第41話 凛の命乞い
俺はスイカ臭い木刀を抱えてトカゲ頭へとおそるおそる近付いていく。
奴は外にいる治安維持隊と舌戦を繰り広げている最中で、こちらに気付く様子はなかった。
「(よし……そのまま振り返るなよ……)」
いざとなればレイさんのアシストもあるし、隙さえつくってやれば治安維持隊がどうにかしてくれるはずだ。
「ん……?」
凛はトカゲ頭より先に俺の方に気付いたようだ。首だけをこちらに向け何やら神妙そうな顔を浮かべている。
俺は口許に人差し指を添えて、凛にジッとしてろとジェスチャーを送った。
「ちょ、ええ……?」
凛は俺の意図をちゃんと理解してくれると思っていたのだが……残念ながら俺が思っている以上にアレはかなり気が動転してるらしい。
「あばばば……!」
俺が木刀を構えて近付いてくたびに凛の顔がみるみる青ざめていく。
「(よぉし……やってやる!)」
木刀が届く範囲まで、近場のテーブルに身を潜めた俺はタイミングを見計らい、トカゲ頭の脳天を狙って高く木刀をあげた。
その瞬間。
「なっ、ななな!? 夏野ォ!! あっ、アンタ! いったい何する気なのよぉー!?」
しかし、あろうことか凛が急に叫び出した。
「うぇええ!?」
「げぇ! あのヤロウ、もう少しのところでバラしやがったぞ!」
予想もしなかった凛の行動にレイさんは眉をしかめていた。
「うおっ!? なんだお前! いきなり叫び出しやがって! ……あっ! お前はさっきの痔のガキじゃねぇか! なんで拘束が解けてんだ!? それにその木刀はなんだ!? それで何をするつもりだったんだ!?」
トカゲ頭はいきなり怪鳥の如く叫び出した凛に驚き、それから真後ろに立って木刀を構えている俺のことを見てまた驚いていた。
「凛!?」
俺は凛に批難の視線を送ったが、彼女の方はそれどころではなくて目をぐるぐる回していた。どうやら極度のパニック状態のようだ。
「貴様ァ……! さては良からぬことを考えていたな!?」
トカゲ頭はナイフを俺の方に向けて怒声をあげていた。
「いやぁ……ゴ◯ブリを見つけたもんで……」
「ウソつけぇ!! ここは飲食店だぞ!! 保健所案件じゃねぇか!!」
俺の咄嗟の言い訳はトカゲ頭に通用しなかった。
「貴ッ様ァ……! いま余計なことをしようとしたな? お前にはこの人質が見えないのか? こいつの命がどうなってもいいのかッ?」
「そうだそうだ! 人質の私がどうなってもいいのか! もっと丁重に扱え! 下手なことして私に危害が加わったらどうすんのよ!」
「(……どう聞いても人質が吐くセリフじゃねぇな)」
凛はなぜかトカゲ頭と一緒になって俺を批難していた。なんだか人質のクセにやたら偉そうである。
「まったく! ヘビ頭さん、あいつとんでもないヤツですよ! とっちめてやりましょうよ!」
「俺が言うのも何だけどお前はどっちの味方なんだ……?」
トカゲ頭も凛の言動には困惑せざるを得なかった。




