第44話:家族
ゲーム世界で、3年の時が流れた。
私は今日もアベニアを連れて、プレ鯖にいるケイに会いに行く。
プレ鯖の都市【エデン】にあるアンティークなカフェ。
ここの個室は、特定のアイテムを持つ2人だけが入室可能な部屋だ。
私とケイは【天使と珈琲を】の開発スタッフから貰った指輪型のサーバー共有アイテムを使い、カフェの個室に入室した。
指輪は、ゲーム内に閉じ込められたケイの救出にも役立ったアイテム。
ケイがプレイヤーとしてログインするようになった今は、天界などの個人サーバーを共有することはできない。
代わりに、このカフェのようなプレイヤー共有サーバー内にあるプライベートエリアを使うことができた。
私たちは、ゲーム内で他プレイヤーの目を気にすることなく話したいときに、プライベートエリアに入っている。
今日は、息子たちに大切なことを教える日。
アベニアには私から、イスポアにはルウから、伝えることがある。
イスポアは、ルウに連れられて【神の間】へ向かった。
きっとそこで神様から水の大天使の称号と力を与えられる筈。
同時に、自分が養子であることを知ってしまうのだけど……ちょっと心配。
帰ったらしっかり抱き締めてあげよう。
アベニアには、ケイを救う鍵となったことを伝えた。
どうして獣人のお兄ちゃんが【もうひとりのパパ】なのか、教えてあげたの。
アベニアはケイを現実世界に帰してくれた恩人だから、お礼をしなきゃね。
「アビー、今日は好きなスイーツを2つ食べていいよ」
「本当?! いいの?!」
私が微笑んでカフェのメニューを手渡すと、アベニアは青い瞳をきらきらさせて聞いてくる。
いつもは1つだけだから、嬉しい筈ね。
「じゃあ、これとこれ!」
アベニアが選んだのは、大きな苺が乗ったショートケーキと、蓋つき陶器のカップに入ったクレームブリュレ。
店員さんが紅茶と共に運んでくる2つのスイーツを受け取ったアベニアは、ショートケーキだけをパクパク食べて、クレームブリュレは容器ごと紙ナプキンで大事そうに包んだ。
「どうしたの? 食べないの?」
「これは、イースにあげるの」
ニカッと笑って言うアベニアの優しさに、じんわりしちゃう。
ふと見ればケイも感動したのか、頭の黒猫耳がピーンと立ってアベニアの方を向いていた。
「アビーは優しいね」
「いい子だなアビー。でもイースにあげるお土産なら買ってあるぞ」
「そうなの?」
私がアベニアの頭を撫でていると、ケイが隣の椅子に置いてあった紙袋を持ち上げて見せる。
エデンで人気の洋菓子専門店【カカオファミリア】の袋だね。
カカオファミリアは高級チョコレートが売れ筋で、生クリームを練り込んだ濃厚な味わいのミルクチョコレートと、カカオ70%のほろ苦いビターチョコが、人気を二分していた。
「だからそれは、自分で食べていいんだぞ。アビーへのお礼だから」
「お礼?」
微笑むケイの言葉に、アベニアがキョトンとする。
ケイはアベニアの頭を撫でて、話を続けた。
「アビー、ありがとう。君がママのお腹に宿ってくれたから、俺は現実世界に帰れたんだよ」
「アビーはケイパパの恩人なのよ」
ケイと私が話す内容を、3歳のアベニアがどこまで理解したかは分からない。
けれど話を聞いたアベニアは、嬉しそうにニッコリ微笑んだ。
「そっかぁ。ボク、ケイパパを助けるために生まれてきたんだね」
天使たちは誰かを助けたり導いたりすることに「幸せ」を感じる。
アベニアは天使と人間のハーフだけど、考え方は天使に近かった。
「お土産は、4人分入ってるから、みんなで食べるといいよ」
「ありがとう! 後で買いに行こうと思ってたから嬉しい」
「ルウの分はビターにしてある。他はミルクチョコだよ」
「さすが、分かってるね」
ケイがくれたお土産は、箱入りチョコレート。
私と子供たちは生クリーム入りミルクチョコが大好き。
ケイはカカオ70%のビターチョコが好きで、ケイをモデルに作られたルウもビターチョコ好きだった。
◇◆◇◆◇
食べてもいいと言われたけれど、アベニアは可愛い蓋つきカップ入りクレームブリュレを食べずに大事にお持ち帰りした。
天使長一家の居住エリアに帰ってみると、ルウとイスポアはまだ帰ってなかった。
多分、水の大天使としての役割を教わったり、配下となる天使たちとの顔合わせがあるからかな?
「イースはまだ帰ってこないの?」
「イースはね、水の大天使になるから神様とお話しているのよ」
「どうして水の大天使になるの?」
「それはね、イスポアの魂にその役割が与えられているから」
冷蔵庫に似た保冷魔道具の中にクレームブリュレを置きながら、アベニアが聞く。
私は、アベニアにもイスポアが水の大天使になることを教えた。
「水の大天使ってどんなことをするの?」
「人界の湖や海へ行って、水を綺麗にするお仕事よ」
かつて、サキがしていた人界の水の浄化。
幼いイスポアには負担が大きいので、少しずつやってもらうとルウは言っていた。
「イース……帰ってくるよね……?」
不安を感じたのか、アベニアが涙目で問いかける。
ちょうどそのタイミングで扉が開き、ルウと手を繋いだイスポアが帰ってきた。
ハッと気付いたアベニアは駈け出して、イスポアに抱きつく。
「イース! お帰り!」
抱きつかれたイスポアは、困ったような顔で私に目を向ける。
その目は少し赤くなっていて、イスポアが泣いていたんだなって分かった。
抱き締めてあげようと思っていたけれど、アベニアに先を越されちゃったね。
私はイスポアに歩み寄り、跪いて子供2人をまとめて抱き締めた。
「愛してるよ、イース。ここはあなたの家で、私たちはあなたの家族だからね」
精一杯の愛を込めて。
私はイスポアに囁いた。




