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光の奔走  作者: 如月あい
終章 闇と炎は光をいざない
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光の逆襲

「それを踏まえたうえで、私はこの場で、話します。ルミエハ家の二つの大きな罪について!」

 会場が静まり返る。

 自分の鼓動の音まで響き渡りそうな静寂。

「罪? あなたが、ルミエハの、何の罪を告発すると言うのです?」

 ルイスの震える声が、その静寂の中、やけに大きく聞こえる。

 金髪碧眼の美女と、黒髪に深い緑の瞳の美女は、互いに向かい合っていた。

「一つ目の罪は、私をルミエハの血をひくものだと偽造したこと」

 会場が今度は一気に沸き立った。

 ざわめく会場の中で、ルイスだけを見ていた。

 血の気を失ったルイスは、それでもしっかりとこちらを見ている。

「私は誰の子どもか分からない。それでも、ルイス・ルミエハの子どもでないことは、証明できるわ」

 一度ここで話を区切り、会場を見回す。

 クロッカスの顔が視界に入り、少しだけ、頭を下げ、心の中で謝罪する。

「二十二年前の、医師の診断書があるわ。あなたは、その時、すでに、子どもが産めないと診断されている」

 もういちど視線をルイスに視線を戻し、そして、その憎悪を含んだ視線を、甘んじて受け止める。

「……なるほど。それはまことか? ルイス・ルミエハよ」

 国王がルイスに問う。

 ルイスは唇をかみ、そうして、うなずく。その瞳からは大粒の涙があふれている。

「私は、必死だったのです。ルミエハの血を絶やすことになるなど、直系の私のために、高貴なる血を、絶やしてしまうのが、心苦しくて……」

 ルイスは美しかった。その歳はすでに三十八歳となっているが、その美しさは衰えていない。

 その彼女が弱弱しく涙を流せば、やはり人は心を突き動かされる。

 彼女は知っているのだ。どうすれば、人を味方につけられるのかを。

「そして、私がこの軍に入って、全精力をあげ、糾弾のために力を尽くした、もう一つのルミエハの罪」

 だからこそ、待たなかった。

 どうせその涙は嘘なのだ。

 嘘は通用しない。

 嘘を見抜く力が必要だと、教えてくれた人がいたから、その能力ともいえる力を習得した。

「それは、レイラ・ストケシアの暗殺」

「っ……何を?」

 会場の視線が一気にクロッカスや、その周りの親族に集まる。

 ストケシア家は、レイラの死を病死と発表していた。

 そして、ここでフォローしなければ、彼らは協力してくれない。

「ストケシア家には、私が頼みました。病死とするようにと。そうしなければ、クロッカス様と、そのご子息の命が危なかったからです」

 もう、誰も話していなかった。

 ルイスもその涙をひっこめて、今度は、しゃんと立っている。まるでそんなのはバカげた妄想だとばかりに。

 その隣で、ダンテが、こちらを見ている。

 黒髪に、黒い瞳。その黒い瞳が、こちらを試すように見ていた。それでも、彼は眼だけは見ない。ただ漠然とこちらを見据えている。

「証拠はある。あなたたちが、暗殺者に依頼した、その依頼書が、私の手元にあるわ」

「……動機は? 我々がレイラ・ストケシアに何をされた?」

 ダンテが、静かに問いかけてくる。

 もちろん、その答えは、とうの昔に知っていた。

 思えば、十一歳のあの時から、彼女はその答えを言っていたのだ。

「オブルミの森に、井戸があるわ。それをたどると、二つの場所につながる。一つはレイラ・ストケシアの生家の飛び地。もう一つは、ルミエハ家の庭」

 ルイスが驚きに目を見開き、その手は、震えている。

「おそらく、目撃されたことに、その時から気づいていたのね。彼女は言っていたわ。幼少時、ルミエハの領地に入って、あなたを見たと。それが、ルフレ・ルミエハが生まれたとされる月のひと月前なのよ!」

 正確には、彼女はルイスを見たとは言っていなかった。

「いくら幼くても、それが生まれるひと月前の赤ちゃんを抱えている妊婦かどうかぐらい分かる。まして、ルイス・ルミエハは、体のラインを見せる服が好きだもの」

 しかし、あの屋敷のあの場所にいて、きれいな女の人とは、間違いなくルイス・ルミエハだ。

「私が十一歳の時、レイラ・ストケシアは、襲われてさらわれそうになった。オブルミの森に、あのならずものを引き入れたのは、ルミエハかオブスキィトのどちらかと考えるのが自然だわ。そして、それは、ルミエハだった」

「証拠がない!」

 ダンテが叫ぶ。

 その言葉には、うなずくしかなかった。

「ないわ。その時のことは。それでも、本当に殺人を依頼した時の依頼書は、私がこの手に持ってるわ」

「何を今さらっ……」

 ルイスがこちらをにらむ。

「いまさら? 私がどれだけこの日を待ったと思ってるんだ!」

 思いもかけない方から怒声が飛んで、それが、いつもは冷静なクロッカスが発したものだと少し遅れて気づいた。

 彼自身は、レイラの謎をずっと追っていたらしい。

 それだけ、きっと、レイラのことを愛してくれていたのだろう。

「私が、どうして今日この日まで糾弾しなかったのか、教えてあげましょうか?」

「なんだと言うのです?」

「……今、ルミエハの分家はつぶれました。ルミエハは本家しか残っていないといっていいい」

「お前、まさかっ!」

 おそらくは、自分のできうる中で最上とも思える笑みを浮かべて、ダンテとルイスを見る。

「レイラの死の真相を明かし、その時にルミエハが残っていては、ストケシアが危ういと思った。そして、私と言う存在は、おそらく、オブスキィト家に子どもができたから、無理矢理存在させられた罪だと、分かっていたわ。その原点にあるのは、くだらない、ルミエハとオブスキィトの闘争。両家の対立をなくしてやろうと思った。そしてそれは、オブスキィト家も望んでいること。だから、ルミエハをつぶそうと思った」

 赤銅色の青年が対立をどうにかしたいと思っていることは知っていた。

 レイラの死の真相を明らかにするだけでなく、そちらにも協力するのに、一番良い方法は、ルミエハをつぶすことだったのだ。

「そして、ルミエハを完全につぶすには……私の存在は、邪魔です」

 ルイスでもなく、ダンテでもなく、国王の方を向いて、静かに、言う。

「……お前の存在が邪魔だとして、それで、どうする?」

「この話が、生誕祭にふさわしかったでしょうか? 私はルミエハの人間として育った。しかし、ルミエハの血は引いておらず、この国の法律上、親の罪に問われることもない。そうなれば、やはり、ルミエハ派は私をルミエハの頂点にと望むでしょう。しかし、私はルミエハの完全なる解体を望んでいます」

「何をばかなことを言っているのです! 我がルミエハをつぶすなど、その高貴なる血を、たかだが、お前のためにつぶすなどっ……!」

「ばかなことをしたのはあなたよ。ルイス・ルミエハ。ずっと後ろめたさはあったのでしょう? だからこそ、私の目を一度たりとも見なかった。私の目は、あなたの碧でも、ダンテ・ルミエハの黒でもない。深い緑色の瞳だから」

 床に崩れ落ちたルイスと、そして、その横でただ立っているダンテと、初めてその視線が絡む。

 その目の色は、自分がルミエハでない証。

「だから、私は、国外に行きます。国外追放という形で構いません。そのための準備は、していました。シリヤの異動に始まり、私が消えても、ルミエハがなくなっても、すべてが回るように」

 さまざまな地域に単独任務を行い、ルミエハ派の勢力を削ぐと同時に、オブスキィトの勢力に回るように、その地域の産業をオブスキィトが肩代わりできるようにと、様々な策を打ってきた。

「ついでに、オードランは吐きました。ルイスとダンテ・ルミエハによって、デュエル・オブスキィトの殺害を依頼されたと。それだけでも、あなたたちを捕まえるには十分だわ」

 国王の方を向く。

「そして、これが私の話したいすべての話です」

 金髪碧眼の美女は、崩れ落ち、下を向いていた顔が、ふと上を向く。

 初めて、焦りを感じた。

 その顔は、疑問府を浮かべており、その美しい顔は、ひきつっていた。

「すべて、か?」

 金髪碧眼で、この国で最も高貴な人物は、じっくりとこちらを見定めるように問う。

 その視線は、まるでグラジオラスのようで、やはり親子だと感じた。

「はい」

 迷いない返事に、王は立ち上がる。

 そして、一瞬だけ、下を向いて、盛大に笑い出した。

「はっはっはは。これは、これは。本当に大した御嬢さんだ」


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