第42話 ごめんなさい
昼前に二人とも目を覚ました。
姫川の朝食兼昼食に付き添い、リカの元へ再び向かった。
「できることはやりました。本当なら家で数日預かった方がいいんですけど、まあ危険な状態は過ぎました。自宅で過ごしてもらっても大丈夫です。もちろん、もうスキルブーストを摂取しないことが条件ですけど」
「そりゃそうだ。きつく言うし、あいつの家の分は処分する」
「それがいいですね。結局出来損ないですし、あんなものはない方がいいですよ。そこの姫川さんとやらみたいに能力でできるならともかく」
今回はリカにお世話になった。
三人とも橘内の家に送ってもらう。
「契約書通り、ここで知ったことや見たことは話さないでください。これを破ると私でも庇えません」
リカの言葉に頷く。
もちろんだ。リカの迷惑になることをするつもりはない。
姫川も同様だった。
「正直姫川さんの能力をじっくり調べたかったんですけど」
「遠慮しておくわ。私自身はあんまり能力に良い思いをもってないし」
「残念。まあいいです。能力なので再現性があるわけでもないですから」
リカがバンの所まで送ってくれた。
相変わらず外は見えないようになっている。
ここがどこかは全く分からない。
手を振ってくれるリカにこっちも手を振りつつバンに乗り込んだ。
橘内は来た時と比べて様変わりしていた。
今ではただ眠っているだけのようだ。心配させやがって。
橘内の家に戻ると、ジズのスタッフは来た時と同じように橘内を運んですぐにいなくなっていった。
わずか数分のことだ。手際が良すぎる。
まず橘内をベッドに寝かせ、スキルブーストの容器を全てゴミに入れる。
まだ中身の残っているものもあったが、構わず捨てた。
それをゴミ捨て場に持っていく。
これで処分は完了だ。
後は出しておいた洗濯物を取り込む。
姫川は姫川で部屋の掃除などをする。
そうするうちに橘内が目を覚ました。
薬の効果が切れたのだろう。
「……なんで二人とも私の家にいるの? なんでカズヤが私のスカートを畳んでるのかな?」
唖然としていた橘内がそこにいた。
どうやら寝込んでいた頃の記憶は全くないらしい。
「本当にごめん!」
橘内はベッドの上で土下座でもするかのように頭を下げていた。
穴があったら入りたいといった様子だ。
「うぅ、まさかそんなことになってたなんて」
「大変だったぞ、色々と」
「あげくにカズヤに私の下着を洗濯されてたなんて……もう死ぬしかない」
「そんなことで死ぬな……」
点滴や投薬の効果で橘内は元気になっていた。
姫川が用意した食事を平らげ、2Lのペットボトルに入ったミネラルウォーターを飲み干す。
「あー水が美味しい」
「記憶があるのはどこからだ?」
「カズヤが一度来たのはなんとなく覚えてるかな。ただその後はあんまり」
「そのタイミングでスキルブーストを過剰摂取したのか」
「うっ。はい、そうです」
普段のふてぶてしさは別の意味で鳴りを潜めていた。
何が起きたのか分かって、申し訳なさで一杯なのだろう。
こいつも普段はちゃんとしている。
「始めはちょっと試しで使っただけだったんだけど、結構効果が有って。でも一日も経つと元に戻っちゃった」
俺と同じだ。
その場では能力が強くなるのだが、長続きはしない。
「それで、たくさん使えばもしかしたら長続きするかもと思って」
「普段のお前ならそういう無茶は絶対しないだろ。なんでそうなったんだ」
「それは……ほら、近々能力測定があるじゃん。あれに合わせたかったんだよね」
能力測定。
普段学校でやっているようなものではなく、公的な記録に残るものだ。
一学年に一度それがある。
それにいい結果が残せたら後々役に立つというわけだ。
「お前の能力はスキルブーストなんてなくても結構強力じゃないか。火なら活用方法だってたくさんある」
「でもさ、能力測定の結果が人生の多くに影響するのも事実じゃん」
「だからってあんなものに……死ぬところだったんだぞ」
冗談抜きでこれは事実だ。
見舞いに来るのが遅かったらどうなっていたか分からない。
「だからごめんって。それとありがとう」
「スキルブーストは全部処分したからな」
「それは……はい。仕方ないか」
「それで、誰に貰ったんだ? しかもあんなにたくさん。皆手に入らないってずっと探してくらいなのに」
俺が手に入れたことがあるのは伏せておこう。
橘内の入手経路が気になる。
「新しい保健の先生いるよね」
「ああ、つい最近赴任したんだっけ」
リカと一緒にいた時に話したことがある。
立ち振る舞いが堂々としていたのを覚えている。
ただ保健室には縁がないので接点はそれくらいだ。
「あの人に貰ったんだ。感想を聞かせて欲しいって。それと欲しいと言った人に配ってとも」
「だから大量に持ってたのか」
保健の教師が橘内に融通し、広めようとしていたようだ。
ただ橘内はそれを自分で全部消費してしまったようだが。
ある意味で相手の当てが外れたな。
「まさか自分の学校の教師がスキルブーストを広めようとしていたなんて思わなかったな」
「橘内さんに言われるまで私も全然考えなかった。でも広めるには良い立場だよね。保健室には色々と治療用の薬なんかもあるし」
目薬なんてあっても不思議ではない。
ああ、だから目薬の容器なのか。
俺が話した売人とやらもそこから手に入れたのだろうか。
「なるほどな。もう手は出さないよな? というか出すな。企業に目をつけられるぞ」
「分かってるよ。辛かったのだけは覚えてるもん。安易なことしちゃったなって思ってる」
反省はしているようだ。
姫川と二人で片づけを終わらせたら、丁度いい時間になっていた。
「それじゃあ俺たちは帰るから。体調が良くなったら学校にも来いよ」
「橘内さん、冷蔵庫に軽食を作って保管してあるからよかったら食べてね」
「二人とも命の恩人だよ。ありがたやありがたや」
拝んできそうだったのでさっさと外に出る。
いつもの調子に戻ってたな。
あれなら問題ないだろう。
原因になったスキルブーストも残らず処分した。
「よかったね」
「そうだな」
それなりになんとかできたのは幸いだった。
リカに借りはできたが、それくらいはたいしたことではない。
姫川もよく付き合ってくれた。
そのことを言うと、君が動いたからだよ。私は手伝っただけ。と言う。
それから姫川と別れて帰路についた。
妹には謝り倒して許してもらう。無茶したわけじゃないから許してくれ。




