十一歳の二人②
「ロイは?ロイはどうして軍なの?」
「それは……」
レンティは本当に性質が悪い。ロイにとっていちばん答えにくい質問だ。
レンティに勝てることを考えたら、自分の身体能力の高さぐらいだったのだ。しかも、あわよくば彼女を守れたら、なんて考えたのだが、そんなこと本人には言えない。
それに、彼女は女性にしてはかなり身体能力が高い。
そもそも武器の扱いも、レンティが教わっていたから、ロイも教えてもらうようになったのだ。
やっぱり十一歳になってもロイはレンティの後を追いかけている。まだ、追いついていないのだ。
「両親を見てると、軍に入ろうとする方がいいかなって」
「両親? ロイのお母様も軍に?」
話していなかったのだろうか。
レンティとは一年に二か月間だけしか会えないからか、どんなに会話を重ねても、お互いのことで知らないことはたくさん出てくる。
「いや、母さんは、シネラリア養成学校を出たけど、卒業してすぐに、父さんと婚約したから、オブスキィトがうるさくて、軍は無理だったんだよ」
「そっか。あなたの両親は恋愛結婚だったわね」
「そうそう。父さんは自分の力で家を繁栄させてみせるって、啖呵きって、もともとあった、政治的にはとてもおいしい縁談を全部拒否したから。それで今や軍の元帥だよ。オブスキィト家は今では誰も父さんを悪く言わない。下級貴族出身の母さんでさえも認められたよ」
公爵家ともなれば、普通は、せめて侯爵ぐらいの家の出身の娘を娶ることが多い。そうでなければ強大な力をもった商家などもある。
いずれにせよ、婚姻は家を繁栄させる武器となる。
王家でない以上、たしかに身分の違いはそこまで重要ではないかもしれないが、あまりに違いすぎれば、どちらのためにもならない。
違いすぎる育ちは、摩擦を生む。
ロイの母親のマリエも、下級とはいえ貴族だったから、なんとか認められたが、本当に庶民だったら、流石に厳しかったのではないかと思っている。
「すごいわよね。シネラリアで出会って、結婚するなんて。シネラリアで学ぶのは、長くても三年なのに、二年で、なんて」
ロイは、レンティの言葉に、首をかしげ、そして、ああ、と納得する。
元帥にまで上り詰めた男が、のんきに三年もかけて養成学校を卒業したとは思わなかったのだろう。
確かに、養成学校は、最短で二年で卒業できる。
それは難しいことではあるが、現在、軍の上層部にいる人間はほとんどが二年で卒業している。
だが、その能力があっても、あえてそうしないバカもいる。
「いや、違う。うちの親は、二人ともわざわざ卒業に三年かけてるんだ」
「どういうこと?」
レンティの首をかしげて問いかけてくる。とても貴重だ。問いかけにロイが答えるなんて。
流石に彼女でも、恋愛バカの思考は思いつかなかったのだろう。
「二人でできるだけ長くいたかった、そうだ」
初めて聞いたとき、たしか一年前だが、その話を聞いたとき、心底呆れた。
レンティも同じだったらしい。驚愕の表情に、わずかに呆れの色が見える。
「二人とも、うっかり二年で卒業しそうになって、あえて同じ授業の単位を落としたらしい」
「うっかり卒業って……。それだけの恋愛をして、結婚したら……子供をかわいがるのは当たり前か」
レンティは、ロイの両親には会ったことがないはずなのに、まるでどんな人物か知っているかのようにつぶやいた。
実際、ロイは愛されていると思う。
そして、両親の仲のよさも、貴族の家としては規格外だ。
「まあ、な。そもそも母さんは、父さんが格好良くて惚れたとか言ってたし、まあ、父さんは強かったんだろうから、それに憧れてるのも軍に入りたい理由」
父と同じく、軍に属して、父がやろうとしていることを手伝いたいというのも理由だが、それにはレンティも絡んでくるので、黙っておくことにした。
「へえ……。そっか。私とは反対の理由なのね」




