表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜更かし先生  作者: HATI


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/43

第38話 能力の価値

 レジ袋を持って姫川と共に歩いているとなんだかくすぐったい気分になる。

 まるで恋人同士のような……姫川にそういう感情は持っていないのだが、不思議なシチュエーションがそうさせるのか。


 悪い気分ではない。


 あらかじめメッセージを橘内に送る。

 それからチャイムを鳴らして少し待つ。

 ……反応がない。

 メッセージにも既読がつかない。


「留守かな?」

「分からない。ただ出かけられる体調とも思えないけどな」


 かれこれ一ヶ月。これだけ長期間休んでいるのだ。ただの風邪ではないだろう。

 だが開けてくれないとどうにもならないな。


 どうしたものかと思いつつドアノブを触ると、回転する。

 そしてドアが開いた。

 ……どうやら橘内は鍵を閉めていなかったようだ。


「開いてるなんて不用心だね」

「ああ。あいつはそういうところはしっかりしている印象だったんだけど」


 ちゃっかりしているというか、抜け目がない。

 普段はあんな感じなのに美味しいところは見逃さないというか。

 よほど病気が辛くて鍵をかけ忘れたのかもしれない。


「前にあった時は橘内さんはどうだったの?」

「熱にうなされてる感じだったな。汗もすごくかいていたし……」


 さすがに肌を拭いたことは伏せておく。

 まああいつも恥ずかしいだろうし。


「でもお粥もちゃんと完食して薬も飲ませたし、あの様子ならそれほど長引きそうじゃなかったんだけどなぁ」

「心配だし、入って見ようか。ただ忘れていただけなら謝ろうよ」

「そうするか」


 普段ならもちろんこんなことはしないが、メッセージすら既読にならないし電話にも出ない。

 学校にも来ないとなると心配だ。

 何事もなければそれに越したことはない。


 ドアを開けると、鼻に甘ったるい香りを感じた。

 以前来た時はこんな匂いはしなかった気がする。


 靴を脱いで奥に行くと、橘内の寝室がある。

 まずはそこを確認しようと思い、扉を開けると……。


「ひっ」


 姫川の悲鳴が聞こえる。

 それも無理もない。

 明らかに生気を欠いた橘内がベッドに横たわっていたからだ。

 まるで死んでいるようなほどに。

 呼吸でかすかに胸が上下しているのを確認しなければ死体だと思っただろう。


「大丈夫だ、息はある」

「そ、そう? よかった」


 ホッとした様子の姫川が俺の後ろをついてくる。

 以前見た時は熱で顔が真っ赤だったが、それでもちゃんと肌艶はあった。

 今ではゲッソリと痩せこけているように見える。

 脱水症状に、恐らくまともに食事をしていないのではないだろうか?

 とりあえず生きていることが確認できてよかった。


 だがここまで衰弱しているとなると、俺たちにできることは何も無いのではないか。

 救急車を呼んで病院でちゃんとした治療を受けるべきだ。


「救急車を呼ぶ」

「うん」


 そう判断し、携帯端末から番号を押そうとした。

 だが、相手に繋がる前に携帯端末が叩き落とされる。

 ……橘内の手だった。

 どうやら目を覚ましたらしい。


「やめて。病院はダメ」


 俺の手から携帯端末を弾いただけで息が切れている。

 明らかに体力も落ちていた。


「そんなボロボロの状態で何を言ってるんだ。命に関わるぞ。金が問題だとしても、一刻も早くちゃんとした治療を受けるべきだ」

「お願い。病院はダメなの」


 なんで、と言おうとしたところで机の上に何本もの目薬が置いてあるのが見えた。

 中身は空になっており、無造作に置かれている。

 ……以前来た時はまさかと思って無視したが、これは間違いない。

 スキルブーストの入った容器だ。

 そうでなければ、目薬がこんな短期間に消費されるわけがない。


「お前、スキルブーストを使ったのか。それも大量に」

「……」


 橘内は答えなかったが、小さく頷いた。

 この原因不明の体調不良や熱はスキルブーストの後遺症か。


「だけど、別にスキルブーストは麻薬とか使用禁止薬品に指定されてるわけじゃない。使用したのが明らかになったって問題ないだろ。それにジズだってもし服用して後遺症が出たら病院で診てもらえって言ってたじゃないか」


 そう。スキルブーストは話題にはなったものの、別に社会現象を起こしたわけじゃない。

 事前に企業がそうならないように潰したんだ。

 だから使用したとしても特別罪に問われたりはしないはず。


「病院に行ったら、治療するでしょ。そしたら効果がなくなるじゃない」

「そんなこと言ってる場合か」

「そんなことって何よ!」


 弱っているとは思えない大きな声が橘内から発せられ驚いた。

 叫んだだけで呼吸が荒くなる状態で、それでも拒む。


「能力がこの世界の全てじゃん。ちょっとでも能力が足りなければ、自由なんて何もない」

「そんなことない」


 橘内が言いたいことは分かる。

 それは俺も考えたことだ。

 だがそれはあくまで選択肢が減るというだけという結論に落ち着いた。

 能力があればできた選択肢が消えるという、それだけのことだ。


 別に能力がなければ何もできないというほどこの世界は閉じているわけではない。

 やり方次第。あるいは受け取り方次第だ。


 だが意外だった。橘内がこれほど思いつめているとは思わなかったから。

 普段から平和に過ごせればいいなんて言っておきながら、内心悩んでいたんだな。

 だがなにもこんなになるほど効果が有るかも分からないものにすがる必要はない。

 今の橘内は明日にでも死んでしまいそうなほど弱々しい。

 どれほど強い能力があったとしても、こんな状態では何の意味があるのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ