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光の奔走  作者: 如月あい
一章 光の失速
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試される隊長二人

「何から説明してほしいの?」

 覚悟を決めて、ルフレが口を開く。

 ジオはにっこりと微笑んで、研修制度から、と答えた。

「そうね。まず、トレリの軍の仕組みは、学校で習ったわね?」

 セレスも抵抗をあきらめて、話に加わる。

「はい。軍は大きく三つの科に分かれていて、それぞれ、戦闘科、護衛科、諜報科、でしたね。戦闘科は、そのまま、他国との有事に動き、陸部隊と海部隊に分かれていて、さらに相当数の小隊に分かれています。護衛科は、近衛隊と治安維持隊に分かれていて、セレスさんは近衛隊のユーフェミア王女付の部隊長ですよね。あとは、諜報科が諜報隊と特殊部隊に分かれていて、特殊部隊がさらにA系統とB系統で違って、ルフレさんはA系統の一つの部隊長ですよね?」

 ルフレは、よどみなく答えるジオの様子に、内心舌を巻く。

 普通の新兵はこんなにすらすら答えられない。三つの科は言えるだろうが、自分が配属希望をしてない科のことなど、ほとんど覚えてないのが新兵の実情だ。

 ルフレとセレスの細かい所属部隊にまで触れて説明するなど、ジオぐらいにしか無理なのではないだろうか。

「はい。正解。それで、研修っていうのは、ツンシネ両校から上がってきた―――」

「―――ツンシネ?」

 さすがのジオでも、軍で勝手に使っている、二つの養成学校をまとめた略称までは理解しがたかったらっしい。

「ツンベルギア、シネラリア両校の略、よ。面倒だから、ツンシネ両校で済ませるの。本当は、学校あがり、でもいいんだけど、それだと文官と区別つかなくて、嫌みたいなの。バカらしいことに」

 とりあえず補足してみると、合点がいったようにジオがうなずく。

「その、学校上がりの子たちを、いきなり入隊させるには、無理があるから、それぞれの適性を見る意味で、一年間、どこかの部隊で研修させるのよ。まあ、どこの部に配属されても、共通研修、といって、全部一通り研修はするんだけど、やっぱり配属されたところによって、研修内容の偏りはあるわ。研修生の各部隊振り分けは、正直いって適当。とりあえず、配属希望とはできるだけ違うのを選ぶみたいだけどね。現に、ルフレは治安維持隊だったし、私は諜報科だったから。部隊は、最低一人は研修生を受け入れなきゃいけないけど、上限はないから、隊の隊長の年齢に人数は比例するのが一般的」

「なるほど。それで、各部隊で研修をした後は?」

 セレスが交代、とばかりにこちらを見たので、ルフレが説明を始める。

「一年間、研修をした後、一の月の初めにある任命式で、配属が決定されるわ。本人の配属希望と、研修期間中にある三回の試験結果による総合成績と、研修中の隊長の報告書を合わせたうえで、各科の科長と副科長が全員の配属を決めるの。基本的に、優秀であればあるほど、自分の配属希望が通るわ。隊長がとても研修生を気に入って、本人との直接交渉を希望する場合もあるけどね」

「直接交渉とは?」

「たとえば、配属希望が戦闘科の人が、護衛科に研修に行って、そこの隊の隊長に気に入られたとするでしょ? そしたら、その隊長は、科長に申請して、本人と直接交渉権を得れるの。基本的に、気に入られるような人間は、成績上位者なわけで、本来なら、本人の希望を通すことが多いけど、本人が、その隊長のもとに残ってもいい、といえば、配属希望の変更が可能なの。そうやって決まったら、そのまま部隊に残るから、軍としてうまくまとまるし、そういうことが容認されてるのよ」

 おそらくジオは知っているはずだが、それでもさらに突っ込んだ質問をしてくる。

「では、直接交渉の結果、研修生が断ったら?」

「それは、もちろん話がなかったことになるわ」

答えながら、他に質問はないかとジオに問う。

「それでは、個人の人柄を好いて、隊長が自分の部隊に研修生を求めた場合、適性を無視した結果を招くことにはなりませんか?」

 ジオは、まったくもって真っ当な質問をぶつけてくる。

「ごめん。説明が足りなかったわね。直接交渉の結果、研修生が承認した場合、科長にその旨を伝えるの。そして、科長が総合的にそれでよいと判断した場合だけ、そこにそのまま配属されるのよ」

「なるほど。つまり、最終決定権は、科長にあるのですね」

 ジオの言葉にルフレはうなずく。

「ちなみに、総合成績って、試験の結果だけですか? それとも隊長による報告も加点の対象に?」

「両方あるわ。でも、厳密には、隊長じゃなくて、そっちは隊全員の評価、だけどね。隊長以外は、無記名で評価書を書けるの。隊長ばかりに権力を持たせると、不正が起きたりするからそれ対策で。最後に、すべての科への適性が、AからEで出される。総合的に一番その科に向いている人はSがつけられる」

「ってことは、毎年Sは三人しかもらえないんですね?」

 ルフレが答えようとしたら、セレスにその先を越された。

「そういうこと。ちなみにSがついた人は、確実に十六歳で隊長になる五人の中に入るわ。……最近の例外もあるっちゃあるけどね」

 おそらく彼女が言いたかったのは、最後の一言だろう。

 こういうところが、彼女が、諜報科適性Cになる所以なのだ。

「よくわかりました。ありがとうございます」

 ジオはようやく満足したらしい。幼い顔に、人懐こい笑顔を浮かべる。

「お二方とも、説明がお上手ですね」

 セレスがちらりとこちらを見る。

 ルフレは首を縦に振った。

 それはつまり、ジオの言葉が嘘ではない、という合図。

 その反応を見て、セレスの口元が、かすかに緩んだ、気がした。


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