五十点を返上
二人の若き隊長が、トレリの軍の制度について、長々と第三王子に説明させられる少し前のこと。
赤銅色の髪の青年は、目の前に現れた金髪碧眼の童顔少年に、露骨な嫌悪を示していた。
「大人げないですね。デュエルさん。そんなに感情を表にだすなんて。そんなに不快でしたか? 諜報科Sをあなたから奪い取った女性の話、もしくは、敵家のお嬢様のお話は」
それは違う、とデュエルは思った。
正確には、突然あらわれた金髪碧眼の童顔少年が、ルフレのことをバカにしたからだ。
『期待の若手、黒髪の美人隊長さんは、S評価をとっておいて、十六で隊長になれなかったなんて、余程、人間性に問題があるんですね』
目の前の少年は、さらりとそんなことを言ってのけた。しかも、取り繕ったような幼い笑顔で。
『そうは思われませんか?デュエルさん』
その時点で、デュエルの怒りは頂点だったが、いまは、デュエルが彼女のために怒ってしまうわけにはいかなかった。
しかし、感情が表に出やすいデュエルは、少年に感じた嫌悪感を隠すことをあきらめた。
そしたら、勘違いされたようだ。
だが、今の自分には、そちらの方が都合がいい。
「そうだな。彼女は研修生の時から、いつだって俺の前を走ってた。隊長になれなくてちょっとはおとなしくなったみたいだけど」
相手は黒髪の女性ではないのだ。嘘をついたって、どうせわかりはしない。
「あなたは意外と冷静ですね。僕は疑問なんですよ。なぜ、彼女が五人から漏れてしまったのか」
「そんなの俺だって知らないよ」
その言葉は、半分は本当で、半分は嘘だ。
彼女の無断の外出が問題だった、というのは分かっている。さらに、その動機も、デュエルの中で、想像ではあるが、いくつか思い当たるものがあった。
「そうですか」
その反応が予想通りだったのか、あっさりと切り返してくる。
デュエルは、ふと思い立って、少年に尋ねた。
「名前は?」
「僕はジオ・メディウムといいます」
「メディウム? ああ。王妃殿下の」
メディウム家と言えば、現在の王妃の出身家だ。
軍に入ろうとするぐらいだから、王妃とは血縁があまり近くないのだろう。
「それにしては……似てるな」
「それにしては?」
思考の途中から口に出してしまい、ジオに首を傾げられてしまった。
「ああ。いや、軍に入ったってことは、王妃殿下とは血のつながりが遠いんだろ? それにしては、なんか、目が王妃殿下と同じだ。形じゃない、その、目の力が。立ち回りは陛下の面影がある。正直、今、ジオが実は王子だって言っても、信じるよ」
デュエルは思ったことをすべて打ち明けた。
それはさすがに予想の範疇を超えたらしい、ジオが目をまん丸くしてこちらを見る。
その表情は、先ほどまでのと違い、年相応の、大人びた様子を見せた。
「デュエルさんは、人をよく見ているんですね。正直、尊敬しました」
取り繕った幼さを取り払うと、この少年は、意外と大人びた雰囲気がある。
「言われたんだよ。周りを見ろって。俺の注意力は軍志望の奴にしては五十点だって」
そして、この少年には、思わず余計なことをしゃべらせてしまうような、そんな雰囲気がある。
「それは……いや。それを指摘するのはまだ早いでしょう。ただ、一つ言わせてもらってもいいですか?」
前半になにやら意味のわからないことをつぶやいたあと、ジオはぞくりとするような笑みを浮かべてこちらを見た。
―――やっぱりこいつ……。
「僕は兄が二人、姉が一人、いるんです」
それは、デュエルの考えを裏付けるには十分な情報だった。
「やっぱりな。気が変わったのか? 最初はジオって言っただろ?」
「そうですね。でも、あなたには知っておいてもらった方が良いかと思いまして。この後、ルミエハのご令嬢と、姉がお世話になっている女性にも、お話して、三人が知っていれば、自分の立場も安定するかと」
「なるほど。自分が配属される可能性があるのが、そこなのか」
王子ならば、戦闘科には回されまい。
それならば、諜報科と護衛科に素性を知っている人がいる方が安全だ。
「はい。それにしても、よくあっさりと僕を信用しましたね。嘘だとは思いませんでしたか?」
「嘘? 嘘かと疑うようなこと、ジオから話されてないな。俺は」
ずいぶんと頭のまわる王子を困らせようと、少し意地悪をしてみる。
「そうきますか。でも、僕は話したと思っていますよ」
負けた。
「作法を重視するか?」
暗に臣下の礼のことについて尋ねてみると、
「いいえ。目立ちますから」
にこやかに断られた。
「それでは、失礼します。デュエルさん」
去っていこうとする少年に、一つだけ、助言をする。
「ルフレ隊長には、先に名乗らない方がいいぞ」
少年は歩みをとめ、首だけ振り返る。
「どうしてですか」
「嘘をついたら絶対にばれるからだよ。嘘をつくぐらいなら、黙ってた方がいい」
デュエルの言葉に、少年は少し思案するような顔をして、しっかりとうなずいた。




