庇い、クロッカスもそれを信じて、ルフレ失踪は表面上は、休暇ということになっていた。

 デュエルは何もできなかったが、ルフレが無事戻ってきて、数日してから、二人で話したいことがあると言われた。

「私は、彼女に線を引いたんです。軍で再会した時、はじめましてと言って……。それ以来、彼女は私のわがままにつきあってくれました。その彼女が、同じ隊にいた研修生同士以上に踏み込んできたのは、軍に入ってからは最初で最後でした」

「そして、会って話を?」

「ええ。完全に昔と同じではなく、それでも、幼馴染として、お願いを聞いてほしいと頼まれました」

 彼女はデュエルと呼ぶ姿勢を崩さなかった。ロイとは呼ばす、それでも、ロイにすがった。

「彼女は、レイラ・ストケシアの死を、しかもそれが対外的に病死になる前に、クロッカス隊長と二人で、ストケシア家の使者から、レイラさんが殺されたことを聞いたそうです」

「殺された? その事実をクロッカスも知っているのか?」

「はい。知らせを受けた直後は、復讐を誓ってる様子でしたが、家の圧力に負けたのか、結局、対外的には病死になりましたが」

「レイラ・ストケシアの生家には、病死ということで通したかったということか」

「そうです。実際は、彼女は暗殺者によって殺されました」

「暗殺者?」

「はい。金で雇われたその道のプロ。だからこそ、クロッカス副科長も、あきらめたのでしょう。雇い主の情報を割り出すのは難しい」

 彼らは組織で動き、その組織では信頼でなりたつ。守秘義務を誰かが怠れば、その組織は壊滅する。だからこそ、彼らは雇い主を自白することはない。

「それがどうして彼女の失踪につながる?」

「それは、ルフレがレイラの死の真相を、一人で突き止めようとしたからです」

「そして……それを彼女は成し遂げたのか」

 疑問なのか独り言なのか。どちらにしても、やはり頭の回転が速い。

「私が聞かされたのは、犯人も動機もわかったことと、証拠がまだつかみきれず、糾弾はできないこと。また、下手に調べればクロッカス副科長の身が危ないことです。そして、頼まれたのは……」

「ルフレ・ルミエハが死んだとき、話を公にし、調べてほしいと?」

「はい」

 今でもわからない。

 彼女がどうやって犯人を割り出し、動機をも調べ上げられたのか。

 そして、どうしてデュエルに、自分が死んだら、などという条件でそんなことを託したのか。

「どこに行っていたか、については何も?」

 グラジオラスの疑問に、デュエルはあの日の記憶を呼び起こす。

「……ああ。そういえば、旧ヴェントス領には行ったと言っていました。そこでは答えのカギを見つけたと」

「ヴェントス……といえば、あの炎の一夜の?」

「彼女はアンナから、炎の一夜について相当聞かされていたようです。そのこともあって、調査のついでに立ち寄ってみたら、そこに思いがけないカギがあったのだと話していました」

 ヴェントス邸を焼き尽くした一夜。

 失われた数多くの命について、アンナは事細かに語っていたようだった。ルフレはその話に関して異常に詳細なことを知っていた。

 デュエルにとっては一番知られたくなかったことも。

「ヴェントス家のあの事件がなければ、君の隣に立っていた女性は……」

 そして、当然のように王子も知っているらしい。

「君の父上が、我が父上に話していたらしい。それなりの交友があるようで」

 デュエルの心を読んだかのような返答に、思わずため息をつく。

「ええ。あの事件で亡くなった、私と同い年だったミオ・ヴェントスは、確かに婚約者でした」

 ルフレに、いや、レンティにその話について突っ込まれた時は、その話を吹き込んだ人を恨んだものだ。

 その時、彼女の炎の一夜について詳細すぎる知識が、アンナからのものだとデュエルは知ったのだ。

「君にとって炎の一夜は……」

 さすがにその先を言うのはためらったのか、グラジオラスは言葉を切った。

 そしてデュエルはしっかりと意図をくみ取り、あえて答えた。

「……否定はしません。炎の一夜は確かに残念な事件です。起きない方が良かった。しかし、その代わりに手に入れたものの大きさは、私にとっては何にも代えられません」

 デュエルには、ロイにはレンティしかいないのだ。

 それは、会うことのなかったミオ・ヴェントスではだめなのだ。

 ロイはレンティを選んだ。それが、たとえ、両家の宿命に逆らうことでも。

「君がオブスキィトの一人息子なのに、婚約者もいないのはそういうことなのか? オブスキィトの現当主が、何やらルミエハと協調路線なのも?」

「前半ははい。後半はいいえ、です。両親はルフレとの関係を知らないはずですから」

 デュエルが答えると、碧の目がじっとこちらを見ていた。

「?」

「……まあいい。ただ、両親が知らないのにその年まで婚約者がいないというのは、どうもしっくりこない」

「それは、約束ですから」

 デュエルは、幼少期に、父とある約束をした。母がその証人だった。その約束から十年後、デュエルが十八になった時、父と剣で勝負し、もし、デュエルが勝てば、デュエルのわがままを一つ聞く、という約束を。

 その話をすると、グラジオラスは少しだけ納得したような表情を見せた。

「アベルに勝ったんだな?」

「勝ちました。そして、婚約は二十歳が終わる時まで待ってくれと頼みました」

 母が勝敗判定をし、デュエルのわがままは無事に通った。

 だが、そのわがままも、もうすぐ期限が切れる。

「二十歳が終わるまでには、あと一年ともう少し。どうにかなる算段はあるんですか?」

 突如ジオに戻って問いかける様子に、それは答えなくてもよい問いなのだとデュエルは悟る。

「それなりには。あとは……俺がルフレを落とせるか、だな」

 しかし、デュエルは答えた。

 研修生の純粋な好奇心に、一隊長として。

「先が思いやられますね」

 何故だか呆れたような顔で言うジオに、デュエルはうなだれるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ