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第6話 夏野、落ち込んでいたら幽霊と再会する

 バイトをクビになった俺は河川敷に来ていた。むしゃくしゃした気持ちを慰めるため、ひとりになりたかったのだ。


 俺は草原の坂道に座り込み、ひたすら雑草を千切ったり、川に向かって小石を投げつけたりしていた。そんなことをしても無意味であるのに。


「はぁ……一日分のバイト代はどうにか手に入ったけど、こんなのすぐになくなるよな。マスターにはメシ代くらい自分で工面しろって言われてるし、次の仕事も決まってもないし、簡単に使うわけにはいかねぇよな」


 手の中にある紙幣を見つめながら、深く溜め息をつく俺。


 仕事をまた探すといっても、身分のよくからない人間を都合よく雇ってくれる所なんてそうそうないだろう。


「この雑草、茹でたら食えるかな? 山菜や木の実でも採りに行けば食費を賄えるかも……」


 空腹である。昼メシなんてもちろん食べていない。雑草でも何でも食えるならそうしたいものだ。しかし、俺にはそうしたサバイバルの知識がない。腹を下して余計に苦しむだけである。


「そうだ! 魚でも獲るか……? いや、そもそも釣具がねぇし、そもそもエサになるもんあるなら俺が食いてぇくらいだしな」


 自給自足の生活も知識と準備があってこそ成り立つもの。そもそもアルバイターからサバイバーになってはタイトル詐欺もいいところである。


 そうして、ずっと落ち込んでいたら草葉の陰から何かが動くのを眼にした。ガサガサと長く伸びた草が揺れ、這い出て来たのは薄汚いクマのぬいぐるみであった。


「おい、貴様!」


「————なっ!?」


 俺は驚いた。なぜなら自立歩行するクマのぬいぐるみが唐突に現れたかと思いきや、いきなり俺に指を差し、怒りっぽく話しかけてくるのだから。これには開いた口も塞がらない。


「『————なっ!?』じゃねぇよ! バトル漫画にありがちなリアクションしやがって! こんなところでお前と会うたぁ奇遇なもんだな! お前から受けた苦痛、忘れたとは言わせねぇぞ!!」


 謎のぬいぐるみはどうやら本当に怒っているらしい。とはいえ心当たりがない。ひとから、というかクマのぬいぐるみから怨みを買うような真似をした覚えがない。


「どちら様で……? ていうか、何でぬいぐるみが動いてんの?」


「はん、こまけぇこたぁどうでもいいだろ。問題なのはお前から受けた仕打ちのことだ!」


「(細かくはないと思うけどなぁ……)」


 と思いつつも言葉には出さなかった俺である。動くぬいぐるみに関してもすんなりと普通に受け入れられたのは、異世界に連れて来られた俺自身の事案が大きい。


 世の中、不思議なことって多いよな。


「仕打ち、って何のこと?」


 俺が聞き返すと、ぬいぐるみは更に激怒して荒ぶった。


「ハーモニカだよ!! ハー・モ・ニ・カッ!! 忘れたとは言わせねぇぞ!!」


「ハーモニカ……さては、キミは……っ」


 頭の中でピーン、と来る俺。


「俺のファン、ってコト?」


「違うわボケェ!! あんなヘタクソな、地獄みてぇな音色奏でやがって!! こっちは実体ねぇのに頭がパーンッって爆発するかと思ったわ!! 死んでのに走馬灯見せられた挙句、三途の川も百往復くらい行ったり来たりのシャトルランさせられたんだぞ!! あんなもん聴くくらいならオッサンの腹太鼓コーラスを聴いてた方がまだ余韻にも浸れるわ!!」


 相当な言われようである。して、このぬいぐるみの正体とは……。


「喫茶店! 二階! 空き部屋ァ!! そこにいた幽霊だよ!! お前が来るまでのんびり暮らしていたのによォ!! 追い出されたんだよ!! あんな連続オナラみたいなサウンド聴かされたら出て行きたくなんだろ!!」


「なんだとっ、俺の旋律で成仏したはずじゃ……!」


「してねぇわボケ!! むしろ悪霊化するわ!!」


「(もう既に悪霊の類では……?)」


 ぬいぐるみの正体は俺が住まわせてもらっている部屋にいた同居人(幽霊)だったようだ。どういうわけか、捨てられていたクマのぬいぐるみに憑依して俺のもとまで文句を言いに来たらしい。

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