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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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答えのある場所

「ごちそうさま」

 二人はきれいに食べきった。

「……また、来てください。お嬢様」

 アンナは乳母であったときは決して使わなかった呼び方で、ルフレに話しかける。

 ルフレは少し罪悪感のようなものを感じながら、うなずいて、店を出た。

 店から出て、再び二人は歩き出す。

「聞いていいですか」

 ジオが、幼さを捨てた声で問いかけてくる。

 断らせる気は、ないらしい。

「行きたいところが、あるんだけど。ついてきてくれるかしら?」

 問いに、問いで返す。

「いいですよ。それは、質問の答えになりうる場所ですか?」

 ああ、本当に彼は鋭い。

 グラジオラスは、ルフレを静かに見つめている。

 ルフレはうなずいて、そして言う。

「そこは答えになる場所。そしてね、そこまでに、研修の話をしてもいいかしら?」

「はい。もちろんです。そのために来たんですから」

 再びころりと幼くなる声に、ルフレは苦笑を隠せない。

 ぎりぎりまで、彼には振り回されそうだ。

「基本的に、私の部隊が所属する、諜報科特殊部隊A系統は、一言でいえば、市民が何に困ってるか、それを、市民の目線で調べる。そういう意味の諜報隊なの」

「賊がでたら、ついでに処理することもあると聞きましたが?」

「そうね。現行犯ならそうするわ。でも、そういう情報をつかんだだけなら、治安維持部隊に、私たちが依頼するの」

「あくまでも、国内を安定させるために、諜報活動をするのが、この部隊。そして、半分治安維持隊ともかぶるから、市民に顔がばれていてもいいんですね」

「そうよ。私たちが、解決してくれるんだ、って思ってくれた方が、私たちに情報を与えてくれる人も増えるから、ある意味では、目立った方がいいのよ」

 ルフレの場合は、ルミエハの名と、珍しい黒髪から、目立ちすぎているが。

 ジオとルフレは、わりあい真面目な話をしながら、歩いていく。

 だんだん人気のない道に来て、ジオが少し、話しながらも不安げな様子であるのが感じ取れる。

 それでもルフレは歩みを止めず、そして、目的地の場所についた。

「ここが……答えですか?」

 ジオの問いには答えず、ルフレは、目的の場所を見つけ、そして、ひざまずく。

 ルフレの前には石。そこになにか文字が刻まれている。

 ジオは、後ろからその石を覗き込み、そして、気づく。

「レイラ……レイラ・ストケシア」

 二人の周りには、整然と墓石が並ぶ。

 ここは、墓地だった。

「ストケシアの、諜報科副科長の、ストケシア隊長の血縁ですか?」

「……それは、はい、であり、いいえ、であるわ」

「奥方様ですか」

 ルフレの言葉の意味を正確にくみ取り、ジオは言う。

「そうよ。レイラお姉ちゃんは……私の後悔と懺悔の象徴」

「さきほども、言っていましたね。どうして、ですか?」

 ジオの声が、かすかに震えている気がする。

 墓地は、静かだった。

 花ぐらい持って来ればよかったな、と後悔する。

 ここには、数か月前に来た。

 彼女の命日の日に。

 ここに来ると、彼女が、茶色の髪の女性が、微笑んでるようにも、怒っているようにも見える。

 すべてはルフレの想像。

 しかし、そんなに間違ってはいないのではないだろうか。

「ルフレさんっ!」

 墓地にジオの声が響く。

 そして、ルフレは口を開く。その言葉の震えは、ジオに仮面を捨てさせるには十分な衝撃を持っていた。

「殺したから。……私が」


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