表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の奔走  作者: 如月あい
序章 幼き二人の絆
16/109

十一歳の二人⑤

流血表現があります。

苦手な方はご遠慮ください。

 嫌な音がした。

 何かが肉を貫く音。

剣は、丸腰の二人に振り下ろされる前に、ぽとりと男の手から落ちる。

 レンティが状況を理解する間もなく、男の目が見開かれ、そのまま二人の方へ倒れてくる。

 レイラがとっさにレンティを突き飛ばし、男の体が描く軌道から二人は外れる。

 倒れた男の腰に深々とにささる短剣。

 そこから男の血がとめどなくあふれていく。

 そして、男の後ろから現れたのは、レンティの見知った少年。

「危ないっ」

 ロイは男を飛び越え、理解の追いついていないレンティの体を抱きしめるようにして、横にずらす。

 太ももを刺された男の放った短剣が、レンティのいた場所を通過し、わずかに避けそこねたロイの左腕をかすりながら通過していく。

「行くぞっ!」

 ロイはレンティを引っ張るようにして、森の奥、ルミエハ邸の方へ、向かって走り出す。

 状況把握のできていたレイラもそれに倣い、一緒に走る。

 ロイの手は、ロイ自身の血と男の返り血で真っ赤になっている。

 しばらく走って、レンティはようやく思考を取戻し、叫ぶ。

「このまま走ったら、ルミエハよっ! 私の両親はあなたを助けないっ!」

 突然、叫んで立ち止まったレンティに、ロイは走るのを止める。

「そんなのわかってる。俺はいい。とりあえず、二人は助かるだろ?」

 ロイの冷静で、その中に静かな怒りをふくんだ声が、少しずつレンティに冷静さを取り戻させる。

 走っている間、なにも気づかなかったが、ロイは怒っている。

 それも、かなり。

「怪我してるのはロイじゃない! 手当てしなきゃ」

「そんなの後だ!」

「でも―――」

 反論しようといて、それまで黙っていたレイラが手を挙げて二人を静止する。

「落ち着きなさい。ルフレ。そして、ロ……いえ、デュエル君」

 ロイはレイラに名を呼ばれたことで、驚き、少し怒りをおさめたらしい。

 深くため息をついた。

「私がこの森に入るときに使った道がある。それは、ルミエハ邸を通らないで、直接町につながってるわ。町まででれば、私の邸がある。そこで手当しましょう」

「そんな道が?」

 レンティの問いかけにレイラはしっかりとうなずく。

「ええ。使用意図は分からないけれど、わりとしっかり作られてるの」

「それなら、それで。案内してもらえますか?」

 ロイが即答する。

「もちろん。こっちよ」

 レイラに連れられ、三人は歩く。

 ルミエハ邸の門が見えるぎりぎりの位置にある、木の板でふさがれた大きな古井戸の前で、彼女は止まった。

「これが入口」

 井戸にしてあった木の板を、外して、レイラはこともなげに言う。

「井戸……?」

「なるほど、確かに、足がかかるようになってるし、降りれるな」

「ただ、ちょっと暗すぎるから、手探りでも道は二つだからいけるけど、明かりがあった方がたぶんいい」

 レイラのその言葉に、ロイが近くにあった、乾いていそうな太めの枝を拾い始めた。

 その行動に、レンティもとりあえず従う。

 まだ、頭の中はうまく回らない。

 自分の手と彼の手の赤が、レンティの思考を妨げる。

「私から降りるわ。何本か枝を貸して」

 レイラはそういうと、レンティから奪うようにして、枝を受け取り、井戸をするすると降りていく。

 井戸の中を覗き込むと、レイラの背の三倍ぐらいの深さで、思っていたほど深くなかったことを知る。

 マッチをする音が聞こえ、井戸の底が炎で照らされる。

「降りてきていいわよ」

 レイラの声が聞こえ、レンティが、ロイの方を見ると、先に行けとばかりに手を払っていた。

「枝、私が……」

「いい。俺は大丈夫だから。気を付けておりろよ」

 レンティの提案も却下され、しかたなく、枝を数本だけ持ったまま、井戸の下に降りていく。

 完全に降りたところで、レイラに枝を渡す。

 すでにレイラは二本目を燃やしていた。

「デュエル君! できれば木の板をしてきてほしいの! 枝は、私たちがいるから落としてくれても構わないわ」

 井戸の中で、レイラの声が反響する。

 返事がない。

 レンティの心臓が、異常なほど脈打つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ