第4話:ログイン
フルダイブ型のゲームは、プレイヤーの意識をゲームサーバーにログインさせて遊ぶゲームだ。
ログイン中は、意識がゲームキャラとリンクしていて、現実世界では眠っているような状態になる。
通常ならそのリンクはプレイヤーが自由にOFFできて、現実世界に戻れるんだけど。
ケイは何故戻れないんだろう?
ゲーム世界へ入る前、私は念のため病室のテーブルに置き手紙を用意した。
病院スタッフのみなさんへ
ケイの状態について調べたいことがあるので、試作品のゲームにログインしています。
昏睡ではないので、心配しないで下さい。
こんな感じで書いておけば、先生も看護師さんたちも分かってくれる筈。
フルダイブ型のゲームは今ではもう珍しくはない。
過去には、ゲームサーバーの不具合でプレイヤーが現実世界に戻れなくなる事態もあった。
病院関係者なら、この手紙を読めば私の意識が無い理由を把握する筈。
同時に、ケイがもしかしたら他の人が見ていない時にゲームにログインしたのかもって考えるだろう。
とはいえ、ケイがゲーム世界に入った経緯は異常だ。
本人の意思とは無関係、ログインアイテムを使わずに【天使と珈琲を】の世界に入っている。
本来ならログインすれば主人公の中に入るのに、攻略対象の中に入っている。
しかも、ログアウトができないという。
ケイの意志ではないなら、誰の仕業?
犯罪だとしたら、ゲームの中にケイを閉じ込めて、何がしたいの?
「ケイ、今からそちらへ行くからね」
病院の消灯時刻になり、私はパジャマに着替えると、ケイのベッドに潜り込んだ。
声をかけてみたけれど、ケイの返事は無い。
口付けても、ケイの唇は全く動かなかった。
でも、重ねた唇も、抱き締めた身体も、温かい。
微かに開いた唇から、吐息も漏れてくる。
胸に耳を当てれば、心臓の音も聞こえた。
ケイは間違いなく生きている。
私は2つの指輪の片方をケイの指に、もう片方を自分の指に装着すると、目を閉じて「ログイン」と念じた。
脳からの信号を指輪が受信し、私の意識はログインフィールドへと降りていく。
【天使と珈琲を】のログインフィールドは、青い空と白い雲が広がる場所。
ゲームスタート前のプレイヤーは、ここではまだ白い光の玉で肉体は無い。
これから作成する身体が、自分のキャラクターとなる。
『性別を選んで下さい』
ガイド音声は、私の声だ。
主人公は台詞が少ないので、私はゲームのガイド音声も担当している。
主人公の基本性別は女性だけど、男性を選択することもできる。
男性を選んだ場合、乙女ゲームからBLゲームに世界が変わっちゃうけど。
なんでそんな選択肢があるのかっていうと、このゲームのターゲットは女性プレイヤーだから、御腐人も少なからず存在するよねっていうスタッフの配慮らしい。
私はエンディングでドレスを着たいから、女主人公を選択したよ。
『容姿を選択して下さい』
主人公は基本的に攻略対象に愛されるように設定されているので、容姿の選択肢は美形が多い。
私は色白の中性的な顔立ちと細身の身体を選び、髪と瞳の色は空色を選んだ。
選んだ容姿は、開発チー厶が私をモデルにデザインしたものだった。
現実世界の体型に似せれば、違和感無く身体が動かせるので、戦闘時に有利だったりするよ。
髪と瞳を空色にしたのは、ケイと私が好きな色だから。
『メインストーリーでの年齢を設定して下さい』
このゲームはチュートリアルではみんな子供で、メインストーリーが始まると設定した年齢に変わる。
年齢は幅広く、10歳から100歳まであるよ。
私は自分の年齢よりも少し年下の、15歳を選択した。
これで私の容姿は、3年前の自分に似たものになった。
15歳は、私がケイに想いを打ち明けた歳だ。
ケイは私と暮らし始めた日から、「愛してる」と言ってくれていた。
それは多分、家族としての愛だったんだろうね。
私も最初は、ケイを好きな気持ちは自分を保護してくれる人だから好きなんだと思っていた。
それが恋愛感情に変わったのは、中学生になった頃のこと。
「ヒロ、そろそろ彼氏はできたか? できたら紹介しろよ」
私の15歳の誕生日。
ケイは何気なく聞いた感じだった。
学校の友達の中には誰かと付き合ってる子が多かったから、私もそろそろじゃないかって思ったみたい。
でも私は、死ぬまでずっとケイと2人で暮らしたいって思っていた。
誰か他の人を愛したり、付き合うなんて考えられない。
「どうしてそんなこと言うの? 私はずっとケイの側にいるよ」
だから私は半泣きで言った。。
ケイはキョトンとした後、凄く嬉しそうな顔になって、それからちょっと私の気持ちを探るように聞いた。
「それは、恋愛なんかしたくないのか、俺の恋人になりたいのか、どっちだ?」
子供のままで甘えていたいのか、恋人として愛したいのか。
ケイに問われて、考えて、私は自分の気持ちに気付いた。
「ケイの恋人になりたい」
「なら、キスできるか?」
答えたら、すぐにまた聞かれた。
もしかしたらケイは、私の答えを分かっていたのかもしれない。
照れは少しあった。
でも、迷いは無かった。
私はケイの唇にファーストキスを捧げて、以来ずっと恋人として寄り添っている。
せっかく幸せだったのに、ケイを失うなんて嫌!
必ずケイを助けて帰る!
キャラクター作成を終えた私は、強い思いを抱きながら、ログインフィールドに現れたワープゲートを通り抜けて、チュートリアルフィールドへと進んだ。




