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夜更かし先生  作者: HATI


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第15話 不審物

 少しして足立さんから無線が入った。


「それじゃあ俺は式典の警備に合流するから上に移動する。何かあったら連絡しろよー。まあなんもないと思うけどな」

「そうだといいんですけど」


 デパートの上層では創立二十周年記念パーティーの式典が開催される。

 都市の名士も招いた式典なので警備も厳重にするらしい。

 俺はその間数合わせに呼ばれたというわけだ。


 しっかりやればまた仕事を貰えるかもしれない。

 失敗はできないぞ、と自分に言い聞かせる。


「やあやあ」


 そう思った瞬間、背中から声をかけられた。

 誰かと思って振り返ると、そこには橘内と姫川がいた。

 二人とも私服姿だ。


「もしかしてって思ったけどやっぱりカズヤじゃん。間違ってたらどうしようかと思った」

「仕事中にごめんね。橘内さんがカズヤ君を見つけたら追いかけちゃって」

「いやいや、姫ちゃんだって興味津々だったじゃん。本当に警備員やってるって」

「おいおいお前ら……。俺は仕事中だ」


 幸い廊下の端で他のお客さんからは見えにくい位置だ。

 とはいえ長話はよくないだろう。


「えー、ちょっとくらいいじゃん」

「橘内さん、デパートにも迷惑になるから」

「うっ……ならせめて私服の感想を言ってもらおうかな」


 橘内はぐいっと胸を張って服を見せつけてくる。

 ファッションの良し悪しなどさっぱり分からないので率直な感想を言うことにした。


「動きやすそうな格好でよく似合ってるよ」

「可愛いかって聞いてるの」

「はいはい可愛い可愛い」

「雑ぅ。なら姫ちゃんは」

「えっ、そんな。私はいいよ」


 姫川は両手を前に出して照れたようにして後ずさる。

 だが視線はどこか期待するようにこっちに向いたままだった。

 姫川の私服はおとなしそうな外見によく似合う落ち着いた感じのコーデだった。

 小さな帽子が可愛らしい。


「姫川も可愛いよ」

「そ、そうかな」

「この態度の差はどういうことなのかな。同じクラスメイトなのに」

「普段の行いの差じゃないか?」

「そう言われたら何も言えない」


 橘内は肩をすくめて両手を大げさに広げる。


「それじゃあ私たちは引き続き買い物に行ってくるから」

「頑張ってね、カズヤ君」

「ああ。二人とも買い物を楽しんでくれ」

「おっと、そういえば郡衙も来てたよ。アイツもデパートで買い物なんかするんだね」

「そりゃするだろ」


 じゃーねー、と言って二人はいなくなった。

 しかし郡衙の奴も来ているのか。

 目の敵にされているとはいえ、出会ってもわざわざこんなところで絡んでは来ないだろう。


 乱暴者というわけでもない。

 ただ嫌われているのは確かなので見かけても声はかけないでおくか。

 橘内と姫川がいなくなって三十分ほど経ち、十四時をまわった頃。

 お客さんの一人に外に何か変なものがあると言われて一緒に様子を見に行った。

 そこにあったのは黒いバッグだ。


 おおよそ十メートル間隔で置かれている。

 いつの間にこんな所に置かれたのだろう。

 お客さんも置かれた瞬間は見てないらしい。

 一旦無線で連絡をとることにした。


「足立さん、聞こえますか?」

「どう…た?」


 ノイズで足立さんの声が聞こえにくい。

 さっきまでは鮮明だったのに、無線の調子が悪いのだろうか。


「デパートの外に怪しいバッグが複数置かれてて、今から中身を確認しようと思います」

「なんだ…りゃ? うかつに……なよ」


 無線を切る。ノイズはあったものの、一応連絡はしたので問題ないだろう。

 念のためお客さんは離れていてもらった。

 能力で中に鉄が入っているかどうかくらいはわかるのだが、反応はない。

 一人で腰を落とし、バッグを確かめる。


 重さはかなりのものだ。持ち上げるのにも苦労する。

 ジッパーを開けた大きなバッグの中には……中身の入ったペットボトルが入っていた。

 重いわけだ。びっしりと詰め込まれている。

 中の液体はなんだろう。透明で水のように見えた。

 蓋は空いていない。ペットボトルは新品のようだ。


 周囲を確認したが、やはり持ち主らしき人物の姿はなかった。

 悪戯かなにかだろうか?

 同じようなバッグはいくつもあるし、重すぎて動かしたくはない。

 どうしたものだろうかと思っていると、こっちに近づいてくる人影が見えた。

 手前まで来てようやく止まる。


「もしかしてこのバッグの持ち主ですか? もしそうならデパートの前に置かれては困ります。持って帰って下さい」

「持って帰る? これを? 今から使うのに?」


 ガリガリの男だ。

 ぶつぶつと小さな声で呟いており、正直不気味だった。


「どうしても持って帰らないというなら、あなたを照会しなくてはいけませんよ。記録に残るのはあなたも困るでしょう」

「いいや? なんならしてみたらどうだい」


 ため息をついた。

 たまにこういう他人を困らせて喜ぶ人がいる。

 そういう人に限って挑発的で、最後にはそういうつもりはなかったと言い逃れようとするのだ。


 警備室に連れて行ってデータベースに記録を残せば向こうも諦めるだろう。

 支給された端末を相手に向けて照会ボタンを押す。


 都市のデータベースへ端末がアクセスし、相手の情報を検索する。

 そのはずだったのだが、いつまで経ってもエラーが出る。

 通信の圏外の表示が出ていた。こんな街中でそんな馬鹿な。


「どうした? 照会しないのか?」

「いえ、今してるんですがどうにも端末の調子が……」

「あいつはちゃんと仕事をしたようだな。俺も始めるか」


 ガリガリの男はペットボトルを一本手に取り蓋を開けた。


「おい、あんた。勝手なことを」

「これが邪魔だっていうんだろ。安心しろ。今すぐ片付けてやるから」


 ペットボトルを逆さにし、中の水を撒き始める。

 しかし地面に落ちた水は跳ねることなくその場に留まっている。

 物理現象を無視した光景だ。これは間違いなく能力によるもの。

 ガリガリの男と目が合う。



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