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光の奔走  作者: 如月あい
終章 闇と炎は光をいざない
103/109

闇は光を捉え

「だから、私は、国外に行きます。国外追放という形で構いません。そのための準備は、していました。シリヤの異動に始まり、私が消えても、ルミエハがなくなっても、すべてが回るように」

 レンティの目は、本気だった。

「バカ……」

 思わず動き出そうとした赤銅色の青年を、ジオが手で止める。

「まだ早いですよ」

 正直にいって、もう十分だと思ったが、視界の端で、自分と同じ赤銅色の髪をした女性が、静かに部屋を出て行ったのを見て、踏みとどまった。

「ついでに、オードランは吐きました。ルイスとダンテ・ルミエハによって、デュエル・オブスキィトの殺害を依頼されたと。それだけでも、あなたたちを捕まえるには十分だわ」

艶やかな長い黒髪を揺らして国王の方を向く。

「そして、これが私の話したいすべての話です」

金髪碧眼の美女は、崩れ落ち、下を向いていた顔が、ふと上を向く。

ルイスはレンティをしっかりと見ていた。

その顔には、疑問が浮かんでいる。

 王がゆっくりと立ち上がった。

「はっはっはは。これは、これは。本当に大した御嬢さんだ」

会場の雰囲気が、一気に困惑の色を強めた。

王が突然、この場面で笑い出す意味が分からない。

 どういうことかとジオを見れば、にっこりと笑みを浮かべている。

 ―――根回ししてるなら先に言ってくれよ。

 ジオが動いたのならば、国王は、ほとんどのことを知っているのだろう。

「グラジオラスから聞いた通りの人柄と見受けられる」

 深い緑色の瞳が、こちらを向く。

 その視線の先にいるのは、勝ち誇った笑みを浮かべたこの国の第三王子だった。

「父が時間を稼ぎます。マリエさんは動いたようですが、デュエルさんはどうするつもりなのですか?」

 その笑みを崩さず、そして、ルフレから視線を外さずに、ジオが囁く。

「侯爵家以下の人間がここに入ることに対する許可は、グラジオラス殿下がしてくださいますか?」

「許可する」

 デュエルはその言葉を聞いて、マリエが出て行ったのと同じ扉から、部屋の外に出る。

 そして予想外にも、そこに、すでにマリエに連れられて、二人の人物が待機していた。

「ジオは優秀ね」

 マリエが呆れたように言う。

 当初の予定から、マリエが連れて会場に入る予定だったのは、黒髪の美青年、レオだ。だから彼がここにいるのは分かる。

 しかしもう一人がすでに城の中にいるとは驚いた。

 ロイが誰を連れてくるかは、ジオに告げていなかったというのに、ロイの連れてきた人だというだけで、城に入れてくれたのだろう。

「ルフレ様……いえ、レンティシア様は、なんと?」

 アンナが、心配そうな顔でこちらを見る。

「国外に出るとか言ってます。自分の出自は不明ってことで通しました」

「……入って、発言しても構わないんですね?」

「はい、行きましょう」

 ロイは再び扉を開けて、アンナを中へといざなう。

 ジオがこちらを向き、そして、ある程度予想はしていたのだろう。こちらに寄ってきた。

「彼女が話をしたいそうです」

「わかりました。そのままルフレさんのところまで、歩いて行ってください。父は許可をするはずなので、ご自分で許可を取ってください」

 ジオの言葉に、アンナがうなずいて歩き始める。

 数名、場違いな格好のアンナに気づき、ちらちらと視線をよこすものがいる。

 その戸惑いはやがて大きくなり、そして、黒髪の女性は、こちらを向いた。

「レンティ……」

 いつも冷静な彼女の顔が、青ざめている。

 そして、それが、ロイの予測が正しかったことを確信させた。

 アンナは堂々と歩いていき、そして、王の前に礼を取って言う。

「発言をお許しいただけますか? ルミエハ家の罪に関して、補足がございます」

「アンナ! 待って!」

 必死の形相で止めようとするレンティを、アンナは首を振って制して、そして強い瞳で国王の方を向いた。

「発言を許そう。私も興味がある」

 アンナはその言葉に一度頭をさげ、そして、再び静まりかえった会場を見回す。

「アンナ……」

 懇願するレンティの肩にぽんと手を置く。

 その表情は、母が子を慈しむような、慈愛に満ちたものだった。







 会場全員の視線を受けても、アンナは全く持ってひるまなかった。

 それでも、自分が自分の子供の様に育てた、レンティシアだけは、アンナの決意を揺るがせた。

 彼女が望んでいないのは分かる。

 しかし、彼女に背負わせるわけにはいかないのだ。

「私は、ルミエハの大きな罪に関して、証言いたします」

 声は震えることはない。

 あのときの緊張に比べれば、今の状況など生ぬるい。

「ヴェントス領で起こった炎の一夜。シュトレリッツ王国全土を震撼させた、あの事件の首謀者は、ルイスおよびダンテ・ルミエハです」

 アンナに注がれていた視線が、床に崩れ落ちているルイスと、それの隣に立つダンテに注がれる。

「それを証明できるものはあるか?」

 国王の碧い瞳がこちらを向く。

「アンナ!」

 もう一度レンティシアが、アンナの名を呼ぶ。

 引き返すなら、ここが最後の地点。

 ―――もう、失うものはない。

「はい。首謀者は二人ですが、実行犯は、私ですから」

 隣で、長い黒髪がふわりと宙に浮く。それと同時に、その体が床に崩れ落ちた。

「レンティ!」

 赤銅色の青年が叫んで、彼女を支えるようにそばによる。

 会場が一気にどよめいた。

 ルイスとダンテも、大きく目を見開いて、二人の姿を見ている。

 しかし、オブスキィトの青年は、何の迷いもなく、当然のように彼女の傍についていた。

 そして、アンナと目が合う。

 その強い瞳に、アンナは息を吐き出した。彼になら任せられる。

「その言葉の意味を、ここでそれを告白することの意味を、理解しているのだな?」

「……はい。しかし、今すぐ拘束されるわけには参りません。私は、この場にいる全員に、炎の一夜の真実を話す必要があるのです」

 すでにじりりと迫る兵の気配に、アンナは国王の方を見る。

 王は、ちらりと、金髪碧眼の童顔少年の方を見た。

 少年は頷く。

「話を聞こう」

 王が厳かに告げる。

 アンナは一度大きく深呼吸して、瞳を閉じた。

 アンナの意識は一気にあの時へと、時間をさかのぼった。



次回から二か三話が、この物語で一番書きたかったシーン。

そして、どうしてもシリアス気味です。



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