後悔と決意 sideB
「ごめん、なさい……」
震える声で謝るレンティを見たら、自分のふがいなさに泣きたくなった。
レンティが、まっすぐにレイラに向かって走って行ったとき、ロイはそれなりに冷静だった。
二人しか見えていない賊が、必ずしも二人だけとは限らない。まだ仲間がいるかもしれない。
レンティは考えがある、と言った。とりあえず、二人はなんとかするだろう。
あの時の自分はそう思った。
ほかに仲間がいたら、それをどうにかするのが自分の役目だと思った。
だから、レンティとレイラの前に、三人目が立ちはだかったとき、自分には何のためらいもなかった。
レンティが男二人をどうしたのかは、見えていなかった。
ただ、二人が立てない状況であるのは分かる。
手が鮮やかな赤に染まっても、恐怖は……後悔はなかった。
レンティを見るまでは。
レンティの顔をみて、ロイは気づいたのだ。
自分のためだと言っても、レンティは、ロイが人を傷つけたことを受け入れられていないのだと。
それでも、その時は、まだよかった。
だが、レンティの手も赤いことに気づいたとき、ロイの中で何かがはじけた。
レンティが突き立てたのであろうナイフが、太ももに刺さっている男が、短剣を投げたとき、それに気づかないレンティを見て、重傷だと思った。
平常の彼女なら、あのくらいなら、察して、避けられる。
彼女は、ロイのしたことにも、彼女自身がしたことにも、動揺しているのだと。
ロイは悟ったのだ。自分は、彼女を守れなかったのだと。守るどころか、傷つけたのだと。
自分への怒りが抑えきれなかった。
彼女が自分を心配してくれることさえ、受け入れられなかった。
だから、いらだって返答したら、誤解された。彼女のショックを受けた顔が、まだ目に残る。
自分の激情を少しでも落ちつけたくて、井戸の中から聞こえたレイラの声に、返答するのを、少し遅らせた。
その直後に聞こえた、自分の名を呼ぶ悲痛な声に、後悔して、それをなだめようとして、できるだけ軽く返事をしたら、彼女が崩れ落ちて、再び後悔した。
崩れ落ちた彼女を慰めようと、伸ばした手が、赤いことに気づいて、触れれば彼女を汚す気がして、できなかった。
それでも、暗闇に包まれた一瞬、わずかに震える彼女を、放っておけなくて、彼女の手を包み込んだ。
小さな、冷えた手。
その冷たさは、気持ちよかったけれど、手の小ささには、動揺した。
その小さな手で、男を二人も相手したのだ。
恐怖もあっただろう。
そして、何より、人を傷つけることを、受け入れられず、自らも傷つけてしまった。
目の前で謝るレンティが、わからなかった。
何に謝ることがあるのだろう。
守れなかったのは、自分なのに。
ロイの数百倍、人を思いやれるレンティが、人を傷つけることが、どれほど彼女自身を傷つけるのか、わかっていなかった、ロイの浅慮のせいなのに。
彼女とともに走っていれば、彼女に手を汚させる必要はなかったのかもしれないのに。
謝っても、足りない。
―――力が、ほしい。
レンティを、彼女を守れる力が。
レンティと共にいることを、認めさせる力が。
―――俺は、力をつける。レンティのために。




