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好響変奏曲はいぺりおるぽに子 第1期第9話より 『夕暮れの屋上と、変奏しなくていい日』

※ニーレンベルギア=オーガスタ本編中に出てくるはいぺりおるぽに子が取り憑いたフィギュア「はいぺりおるぽに子」が登場する劇中アニメ『好響変奏曲はいぺりおるぽに子』のエピソードより、一部を抜粋しました。

 響界市の夕暮れは、いつもより少しだけ音が柔らかい。


 学園の屋上。風が水色のハイポニーテールを優しく撫でていく。


 大弓・デスティニー・ぽに子は、手すりに肘をついて空を見上げていた。赤い瞳に、茜色の雲が映っている。


「……今日も虚音の気配、ゼロね。平和すぎて、逆に落ち着かないわ」


 小声で呟く。いつもの毒舌は影を潜め、どこか遠くを見つめるような声音だ。


 背後でドアが開く。


「ぽに子、またここ?」


 相棒の音羽奏太が、いつもの穏やかな笑みを浮かべて近づいてくる。手に二本の缶ジュース。


 ぽに子はぷいっと横を向きながらも、差し出されたジュースを素直に受け取った。


「……べ、別に待ってたわけじゃないんだからね。ただ、敵の監視をしてただけよ」


 奏太は苦笑して隣に腰を下ろす。


「監視って……また変奏曲のスコア見てただけじゃない?」


 ぽに子の手元には、開かれた楽譜。無数の書き込みがびっしり。


 ――好響変奏曲の新しい変奏案だ。


 ぽに子は頰を少し赤くしながら、楽譜を閉じた。


「……うるさいわね。感情の主題をどう変奏するか、考えてるだけよ。次の戦いで、もっと完璧に響かせたいだけ」


 奏太は空を見上げる。


「でも、最近は戦いがない。いいことだよね」


 ぽに子はジュースを一口飲んで、ふっと息を吐いた。


「……そうね。変奏を重ねる必要がないってことは、世界の音がまだ無事だってことだから」


 風が二人の間を通り抜ける。


 ぽに子が、ほんの少しだけ声を柔らかくして続ける。


「もし……このまま虚音が来なかったら」


 言葉を切り、赤い瞳を奏太に向ける。


「そのときは、変奏しなくてもいいかなって……ちょっとだけ、思うけど」


 奏太が驚いたように目を見開く。


 ぽに子は慌てて顔を背け、ジュースを握りしめた。


「ち、違うわよ! 別にアンタとずっと屋上でのんびりしたいとか、そんなんじゃないんだからねっ!!」


 屋上を駆け出していくぽに子。ポニーテールが夕焼けに揺れる。


 残された奏太は、優しく笑った。


「今日もぽに子の胸、訳もないのにばいんばいん揺れてたなあ……」


 遠くで、街の鐘が柔らかな音を響かせる。


 変奏を必要としない、穏やかな主題が、今はまだ続いていた。


 ――次の変奏が始まる、その日まで。


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