近衛隊長の失敗
セレスは自分の失態を後悔していた。
黒髪の美女に、その黒にも見える深い緑色の瞳でにらまれるのは、そうとう怖い。
どこから失敗したのか、スミアの前でうっかりヒラリーのことについて話してしまったことだろうか。 帽子を貸した段階だろうか。その借りを返せと、スミアを押し付けたことだろうか。いや、そもそもの元凶は、ジオだ。
ジオが無駄なわがままを言うから、そんなことになった。
さかのぼること、今日の朝。
「セレス隊長! 大変です! スミアが……」
何度目だ。その台詞は。セレスは思わずため息をついた。
ユーフェミア王女付近衛隊の隊長、セレスは、ここ最近、栗色の髪の少女に振り回されっぱなしだった。
「どうしたの?」
「どうやら朝食の席で、他の研修生に、デュエル隊長に城の案内をしてもらったことを誇張して、吹聴しまわった末、騒動が……」
デュエルから、城内案内でのことは大方聞いた。
それで効果がなかったことは分かってはいたが、まさかそれをネタに騒動を引き起こすなんて。
「それで?自慢しただけでは、騒動にはならないでしょう?」
「デュエル隊長のところの研修生が、そのあまりの事実とかけ離れた話に、耐えきれなくなって口を挟んだようなんです。そしたら、その指摘が図星だったのか、なんなのか、それに逆上したらしく、どうやら皿を投げつけたらしいんです」
「……。子供じゃあるまいし。バカじゃないの……」
げんなりして、そういうと、部下はうんうんとうなずいて見せる。
「その騒ぎを、たまたま、研修生の朝食の間の前の廊下を通りがかった、ルフレ隊長の隊のシリヤ副隊長や、デュエル隊長の隊のダグラスが収拾しようと、今動いているところです」
「それで、責任者の私は、スミアの子守りをする必要がある、と?」
「そうですね。デュエル隊長の隊は、今日、たまたま依頼が複数あって、今部屋で待機しているのはデュエル隊長だけのようで、研修生をどうするか、困っているようです」
「そっか。じゃあ、私が引き取ろうかな。どうせ、研修だし」
そのぐらいの気持ちで、騒動の現場に向かった。
途中でルフレに会い、事の次第を説明する。この時に、帽子の件で、借しができたなどと言ってしまったのが、もしかしたら失態なのかもしれない。
大まかに話すと、責任を感じたようで、ルフレが研修生を預かると言った。
責任をかんじさせてしまったことに罪悪感を覚えながらも、研修生を預かってくれるというのはセレスにとって都合がよかった。
デュエルとルフレがオブスキィトとルミエハとしては規格外であり、下手すると、隊長同士、でも規格外な気は前々からしていたため、デュエルに直接交渉するように提案した。
そうして現場につき、皿を投げた、というのが想像以上に過激だったことを知り、そして、スミアとレティス、それからヒラリーを別室に連れて行き、何から話し始めようか、と思ったら、シリヤが入ってきたのだ。
「事の収拾はそれなりにつきました。ただ、研修生についてですが、スミアとレティスはともかく、ヒラリーを巻き込むのは、少し効率が悪いかと。忙しそうではありますが、デュエル隊長のところに戻されたほうが良いのでは?」
事情を知らないシリヤに、深く考えずに返事をしてしまったのだ。
スミアの前で。
「ああ。ヒラリーなら、ルフレが引き取るわ。いまごろ本人が、デュエルにその話をしに行っているでしょう」
「隊長が?そうですか。それなら、構いません。失礼しました」
そういってシリヤが部屋から出るやいなや、スミアが突然叫んだ。
「ルフレ隊長ってルミエハの人でしょう?! どうしてオブスキィトのデュエル隊長のために何かをするんですか!? 本当はあの二人は、何かあるんですか!?」
この段階になって、やっと気づいたのだ。
セレスの言葉が、何か面倒事を新たに引き起こそうとしているということを。
黒髪の美女の冷笑が、セレスの背筋をぞくりとさせる。
セレスがスミアに話してしまったことの経緯について、一通りはなしたら、深い緑の瞳が、一気に細く、鋭くなった。
「つまり……あなたの無責任な発言のせいなのよね?」
「……はい。ごめんなさい」
セレスが謝るのは、非常に珍しい。
しかし、プライドの高い流石のセレスでも、自分よりすべてにおいて秀でている、天才黒髪美女の迫力には、プライドを曲げるしかなかった。




