第9話 Runaway夏野
街中の辺鄙な場所に温浴施設があったので幽霊さんと共にお邪魔させてもらった。
幽霊さんの方は人気がなくて快適だったらしいが、俺の方では冒険者とかいう傭兵部隊みたいな集団が利用中でかなり窮屈な思いをさせられたものだ。
体が傷だらけなうえ黒光りした筋肉ムキムキの益荒男達に囲まれて入る温泉は居心地が悪いうえに、その分厚い筋肉の壁に阻まれてなかなか湯から出ることができず俺はのぼせてしまった。
「ったく、だらしねぇな」
「いやぁ、面目ない。少ししたら良くなるから待ってて」
「ほんっと先が思いやられるヤツだぜ。そんなんで異世界やっていけんのかよ?」
「それは正直知らんし、できれば帰りてぇよ」
風呂上がり、俺と幽霊さんは温浴施設の休憩の間にいた。のぼせあがった俺は座椅子に座り天井を眺め、熱が引くまでジッとしていた。
落ち着くまで時間を要する。俺は幽霊さんに付き添ってもらい、しばらくそのまま過ごしていたら、先程まで湯にいた冒険者の男連中がぞろぞろと現れ始めた。彼らは何やら大きな声で話をしている。
「なぁ、聞いたか? 最近ここら辺で『転移者』っていうヤツが現れたみたいだぜ」
「らしいな。お尋ね者扱いされてるんだったか? ああいう異界の連中ってのは貴重だからな。捕まえたら結構な額が手に入るかもだぜ。かわいそーな話だよなぁ? 噂によるとひでぇ拷問にかけられて、異界の情報を根こそぎ吐かされるみたいだからな」
「確か……話によると歳若いガキだったな。変な生物を連れ歩いているって話も聞くぜ?」
「…………」
「…………」
彼らの話を聞いた俺と幽霊さんは顔を見合わせた。
「なぁ、あれってお前のことじゃねぇ?」
「…………いや、そんなまさか……」
と言いつつ、特徴がそのまんまである。俺はまだ十五歳の子供だし、変な生物が幽霊さんのことなら当て嵌まる。街中を歩いている時に眼をつけられたのだろうか。
「…………」
「…………」
無言のまま、俺は彼らに気付かれないようこっそりとその場から離れる。
だが––––。
「なぁ、あいつ何してんだ?」
「さぁ? なんか怪しい動きしてんな」
#匍匐__ほふく__#前進で施設の入口まで向かう俺を目ざとく見つけるギルドの冒険者連中。俺は背筋に嫌な汗をかいていた。
「おい、見つかったぞ! さっさと逃げんぞ!」
「お、おおう……っ!」
「あっ! あいつ、逃げやがったぞ!?」
俺は幽霊さんのボディを抱えて外に出ると、そのまま遠くまで走って逃げた。不幸中の幸いではあったがどうにか逃げ切ることができ、俺はマスターがいる喫茶店まで戻って来るのだった。




