答えのある場所
「ごちそうさま」
二人はきれいに食べきった。
「……また、来てください。お嬢様」
アンナは乳母であったときは決して使わなかった呼び方で、ルフレに話しかける。
ルフレは少し罪悪感のようなものを感じながら、うなずいて、店を出た。
店から出て、再び二人は歩き出す。
「聞いていいですか」
ジオが、幼さを捨てた声で問いかけてくる。
断らせる気は、ないらしい。
「行きたいところが、あるんだけど。ついてきてくれるかしら?」
問いに、問いで返す。
「いいですよ。それは、質問の答えになりうる場所ですか?」
ああ、本当に彼は鋭い。
グラジオラスは、ルフレを静かに見つめている。
ルフレはうなずいて、そして言う。
「そこは答えになる場所。そしてね、そこまでに、研修の話をしてもいいかしら?」
「はい。もちろんです。そのために来たんですから」
再びころりと幼くなる声に、ルフレは苦笑を隠せない。
ぎりぎりまで、彼には振り回されそうだ。
「基本的に、私の部隊が所属する、諜報科特殊部隊A系統は、一言でいえば、市民が何に困ってるか、それを、市民の目線で調べる。そういう意味の諜報隊なの」
「賊がでたら、ついでに処理することもあると聞きましたが?」
「そうね。現行犯ならそうするわ。でも、そういう情報をつかんだだけなら、治安維持部隊に、私たちが依頼するの」
「あくまでも、国内を安定させるために、諜報活動をするのが、この部隊。そして、半分治安維持隊ともかぶるから、市民に顔がばれていてもいいんですね」
「そうよ。私たちが、解決してくれるんだ、って思ってくれた方が、私たちに情報を与えてくれる人も増えるから、ある意味では、目立った方がいいのよ」
ルフレの場合は、ルミエハの名と、珍しい黒髪から、目立ちすぎているが。
ジオとルフレは、わりあい真面目な話をしながら、歩いていく。
だんだん人気のない道に来て、ジオが少し、話しながらも不安げな様子であるのが感じ取れる。
それでもルフレは歩みを止めず、そして、目的地の場所についた。
「ここが……答えですか?」
ジオの問いには答えず、ルフレは、目的の場所を見つけ、そして、ひざまずく。
ルフレの前には石。そこになにか文字が刻まれている。
ジオは、後ろからその石を覗き込み、そして、気づく。
「レイラ……レイラ・ストケシア」
二人の周りには、整然と墓石が並ぶ。
ここは、墓地だった。
「ストケシアの、諜報科副科長の、ストケシア隊長の血縁ですか?」
「……それは、はい、であり、いいえ、であるわ」
「奥方様ですか」
ルフレの言葉の意味を正確にくみ取り、ジオは言う。
「そうよ。レイラお姉ちゃんは……私の後悔と懺悔の象徴」
「さきほども、言っていましたね。どうして、ですか?」
ジオの声が、かすかに震えている気がする。
墓地は、静かだった。
花ぐらい持って来ればよかったな、と後悔する。
ここには、数か月前に来た。
彼女の命日の日に。
ここに来ると、彼女が、茶色の髪の女性が、微笑んでるようにも、怒っているようにも見える。
すべてはルフレの想像。
しかし、そんなに間違ってはいないのではないだろうか。
「ルフレさんっ!」
墓地にジオの声が響く。
そして、ルフレは口を開く。その言葉の震えは、ジオに仮面を捨てさせるには十分な衝撃を持っていた。
「殺したから。……私が」




