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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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時が満ちるまで

「殺したから、私が」

 寒い冬の日。

 しかし、この場は、違う意味で冷えていた。

 ジオは、もう、取り繕っていない、グラジオラスとして、ルフレを見ていた。

「嘘だな」

 初めて聞く、高圧的な声。

 ルフレはジオを見る。

 今までは、よそゆきの王子様。丁寧な物腰を変えることはなかった。しかし、今、ここにいるのは、陛下の息子、グラジオラス殿下だ。

 それは城での彼の姿なのだろう。

 金髪碧眼で、幼いと思っていた顔でさえ、もう、王の顔に見えた。

「殺したはずがない。君は、さっき言った。彼女は、頼れる姉のような存在にして、君の尊敬する行動力と知性を持ち合わせた女性だと」

「嘘だとは思われませんか」

「君は、自分のためには嘘をつけない」

 痛いところを付く。そう、ルフレは嘘をつくのが得意ではない。

 何かを守るために嘘をつく。その嘘でさえ、苦しいのに。

「では、殺したという発言も本当なのでは?」

 王子をしっかりと見つめる。

 こんなにしっかり王子の顔を見たのは初めてかもしれない。

 碧の瞳が、ルフレをの瞳を捉える。すべてをしゃべらせる、そんな妖しい魅力が、そこにある。

「それは、直接的なものではないんだろう。そして、間接的に君に死因があると、君がそう思い込んでいるだけで」

「違う! 思い込みなんかじゃないわっ! 本当に―――」

 ―――やばい。

 まだ、時は満ちていないのだ。

 真実は、まだ、眠っていなければならない。

「レイラ・ストケシアは、病死と聞いた」

 王子とは、こんなにもよく世の中のことを知り、覚えていられるものなのか。

 どうしてだ。どうして、彼は、知っている。わずか十四歳。

「君が毒薬を盛った、とでもいうなら、話は別だが」

 どうすればいいだろうか。

 時が満ちるまでは、レイラ・ストケシアの死因は、病気でなければならない。

 この王子は、気づこうとしている。

 否、もう、気づいている。

 ルフレがすべてを知っていること。

 レイラ・ストケシアは、殺されたこと。

「クロッカス・ストケシアと話をする必要がありそうだ」

「待ってください!」

 それは困る。

 クロッカス・ストケシアは知っている。彼女が殺されたことを。

 しかし、彼のためにも、彼女と彼の息子のためにも、レイラ・ストケシアは病死したことになっているのだ。

 クロッカスは、知らない。ルフレが、犯人も、動機すら知り得ていることを。

 彼は、レイラの死について、犯人も、動機も何も知らない。

 ―――今になって、蒸し返すなんて危険すぎる。

「話す気になったか?」

 グラジオラスが、少し表情を緩めた。

「いいえ」

 しかしルフレの返答を聞いて、驚きに目を見開く。

「まだ、です。まだ、早いのです。もう少しで、すべてを完成させられるのです。時はまだ、満ちていません」

「しかし」

「そして、時が満ちれば、私が、ルフレ・ルミエハが死んでいても、すべては明らかになるでしょう」

 しっかりと、グラジオラスを見つめる。

 その目を、今度はルフレが捉えて離さない。

「死さえも恐れない、か。それほどにまで、すべてを暴くには、時間がほしいと?」

「……はい」

 グラジオラスは、一度下を向く。

「君は、黒だと思っていたけど、本当は、深い緑の目なんだな」

「? 何度か、言われたことがあります」

 そこまでルフレをしっかり見る人は、少ないのだけれど、確かにいる。

 しかし、グラジオラスに見抜かれたのは、なにかの宿命なのか。

「ルフレさん。レイラさんに、何か、言うことがあってきたんじゃないんですか?」

 グラジオラスは、一瞬にしてジオに戻り、顔を上げた。

 それはすなわち、黙っていてくれるということなのだろう。

 心の広い王子に感謝しながら、ルフレも、彼の隊長に戻る。

「ええ。もちろん」

 そういって、もう一度、墓石の前で手を合わせ、そしてつぶやく。

「あと少しよ。レイラお姉ちゃん。あと、少しだから。待ってて」

 ルフレはもう一度誓いなおす。

 




 時は、もうすぐ、満ちる。


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