第38話 夏野、拘束される
間抜けな話ではあるが打楽器女こと丹波凛は捕まり、俺達も身動きが取れなくなってしまった。
「いいか! そのまま伏せていろよ! 変なことしてみろ! この女がどうなってもいいのか!?」
そんな風に辺りに吠えまくる立てこもり犯。奴は手に短剣を握って凛の首元に添えている。
「うーん、ぶっちゃけどうでもいいような……」
「日頃の行いが悪いせいだな。同情できねぇぜ」
床に伏せながら俺とレイさんはそんなドライな言葉のやり取りをしていた。
当の凛は自分の目の前にギラつくナイフを見て「あわあわ」と声を震わせていた。しまいには泡を吹いて失神でもするんじゃないかと思われるほど顔が青ざめている。
「くそ……っ、治安維持隊の奴らこんなところまで追いかけやがって……」
立てこもり犯は外套のフードを外して窓の先を見ていた。
奴の素顔は何やら爬虫類めいたもので、縦長の瞳に緑色の鱗が皮膚に覆われていた。
「おっ、あいつトカゲだ。トカゲ男。あれも魔族かな? レイさん」
「呑気なこと言ってる場合かよ。どう見てもワニだろ」
俺達はテーブルの下に身を隠しながら立てこもり犯をのことを盗み見ていた。ちなみに彼はドラゴンである。それも竜人族の。
「貴様は包囲されている! おとなしく降伏しろ!」
「うるせぇ! いまさら降伏できるか!」
「なにをぉ……貴様ぁ……本当にそんなことをしていいと思っているのか! 天国のお袋さんもきっと悲しんでいるぞ!!」
「まだ生きとるわボケェ!! ウチのオカンを勝手に殺すなや!! いまも田舎で元気に野菜育てとるわ!!」
トカゲ頭は窓の外に向かって何やら怒鳴っている。
どうやら治安維持隊とやらがトカゲ頭を追いつめていたらしい。逃げ場のなくなったトカゲ頭はバーガーショップに入り、俺達を人質にして逃げおおせようという魂胆のようだ。
「おい、店長! そいつら全員縄で縛っておけ! 余計な動きされると困るからな!」
「は、はい……!」
トカゲ男は奥に控えていたバーガーショップのスタッフに何処からか取り出した縄束を投げ渡していた。
スタッフは店内のお客さんみんなを縛りあげると、トカゲ頭にそのまま手を挙げて座るように命令されていた。
「あーあ。どうなるんだろうな俺ら……」
人質は一箇所に固められていた。
だが、唯一レイさんだけが捕縛から逃れている。彼女は見た目だけならクマのぬいぐるみなのでスルーされていたようだ。
「まいったもんだ。このままじゃいつ解放されるかわかったもんじゃねぇな」
彼女は俺の腕に背もたれながら「やれやれ」と肩を竦ませていた。
「…………」
あれ? このひとだけ無事じゃない?




