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光の奔走  作者: 如月あい
序章 幼き二人の絆
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ルミエハ家の夕食

二人の間に訪れた沈黙は、侍女が夕食の準備ができたことを知らせる声でやぶられた。

 アンナに見送られ、レンティは食事をとる部屋に向かう。

「お待たせいたしました」

 部屋の前まで歩いていくと、侍女が丁寧にお辞儀をして、レンティを部屋の中へいざなう。

 部屋の中には、三人で使うには広い正方形のテーブルが中央に据えられ、豪華な食事が並べられている。

 部屋に入ったばかりのレンティに向かい合うようにして座っているのは、レンティの父親。黒い髪と目の男性で、いつも笑顔でいるけれど、目が笑っていない。

 レンティから向かって左に座る女性は、自分の母親とは思えないぐらい艶やかな金髪碧眼の美女だ。

「どうしたの? はやくお座りなさいな」

「はい、お母様」

 母親に声をかけられ、レンティは母親に向かい合うようにして座る。

「いただきます」

 手を合わせてから、並べられた食事に目をやり、とりあえず目の前にあるスープを、できるだけ音をたてないように飲む。

「アンナのしつけは成功しているようね。ルミエハ家次期当主にふさわしいふるまいを、この年でできるなんて」

 母はそういって、レンティを毎食のたびに褒める。

 そうやって、レンティを縛り付ける。

「さすがは、ルイスの選んだ乳母だけあるよ」

「あら、賛成してくれたダンテだって、見る目があるのよ」

 二人はレンティに話しかけていそうで、そうではない。レンティをほめているかのようで、実は自画自賛。

「いやいやルイスは本当に、ルミエハの当主としてすばらしい女性だ。我妻ながら尊敬するよ。ここだけの話、オブスキィト家に嫁いだマリエとやらは、自分で育てたいと駄々をこねたらしい。だから、あの家の子供には乳母がいないんだ」

「まあ。まるで聞き分けのない子供のような方。オブスキィトも所詮、その程度の女しか娶れなかったということなのかしら。伝統ある我がルミエハ家ではありえないことですわ」

 ルイスとダンテはこうやって、食事のたびに何かとオブスキィト家を貶す。そうやってレンティを洗脳しているつもりなのだろうが、正直、レンティには効いていない。

 ただ、ロイに乳母がいない、という話は、少し興味をひいた。

 ロイがレンティほど、大人の事情、を知る機会がないのは彼と話していて、分かっていたが、自分の両親が直接育てているなら、納得だ。

 両親がすべてロイの目と耳を監視しているのだ。

「きっとあの家の子供は、ルフレのようにしっかりとした育てられ方をしていないんだろうな」

「そうねえ。庶民のような女の息子ですもの。貴族としての自覚がないような野蛮な息子に違いありませんわ」

 ガシャン。

 手から滑り落ちたグラスが、派手な音を立ててテーブルの下に落ちる。

「ごめんなさい。落としてしまいました」

 レンティはできるだけ平静を装って、言った。

「あら。珍しいわね。かまわないわ。子供ですもの。でも、もう、落とさないわよね」

 かまわないと言いながら、わずかないらだちを見せつつ、ルイスは言い放つ。

 そうやってレンティをいさめる時でさえ、彼女はレンティの目を見ない。

 ただ、レンティのいる方向を向いているだけだ。

 レンティは怒っていた。だが、この怒りをぶつけてしまえば、レンティを見てない両親にも、ロイとのことがばれてしまう。

「はい、二度としません。私、オブスキィトの人とは違いますから」

 その言葉に、ルイスとダンテの顔に笑顔が浮かぶ。

 そういえば、両親は喜ぶ。

 わかってはいても、実際に、ルイスとダンテの顔に笑顔が浮かんでいるのを見ると、本心ではないとはいえども、ロイを貶めた自分にげんなりする。

侍女が慌ててグラスを片付けている様子を眺めながら、たかぶる気持ちを抑える。

 その後は、ルイスとダンテがたわいもない会話を繰り広げている中で、食事が進む。

 相変わらず、両親はレンティの話を聞こうとはしないし、レンティにあえて話しかけようともしない。

 そして、レンティが食事を終えたのを見計らって、ダンテが言う。

「さあ、食事も終わったし、ルフレは部屋に戻りなさい。私たちは大人の話があるんだ」

「わかりました。ごちそう様です」

 こうやってレンティを追い出すのはいつものことだ。

 いつもは冷たい両親に、少しさみしさを感じることもあるのだが、今日ばかりは嬉しかった。

 これ以上この部屋にいたら、グラスを壁に投げつけたい気分を抑えられなそうだから。


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