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【完結】声優女子、恋人を救うためVRゲームにログインする  作者: BIRD


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PROLOGUE

 私は、本当のお母さんの顔を覚えていない。

 唯一覚えているのは、お母さんが出て行った日に見た後ろ姿だけだった。


「お母さんは、どこへ行ったの?」

「うるせぇ! あの女の行き先なんか知るか!」


 お父さんに聞くと、ビールの空き缶を投げつけられる。

 私は、お母さんの話をすることを禁じられた。


 小学生になった頃、お父さんもいなくなった。

 何も言わずに出ていったから、どうしたらいいか分からない。

 私は、お腹が空くと台所にある物を食べて過ごした。


「ちっ、まだいたのか」

「何よ、放っておけば母親が迎えに来るんじゃなかったの?」


 やっと帰ってきたお父さんは、知らない女の人を連れてきた。

 女の人は、私を見ると凄く嫌そうな顔をする。

 その日から、女の人は台所を勝手に使うようになって、お父さんと二人で仲良くごはんを食べるようになった。

 でも、私にはごはんをくれない。

 学校の給食がある日はまだ良かった。

 夏休みは給食がないから辛かった。

 私は、台所でコッソリと米櫃から米を掴み出して食べた。


「あんた邪魔よ、あっちへ行きなさい」


 女の人が来てから、私は廊下の隅に追いやられるようになった。

 居間には入るなって言われた。

 やがて冬の寒い日に、私は無理やり庭へ追い出されて、窓も扉も閉められてしまった。


「お願い、中に入れて」


 私は寒さに震えながら家の窓を叩いた。

 雪がヒラヒラと空から降ってくる。

 気温は氷点下に近い。

 ジャージ姿では耐えられない寒さだった。

 居間でテレビを見ていたお父さんが、窓を叩く音に気付いて振り向いた。


「いつまでそこにいる気だ」


 そう言われたときは、もしかしたら中に入れてくれるかもって思ったのに。

 お父さんは窓を開けず、鍵を閉めたまま、うんざりした顔をした。


「さっさと出ていけ。ここはもうお前の家じゃねぇんだよ」


 そう言い捨てて、お父さんはカーテンを閉めてしまった。

 もう、この家の中には入れてもらえないんだ。

 私はトボトボと歩き出して、庭の垣根の外へ出た。


 行くあてもなくしばらく歩くと、公園が見えてきた。

 真夜中の公園には、誰もいない。

 私は公園のブランコに座り、独りぼっちで泣き続けた。


「どうした? 道に迷ったか?」


 突然、誰かの声がした。

 咄嗟に言葉が出てこない私は、答える代わりに首を横に振った。

 話しかけてくれた人が、こちらへ近づいてくる足音が聞こえる。

 顔を上げて振り向いてみたら、背が高くてカッコイイお兄さんがいた。


「もう遅いから家に帰った方がいいよ、風邪ひくぞ」


 お兄さんは心配してそう言ってくれたけど。

 今の私に、帰る家は無い。

 どう説明すればいいか思いつかなくて、私は黙って首を横に振る。

 すると、お兄さんは私が予想もしなかった言葉をくれた。


「君、行くとこないの? うち来る?」

「行っても、いいの?」


 それは、私にとって救いの言葉。

 聞き間違いだったらどうしようって思いながら、私は聞いた。


「うちにおいで。俺はケイ。君の名前は?」

裕菜ヒロナ


 お兄さんは「ケイ」という名前だった。

 私も自分の名前を告げた。


「じゃあヒロと呼ぶぞ。薄着で寒そうだから抱っこしていいか?」

「うん」


 お兄さんは、私を抱っこしてコートの中に入れてくれた。

 その温かさにホッとして、私は体の力を抜いた。


 お兄さんは私を抱いて公園の隣の駐車場まで歩いて行くと、車のドアを開けて助手席に私を座らせた。

 車の中は最初は寒かったけど、すぐに暖房が効いて暖かくなった。

 しばらく車で走って、窓の外を流れる景色が知らない風景へと変わり、林の中の1本道を抜けると、大きくて立派な洋館が見えてきた。


「すごい! なにこれ?! お城?!」

「お城じゃないよ、ちょっと大きいけど普通の家だよ」


 私が大騒ぎして聞いたら、ケイが笑って教えてくれた。

 広い庭の端に車を停めると、ケイはまた私を抱っこして玄関まで歩いて行った。


「オカエリナサイマセ、御主人様。オ客様デスカ?」

「ただいま、バトラ。この子の名前はヒロナだよ」

「ひろなサマ、ヨロシクオネガイシマス」

「よ、よろしくお願いします」


 立派な彫刻が施された扉を開けてお屋敷の中に入ると、家事ロボットのバトラが挨拶してくれた。

 ロボットと話すのは初めてで、少し緊張したけれど、バトラは昔のSF映画に出てくるような丸い頭に筒型のボディで、動きに愛嬌があって親しみやすかった。


「とりあえず、お風呂に入って温まるといいよ」


 そう言いながらケイが連れて行ってくれた浴室は、暖かくていい香りがする。

 バスタブは、ホカホカと湯気の立つお湯で満たされていた。


「お湯、使ってもいいの? こんなにたくさん?」


 私は、驚いて聞いてしまった。

 お父さんの家にあるお風呂は、私が使うときにはいつも浴槽が空っぽだったから。 


「え? いつもはお風呂どうしてるんだ?」

「お水。お湯はもったいないからダメって言われるの」

「そんなこと言わないから、身体を洗ったらお湯に浸かって温まるんだぞ」


 ケイは私にお湯を使わせてくれた。

 バスタブにたっぷり入ったお湯に浸かると、じんわり温かくて気持ちよくてウトウトしてしまった。


 どのくらい眠ったんだろう?

 気がつくと私はバスローブを着せられて、ケイの腕の中にいた。


「ヒロ、今日はゴハン食べたか?」

「ううん」


 ケイに聞かれて、私はボンヤリしながら答えた。

 今日は朝から何も食べてない。


「昨日は何か食べたか?」

「お米、食べた」


 ケイがまた聞いた。

 昨日は確か、お父さんたちがいない間に米櫃の米を食べることができた。


「オカズは?」

「ない」


 オカズなんて、滅多に手に入らない。

 お父さんと女の人が酔っ払って寝てる隙に、残り物を食べられたら運がいい方だ。


「お米だけ?」

「うん」


 ケイは私が頷くと、私をリビングのソファに座らせて、部屋の外へ向かう。

 しばらくして戻ってきたケイは、シチューを入れたお皿を持っていた。


「とりあえず、これ食べて」

「食べてもいいの?!」


 ケイは私の前のテーブルに美味しそうなシチューを置いた。

 食べてもいいと言われて、私は驚いて聞き返した。


「いいよ。食べてもらうために用意したからね」

「いただきます!」


 お腹が空いている私は、遠慮しなかった。

 今食べなかったら、次にいつ食べられるか分からない。

 ガツガツ食べる私を、ケイは静かに見守っていた。


   ◇◆◇◆◇


 もしもあの日、ケイが見つけてくれなかったら。

 私は今頃、どこで何をしていただろう?

 大人になる前に、死んでいたかもしれない。

 心が荒んで、悪い道へ進んでいたかもしれない。


 私は、ケイに救われた。

 ケイは私のことを児童相談所に報告してくれた。

 児童相談所が連絡すると、お父さんはすぐに親権を放棄したらしい。


 ケイは、私を引き取って育ててくれた。

 私はもうお父さんもお母さんも要らない。

 ケイだけが、私の大切な家族だ。 

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