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夜更かし先生  作者: HATI


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第34話 スイートルーム

 背中を向けた状態でリカの着替えを聞かされて数分後。

 ほのかに甘く頭が溶けるような香りが漂っている。

 リカが香水でもつけたのだろうか?


「こっち向いていーよ」


 リカの声で振り向く。

 見た目はただ大きめの上着をかぶっているだけに見える。


「下は着ないのか?」

「気になる?」


 当たり前だ、と言おうとした瞬間リカが裾を持ち上げる。

 思わず目を瞑るが、リカが動かないのを気配で察知して薄っすらと目を開ける。

 スパッツを身に着けていた。

 どうやらからかわれたようだ。


 それはそれとしてこの格好でもかなり扇情的だと思う。

 ただそれを言うとリカが調子に乗ってずっとからかってきそうなので言わないでおいた。


「たく。俺をからかって何が楽しいんだか」

「とっても楽しいけど?」


 ニマニマと笑うリカがここまで憎たらしいのは初めてかもしれない。

 髪をワシワシして制裁を加える。

 リカもやり過ぎたと思ったのか素直に受け入れた。

 ……昔妹がイタズラした時にやったのをついリカに向けてやってしまった。

 気恥ずかしいのとリカくらいの年頃の女の子は髪を触られるのを嫌がるだろうと思い、すぐに手を離す。


 リカが名残惜しそうにしているように見えたのは気のせいだろう。

 そしてようやく真面目な空気になる。


「それで先生、スキルブーストが手に入ったんだって?」

「ああ。これだ」


 目薬の容器に入ったそれを取り出す。


「いくら必要だった?」

「結構吹っ掛けられたよ。ただ試してみたら本当に効果が有ったから、あながち高いとも言えないかも」

「自分で試したの!? もう、副作用とかあったらどうするのよ。偽物でもいいから危ないことしないで。そんなことするって分かってたら引き止めたのに!」

「わ、悪かった。もうしないから」


 リカのあまりの剣幕につい謝ってしまった。

 たしかに迂闊だったかも知れない。

 特に副作用は感じないのだが、もし毒だったら……そう考えるとゾッとした。


 売人に値段を伝えると、リカはすぐに端末から倍の金額を入金してくれた。

 振り込まれた額を見てリカを見る。


「おい、これは貰いすぎだろ」

「いいのいいの。協力費としては安いくらいだから。伝手からたっぷり回収できるし。それに危険手当もつけないとね」


 最初は返そうとしたものの、リカは頑なに受け取らなかった。

 これは正式な報酬だという。

 リカが裕福な家の出だというのは察しがついている。

 おそらく企業のお偉いさんが親なのだろう。

 その親にスキルブーストを渡せばそれだけでも成果は十分か。


「リカ、これ悪いことには使わないよな?」

「もちろん。私を信用してよ先生。絶対に悪用はしないから。誓ってもいいよ。ちゃんとしかるべきところに預けるから」


 リカとの付き合いはそれほど長くはないが、なんだかんだで顔をあわせる機会もたくさんあって信用できると思っている。

 そのリカがこれだけ自信ありげに言うのなら任せてもいいか。


 自分で持っていても使い道もないし……。

 というか下手に持ち歩くのは危険だ。

 もし血眼になってスキルブーストを探している連中に知られたらちからずくで奪いにくるかも知れない。


 なら伝手のあるリカに任せよう。

 今いるホテルならセキリティも万全だ。

 ……張り切ってはみたものの、結局俺はただの協会に所属しているだけの一般人だ。


 この辺りが限界だろう。

 むしろ結果も出せてよくやったとすら思う。


「それじゃあ、この辺で俺は帰るよ」

「えっ!? 泊まっていかないの!? ツインだよ」

「男女の未成年同士で泊まれるわけないだろ……。それにこんな部屋の宿泊費なんて払えないよ」

「もちろん私の奢りだよ」

「なおさらだ。それに妹が家で待ってるんだ。ちゃんと帰らないとダメだろ」

「あー、そっか。妹ちゃんがいるんだった。それなら無理には引き留められないね」


 妹を放っておいて女と寝泊まりしたと知られたらどういう反応をするのだろうか。

 全く想像がつかないが、ろくでもないことになることだけは分かる。

 怒らせたり悲しませたくはない。


 リカと同じ部屋で寝たとしても間違いをおかすことはまずないが、客観的に見て泊まった時点でそう見なされるだろう。


 夜な夜な遊んでいるとはいえ、リカに変な噂が流れるようなこともしたくない。


「お泊まりを成功させるなら妹ちゃんとセットで誘うべきだったなぁ。目論見が甘かったよ」


 リカが呟きながらベッドに倒れ込む。

 服が乱れるがお構いなしだ。

 俺は近づいて直してやる。


「じゃあ後は任せたからな」

「うん。現物があれば色々手が打てると思う。調査してデメリットを誇張するなりして出来損ないだって宣伝を流せば噂も沈静化していくはずだよ」


 なるほど。そういう方法があるのか。

 噂だけが広がって今の熱狂的な状態になったのだから、キチンと調べた上で否定する。

 それを信じない人もいるだろうが、企業群に信頼している人も多い。

 少なくとも効果はあるはずだ。


 リカの泊まっているスイートルームから出て、真っ直ぐエレベーターへと向かう。

 ここは場違いすぎて落ち着かない。

 臨時収入もあったことだし、妹にケーキでも買って帰ろう。




「先生のガード硬すぎ。ちょっと誘惑すれば年頃の男の子なんて獣になって襲ってくるって雑誌に書いてたのに。全然効果なかったなー。でもそういうところも好き。超好き」


 居なくなった思い人を思い出しながらリカは枕を抱きしめて広いベッドをゴロゴロと回転する。彼とは些細なやりとりですら価値のある時間だ。しばらく浸りたい。


 しかしその思いは虚しく、テーブルの置いてあった携帯が鳴る。

 私用ではなく、ビジネス用のものだ。

 無視すると後々余計に手間がかかる。


「なに?」


 冷たい声だった。自他問わず企業の人間を相手にする時はいつもこうだ。違うのは彼の前だけ。


「代表代理。スキルブーストらしき手掛かりがありました。実働部隊の出動許可を」

「場所は?」


 部下から報告を受ける。

 万が一彼が巻き込まれるなら止める必要があるが、全く関係ないようだ。

 そのまま許可を出す。

 ジズの実働部隊なら上手くやるだろう。


「後ラボの準備をしておいて。当たりが手に入ったかもしれないから」


 携帯の通話を切る。

 調査が終わればそれを口実に彼に誘いをかけよう。

 どうアプローチしようか?

 楽しみでたまらない。


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