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ケータイカメラ


入学式から二日。行き方は迷ったが何とか高校に来れた。

教室のドアを開ける。昨日よりも空気が柔らかかった。


「楓!おっはよ!」

れいなちゃんに呼び止められた。横にはもう一人の女の子。 

髪はセミロング。目は細い。ニキビが目立つ。遠慮がちにあたしに目を合わせた。

同じクラスの子。さっき仲良くなったんだけど、ゆみって言うんだよ。 れいなちゃんが紹介するとゆみという女の子は小さくおじぎをした。

あたしは鞄を机に置く。 隣いい?まだ時間あるし話そうよ。 れいなちゃんが言う。隣机から椅子をかりた。ゆみちゃんも前の席から椅子を持ってくる。

どこ中? 部活やってた? 初対面らしい会話が続く。

すると教室から女の子達が数人入ってきた。皆すごく派手め。巨大なシュシュをつけ、髪はお団子や巻いている子。汚く染められた茶髪。つけまつげ。スカート丈は短い。Yシャツからはネックレスが見える。香水の匂いが頭を痛くした。

あたしはこういう女の子が少し苦手。オシャレには縁が無いと思っていたからなのか。

れいなが手招きすると女の子達はこっちへきた。ピンチ。体が硬直してく。

だが女の子達はあたしとみると明るく挨拶をした。


「おはよー。何か今日暑くね?」


「う・・・ん?」

驚く。思ったよりも優しい。


「何その語尾疑問形―!ウチさ。美紀っていうんだけど、名前なんて言うの?」


「えっ・・・?あたしは楓。」


「マジ?ウチの友達にも楓って子いた!偶然―!」

マジで?親戚じゃね? 美紀ちゃんが言うと巻き毛の子が

名前は親戚関係ねーよバカ 笑いながら言う。その会話を聞いてなんだか可笑しかった。 言葉づかいは汚い。けど何となく話しやすそうと思った。



「れいな、ゆみ、楓。トランプ持ってきたからやらね?」


「うん。いいよ!やろ!」

笑顔で答えた。 二日目でトランプを持ってくるなんて。すごいな。 れいなちゃんが呟くと美紀ちゃん達は笑ってた。

不意に肩を叩かれる。


「ねぇ・・・私達も一緒にトランプしてもいい?」

振り向くと数人固まって女の子達が居た。髪は結っている。黒髪。スカート丈はあたしと同じくらい。緊張した様子で話しかけてきた。


「いいよ!皆でやった方が面白いもんね!」

さぁ入って入って。あ、机増やそうか。椅子足りる? 賑やかに話す雰囲気。

一人一人の会話。まるでメロディーのように心地よかった。

昨日まで静かだった教室。けれど今日は心地いい。

大人数でババ抜き。 ゆみちゃんはどんどん手持ちが少なくなる。凄いな。

皆楽しそうにカードを取る。クローバー。ハートの7。スペード。

あたしも笑顔になる。

中学卒業後、高校生活が不安だった。高校は未知の世界。そう思っていた。

けど違う。皆もしかしたら同じ不安を抱えていたのかもしれない。


「よっしゃ!ウチ上がり!終わりー!」

嬉しそう。美紀ちゃんは伸びをする。その後、何人か続いて上がった。

あたしはまだ。ハートの6が上がらない。

まわりが終わっていない事を見ると美紀ちゃんは暇そう。ブレザーからケータイを取る。

思いついたようにケータイをいじる。

写真とるー 美紀ちゃんはそういうと教室の隅に行った。





美紀ちゃんは教室の隅に行く。風景を取るのだと思った。





違った。

カチャリ ケータイカメラの音が響く。女の子めがけて。

一人。読書をしている女の子。隅で静かにしていた。

その子を美紀ちゃんは撮った。トランプをしていた巻き毛の子も便乗した。

トランプを放り出した。美紀ちゃんの所に行く。

二人ともピースをしてた。ピースして女の子の近くで撮った。

笑ってた。爆笑してた。さっきあたしと話してた笑顔じゃない。

残酷。恐怖。非情な笑顔。


「佐々木あゆみだっけ?あの子」

れいなちゃんが女の子を見て笑った。嘲笑うに近かった。

怖い。鼓動が早くなる。動脈がドクドクと言っている。


「なんかキモいよね。ブスだし。」



「わかる。地味だし。」


「話したくないよね。」


「無視しよ。」


繰り返されるひどい言葉。皆低い声。バカにした笑い声。

ケータイカメラの音。


数分前まで仲良くなりたいと思ったこの子達が急に怖く感じた。





あたしは信じられなかった。さっきまで楽しくトランプをしてた。なのに今ここで。あたしの席で。皆一人の女の子の悪口を言っている。美紀ちゃん達はカメラで撮っている。

悪口?違う。これは。





いじめだ。




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