表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】声優女子、恋人を救うためVRゲームにログインする  作者: BIRD


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/50

第38話:大切な人

 現実世界、病院のベッドの上。

 ゲーム世界からログアウトした私が目を開けると、隣に寝ていた彼が起き上がるところだった。


 ケイは自発呼吸ができていたので、呼吸器の類は付けられていない。

 補液も延々としているわけではなく、消灯時間帯ははずされていた。

 心電図、血圧、呼吸数、体温などの生体情報を測定する患者監視装置ベッドサイドモニターは接続されたままなので、ケイの胸や腕にはその端子が付いている。

 ケイはその端子やベッドの脇にあるモニターを見回した後、隣で横になっている私に気付いた。


「おはよう、ケイ。まだ夜だけど」


 私は微笑んで話しかけた。

 ケイもホッとしたように微笑む。


「3日くらい何も食べてないからお腹空いてるんじゃない? 自販機でお粥を買ってきてあげる」


 私はケイのベッドから降りると、ベッド下に置いていたカバンから小銭入れを取り出して部屋の外へ出た。

 真夜中なので売店は閉まっているけれど、自販機にはパンやカップラーメンの他に流動食もある。

 ケイは昏睡状態で3日ほど飲まず食わずで、補液だけで栄養を摂っていたから、胃腸がデリケートな状態になっている筈。

 私は自販機でフリーズドライタイプの玄米粥を買い、隣にあるポットのお湯を注いでかき混ぜて、ケイの病室まで持っていった。

  

「はいこれ。断食後の回復食に良いらしいよ」

「ありがとう」


 玄米粥を受け取ったケイは、少しずつスプーンで掬って味わいながら食べている。

 ホッとしたような顔でゆっくり食べているのは、お粥の味と共に現実世界に戻れた安堵も感じているのかもしれない。

 そんなケイを眺めていたら、私の頬をツーッと伝うものがあった。


「ごちそうさま。……ヒロ、どうした?」

「えっ? あ、なんでもない。容器片付けるね」


 食べ終えたケイが心配そうに私を見る。

 私は慌てて空になった容器を持って部屋から出た。


 自販機コーナーにある調理スペースで容器を水洗いしながら、私は次々に頬を伝う涙を止められない。

 私は、滅多に泣かないのに。



 ケイに引き取られる前、私は継母から嫌がらせを受けていた。

 大切にしていたオモチャや本を全部捨てられて、泣いたら「片付けないお前が悪い」って怒鳴られて。

 でもね、私はちゃんとオモチャ箱や本棚に片付けていたんだよ。

 だから「片付けていたのに」って言ったら、「私の目に触れるところに置くのが悪い」って。

 それで、次は机の引き出しの中にしまっておいたら、わざわざ取り出して捨てられちゃった。

 返してと言って泣いても、怒鳴られるか嘲るように笑われるだけ。

 私の大切なものは、継母がいる家には置いておけないんだって思ったよ。

 だから、あの頃の私は、大切なものを持つことをやめていた。


 今は、違う。

 私には、自分の命よりも大切なものがある。


 ケイは、私の大切な人。

 失ったら、私は生きていけない。

 ケイを助けられて良かった。

 ケイが現実世界に戻ってきてくれて、本当に良かった。



 しばらくコッソリ泣いた後、私は洗面所で顔を洗い、ペーパータオルで拭いて証拠隠滅する。

 そうして何事も無かったかのように病室に戻ったんだけど、ケイにはバレバレだったみたい。


「ヒロ、ここへおいで」


 ベッドの上で座っているケイは穏やかな声で言って、自分の隣をポンポンと叩いて呼ぶ。

 私は迷わずケイの隣に座る。

 ケイは、優しく頭を撫でてくれた。

 ピアニストみたいに指が長い大きな手で。

 その手も、そのぬくもりも、私にとって世界で一番大切なもの。


「心配かけてごめんな」


 私の頭を撫でながら、ケイが囁く。

 さっき充分泣いてきたのに、私の目からまた涙が溢れ出す。


「ケイ……痛いところ……ない? どっか苦しかったり……しない?」

「どこも痛くないし、苦しくもない。大丈夫だから落ち着け」


 止まらない涙をほったらかして、私は子供のようにしゃくり上げながら聞いた。

 ケイは子供をあやすように私を抱き締めて、頭や背中を撫でて囁く。

 ギュッと抱き合ったはずみでケイの胸に付いていた心電図モニターの端子がはずれて、看護師さんから内線がかかってきちゃったよ。

 多分、ナースセンターで異常発生アラームが鳴ってしまったんだろうね。


「広瀬さん、大丈夫ですか?」

「は、はい、大丈夫です」

「端子がはずれたみたいなので、確認してみてもらえますか?」

「はい、はずれてたので付け直しました」


 このとき、私はケイが目覚めたことは言わなかった。

 だって、言ったら医師と看護師揃ってスッ飛んできそうだから。

 ケイ以外の人に泣き顔を見られたくない。

 私は、翌朝までケイの目覚めを報せなかった。


「よし、二度寝するぞヒロ」


 私が内線通話を終えた後、ケイはベッドに横になって言う。

 まさかの二度寝提案に、私はキョトンとした。


「えっ? ケイ3日近く寝てたのにまだ寝るの?」

「あれは寝たのとは違うだろ? 脳を休ませる為に睡眠をとろう」


 ケイに言われて、私は再び彼と並んでベッドに横になる。

 おやすみのキスをしてもらうのは3日ぶりかな。

 今度は端子がはずれないように気を付けて寄り添い、私たちは朝まで熟睡した。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ