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善き吸血鬼は血を求める  作者: 岬 葉


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42 金欠の吸血鬼は魔物を圧倒する

 テネリスが地上に着地した直後、その瞬間を狙って地面が盛り上がる。瞬時に前方に飛んで回避すると、テネリスが着地した場所から黒曜石色の蛇のような魔物が飛び出した。


 その全長はおおよそ二十メートルくらいだろうか。胴部分は小さな結晶を繋げた鎖のようになっていて、月明かりに照らされて不気味に輝いている。


 そして特に注目すべきは、頭の先に生えている、何でも貫けそうな太く鋭い針だろう。地面を掘り進めるためだろう、高速で回転しているようにも見えるし、あんなものに貫かれたらただでは済まない。


「蛇……いや、ワームと言った方が正確か。随分と豪快な挨拶だな」


 ゆったりとした動きで弧を描いて地中へと帰っていくワーム型の魔物の姿を見届けたところで、また別の個体がテネリスを貫かんと足元から飛び出そうとしていた。


 今度は一歩横にずれて回避し、飛び出してきたワーム型の魔物の表面に鎌を突き刺し、それを起点にして飛び乗った。


 続けて鎌を引き抜き、その勢いで全身を使いながら鎌を振り下ろし、魔物の体を輪切りにしていく。


 魔物の皮膚は見た目相応の硬さがあるが、体の繋ぎ目のような箇所を狙い、さらに鎌を構成する血の結晶を震わせて、そこまで苦労せずに切り裂いていくことができる。


 ……まあ、そんなのは小手先もいいところで、実情はほぼ持ち前の怪力による賜物ではあるが。


 こうして魔物の半分を輪切りにし終えたテネリスは、くるくると回転しつつ、軽い身のこなしで地上に立った。辺りにどさどさと落下し、塵になっていく魔物の姿には少し爽快感がないこともない。問題は、上半分がどうなっているのかだが。


「……まだ生きておるな。中途半端にやっても意味がないというわけだ」


 鎌を構え直したところで、またテネリスの足元が僅かに振動し、盛り上がる。


「相も変わらず芸のない奴だ。それでは対策も容易だぞ?」


 テネリスは再び最小限の動きで回避し、今度はワーム型の魔物が飛び出すタイミングに合わせて全力で鎌を振り下ろした。


 テネリスを貫くべく勢いよく飛び出した魔物は、その勢いのまま鎌に突っ込み、ガガガと重い音を立てながらきれいに二枚おろしとなった。


「うむ、これが一番手っ取り早そうだ……なぜか、この光景に少し見覚えがあるな。いつの何だったか――」


 テネリスはまた盛り上がった地面を見て、魔物が飛び出すタイミングで鎌を振り下ろす。


「――ああ、そうだ。モグラたたきだ。あのゲームは、この魔物に対処する上で役に立つかもしれないぞ!」


 新たに二枚おろしにされ塵となって消えていく魔物を背景に、テネリスはドローンに向けて親指を立てた。こうして人間視点に立つこともまた、ヴァンパイアが世に受け入れられるために必要なことなのである。


「さて、次の魔物は――」


 次に飛び出してくる魔物に備えてテネリスがまた鎌を持ち直したその時、テネリスの頭上を影が覆った。


 上を見ると、半分だけになって身軽になったワーム型の魔物が、テネリス目がけて真っすぐに落ちてきていた。きっと、テネリスの足元から魔物が飛び出たタイミングで、別の場所から同時に飛び出していたのだろう。


「――……芸がないというのは撤回だな」


 魔物を視界に捉えたテネリスは、冷静に鎌を振るって魔物の先端の針を折り、掘進力を失って地面に激突した魔物を蹴り飛ばした。魔物は放棄されていた車を巻き込んで街路樹にぶつかり、土煙を上げる。


 ……それによく見ると、半透明な四足歩行の魔物も巻き込んでいた。


「少し妙な気配があるとは思っていたが、そんなのもいたのだな……」


 もしかしたらこの魔物が本命だったのかもしれないが、流れ弾でやられてしまうとはあっけないものだ。




 そして五分後。おおよそ十体程度の魔物を無傷で倒したテネリスは、穴だらけの地面を背景にドローンへと語りかける。


「――というわけで、魔物はすべて捌き終えた。どうだ、少しは私の評価が改められたのではないか?」


 テネリスは「すまほ」を取り出し、コメントを覗く。


 ・魔物ざこ 自作自演でしょw

 ・ICOが向かってるかもしれないから早く逃げた方がいいよ

 ・そんなことよりはよ姿見せろ

 ・俺も蹴ってください!!

 ・立ち入り禁止区域荒らして楽しいですか??

 ・通報されてるから逃げてー

 ・急いで離れてください!

 ・祥雲ユキvsインビジブルはよ!!


「む、それは面倒だな」


 立ち入り禁止区域と言われている場所で配信しているのだから当然なのだが、ICOにも捕捉されているようだ。今回はさっさと撤収するのが吉だろう。


「では、足早だが今回の配信は以上だ。次は平和に話せることを望むぞ。では、よき夜を」


 手短に配信を締めたテネリスは、配信を終了してドローンを抱え、背に翼を生やしてその場から飛び去った。念のため空から街の様子を一望したが、魔物の討ち漏らしも無さそうだ。


「……こういう場所でも活動できないとなると、いよいよ災害を望むしかなくなりそうだが……ううむ、どうしたものか」


 正義の立場を示していくために、今後の配信で何をしていくべきだろうか?


 テネリスは悩みつつ、夜風を浴びて帰途についた。幸いというべきか、とくにテネリスを倒そうと魔法少女が現れるようなこともなかった。






「――番号札、七番。診察の時間だ」


 それからのテネリスは、淡々と治療院の手伝いをしていた。受付として順番待ちの患者を呼びつける様子はまるで刑務所の看守のようだが、これはこれでなぜか評判がいい。


「うーむ……」


 別に他の事務作業をするでもないので、手持無沙汰になる。そうなれば必然的に、待合室についているテレビの音声に耳を傾けることになる。今日も今日とて、ニュースだったり、ランチグルメの紹介だったり、インビジブルのことであることないこと妄想を膨らませるコメンテーターのお言葉を聞いたり、魔法少女たちがキャッキャと仲良くしている声を聞くことになる。


「どうしたものか……」


「テネリスちゃん、何か悩みごとかい? おじさんでよければ相談に乗るよ」


 頬杖をついてため息を零していると、常連の患者の一人が声を掛けてきた。例えるなら娘にお節介する親戚のような接し方とでも言おうか。なので不快感などはないが……相談相手として適格かと言われると疑問符である。


 とはいえ無視するのも何なので、やんわりと答えておくことにした。


「簡単に言うと、大きな目標があるが、それに向けて次にすべきことが見つからず、悩んでいるのだ。そういうとき、どうする?」


「んー、なるほど。そういう悩みか。テネリスちゃんも乙女だねえ」


 物憂げなテネリスの言葉に、常連は理解した。


 ――これは疑うまでもなく、恋に関する悩みだろう。テネリスは贔屓目にみても芸能人級のビジュアルを持っていて、当然多くのアプローチを受けている。なのに、一番気になっているあの人だけは全然振り向いてくれず、どうにか気を引こうと色々策を練ったが鳴かず飛ばず。ついに策も尽きてしまい、どうしたらいいかわからなくなってしまった――そういうことだと、超速で誤った方向に理解した。

 

「そうだな、おじさんからできるアドバイスは少ないかもしれないけれど……一つ、間違いなく言えることがある」


「ほう、随分と大きく出たな。言ってみるがいい」


 テネリスが指先で机を叩きつつ続きを促すと、常連は机にもたれかかり、したり顔で告げる。


「それはね、後悔するような選択はしない方がいいってことさ。人は、やって後悔することよりもやらないで後悔することの方が多いと聞いたことがある。一歩勇気を出して大胆に行動してみたらどうだい」


「ふむ……まあ、参考にしよう」


 ヴァンパイアが配信をするというのは、それだけで十分に大胆な行動だとは思うが……この常連の言葉に則ると、もっと大胆な行動が必要ということか。


「例えば、そうだなあ……まずは食パンを用意するんだ。それで、角で相手が来るのを待ち構えて――」


「お前は何の話をしているのだ?」

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