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光の奔走  作者: 如月あい
序章 幼き二人の絆
19/109

後悔と決意 sideB

「ごめん、なさい……」

 震える声で謝るレンティを見たら、自分のふがいなさに泣きたくなった。



 レンティが、まっすぐにレイラに向かって走って行ったとき、ロイはそれなりに冷静だった。

 二人しか見えていない賊が、必ずしも二人だけとは限らない。まだ仲間がいるかもしれない。

 レンティは考えがある、と言った。とりあえず、二人はなんとかするだろう。

 あの時の自分はそう思った。

 ほかに仲間がいたら、それをどうにかするのが自分の役目だと思った。

 だから、レンティとレイラの前に、三人目が立ちはだかったとき、自分には何のためらいもなかった。

 レンティが男二人をどうしたのかは、見えていなかった。

 ただ、二人が立てない状況であるのは分かる。

 手が鮮やかな赤に染まっても、恐怖は……後悔はなかった。

 レンティを見るまでは。

 レンティの顔をみて、ロイは気づいたのだ。

 自分のためだと言っても、レンティは、ロイが人を傷つけたことを受け入れられていないのだと。

 それでも、その時は、まだよかった。

 だが、レンティの手も赤いことに気づいたとき、ロイの中で何かがはじけた。

 レンティが突き立てたのであろうナイフが、太ももに刺さっている男が、短剣を投げたとき、それに気づかないレンティを見て、重傷だと思った。

 平常の彼女なら、あのくらいなら、察して、避けられる。

 彼女は、ロイのしたことにも、彼女自身がしたことにも、動揺しているのだと。

 ロイは悟ったのだ。自分は、彼女を守れなかったのだと。守るどころか、傷つけたのだと。

 自分への怒りが抑えきれなかった。

 彼女が自分を心配してくれることさえ、受け入れられなかった。

 だから、いらだって返答したら、誤解された。彼女のショックを受けた顔が、まだ目に残る。

 自分の激情を少しでも落ちつけたくて、井戸の中から聞こえたレイラの声に、返答するのを、少し遅らせた。

 その直後に聞こえた、自分の名を呼ぶ悲痛な声に、後悔して、それをなだめようとして、できるだけ軽く返事をしたら、彼女が崩れ落ちて、再び後悔した。

 崩れ落ちた彼女を慰めようと、伸ばした手が、赤いことに気づいて、触れれば彼女を汚す気がして、できなかった。

 それでも、暗闇に包まれた一瞬、わずかに震える彼女を、放っておけなくて、彼女の手を包み込んだ。

 小さな、冷えた手。

 その冷たさは、気持ちよかったけれど、手の小ささには、動揺した。

 その小さな手で、男を二人も相手したのだ。

 恐怖もあっただろう。

 そして、何より、人を傷つけることを、受け入れられず、自らも傷つけてしまった。



 目の前で謝るレンティが、わからなかった。

 何に謝ることがあるのだろう。

 守れなかったのは、自分なのに。

 ロイの数百倍、人を思いやれるレンティが、人を傷つけることが、どれほど彼女自身を傷つけるのか、わかっていなかった、ロイの浅慮のせいなのに。

 彼女とともに走っていれば、彼女に手を汚させる必要はなかったのかもしれないのに。

 謝っても、足りない。

 

 ―――力が、ほしい。

 レンティを、彼女を守れる力が。

 レンティと共にいることを、認めさせる力が。

―――俺は、力をつける。レンティのために。


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