後悔と決意 sideA
井戸からはい出た先の小屋は、レンティの予想以上にきれいだった。
物置になっているらしく、物が散乱はしているが、埃っぽさがない。
まるで誰かが住んでいるかのような、空気の流動感がある。
「これは……。確かに興味をひくかもな」
後から上がってきたロイが、小屋を見回してつぶやく。
レイラは、ロイが完全に出てから、戸を横にスライドさせて、ふさぎ、ちかくに巻き上げてあった絨毯をかぶせた。
「ここまで来れば一安心かしら。それにしても……。ごめん」
「レイラお姉ちゃん……」
「私、あなたたちの五歳も年上なのに。二人にこんなに無茶させて」
レイラはレンティをぎゅっと抱きしめた。
レイラの腕の中。懐かしい香りがひろがる。
こんな風に抱きしめてもらうのは久しぶりだ。
「あなたに、あなたたちにこんなことさせてごめん。感謝してるけど、でも、私、後悔してる。悔しい。自分が、情けないわ」
後悔が、レイラの抱きしめる腕から伝わってくる。
―――違う。こんな、こんな顔させるつもりじゃなかったの。
自分の浅慮が招いた結果だと思った。
レンティは、状況判断が甘かった。だから、ロイにも怪我をさせた、手を汚させた。
レイラの腕をそっと離し、さっきから怖くて一度も見ていないロイの方を見る。
レンティより高くなった背。大きな手。
左腕は、血は止まったようだけれど、赤に染まり、服についているものは、どちらのだろう。
ロイが、レンティを守った証なのか、人を傷つけた証拠なのか。
ロイの目が、どこか悲しげな表情を浮かべていて、彼にとっても、人を傷つけたことは重いのだとわかる。
レイラを守りたかった。
傷つけてでも、太ももにナイフを突き立ててでも守りたかった。
でも、本当は、もっと賢いやりかたがあったのかもしれない。
レンティは、レイラを、ロイを、守れなかった。
―――悔しい。悲しい。
人を傷つけ、自分の背負った罪の重さよりも、ロイに背負わせたことの方が重い。
「ごめん、なさい……」
声が情けないほど震える。
ロイの顔を見るのが怖くて下を向く。
謝っても意味がないのかもしれない。
それでも謝りたかった。
謝ることが、自己満足だと知っても、謝りたかった。
「バカ。なんでお前が謝るんだよ。謝るのは俺だよ。レンティを守れなくて、考えが足んなくてごめん。冷静になれてなくて、ごめん」
ロイが、何故か謝るけれど、レンティは首を振る。
彼は冷静だった。
彼の判断は正しかった。
ロイがいなければ、レンティは、きっとここにいなかった。
「とにかく、私の家に来て。デュエル君は、早く手当をしたほうがいい。傷はふさがってるみたいだけど、消毒とか、しないと」
レイラの声が、優しく響く。
守ったつもりで、守られた。
守るために、傷つけたら、自分だけでなく、大切な人まで傷つけた。
強く、なりたい。
力が、ほしい。
大切な人を、傷つけずに守れる強さ。
レンティは、静かに決意する。
―――強くなろう。一人でも多くの人を、守るために。




