第37話 丹波凛、人質になる
「ね、夏野もこの世界に来れてよかったと思わない? あ、でもアンタって私みたいにスキル持ってないもんね。せっかく異世界に来たのに、それって酷よね。はは、かわいそー。女神も贔屓しちゃうなんてコーヘーじゃないわよね~」
凛はポテトを摘みながらそんなことを言っていた。
「まぁ、そうだな……そう、かもな」
俺はこの時、あいつの言葉に対して適当に返すことしかできなかった。
凛にとっては大事なことなのに。
「ま、この前のことは許してやるわ。ハンバーガー奢ってもらったし。ごちそーさま」
「そりゃ、どーも」
凛は満足したようだ。お腹も膨れて、話したいことを話せて。
代わりに俺の中でわだかまりのようなものが生まれてしまったが。
「それじゃあ、そろそろ行くとしようかしら。お金を持ち逃げしたアルチュウのことも探さなきゃだし、案外忙しいのよね」
凛は席を立ってリュックを手にする。
「もういいのか?」
「まぁね、あんたもやることあるんでしょ? もっと稼げるバイト探したりさ。生活がかかってるんだからダラダラ過ごすのはダメよ」
そんな風に上から目線で言いながら凛は店の出入口までスタスタと歩いて行く。
「って、わぶっ!」
彼女はよそ見しながら歩いていたせいか、新たに店に入ってきた黒いローブを着た客と正面からぶつかっていた。
「ちょっと! 危ないでしょ! ちゃんと避けてよね!」
凛は今しがた入店してきた客に偉そうに文句を言っていた。ぶつかったのは本人であるのに、あろうことかいちゃもんをつけている。
「あーあ、あいつからぶつかったのに……」
「ほんとだね、レイさん」
レイさんはそんな凛の様子を見て、呆れた風に言っていた。
「ちょっと! 聞いてんの? 女の子が前から歩いて来たら、うんたらかんたら……くどくど……!」
と、凛が未だ文句を言っていたら、そのローブの客は懐から短剣を取り出し、彼女の眼前に突きつけた。
「ひぇえ~!?」
凛は素っ頓狂な叫びをあげた。それに反応して知らんふりしていた俺とレイさんも何事か、と出入口の方を見る。
「なーつーのー!! ヘルプミー!!」
凛はローブの客に捕まり、短剣の刃先を喉元に添えられていた。
要するに人質の状況となっている。
「なんだ!?」
「おい、夏野! 打楽器女がなんか知らんがとっ捕まってんぞ!」
「打楽器女め! どさくさにサイフでも盗んだか!?」
俺は席を立って身構えた。
すると——。
「おい! テメェら! 全員その場から動くな! そのまま床に伏せていろ! さもねぇと、どうなるかわかってるよな!?」
気付けば、店の外も騒がしくなっていた。ギャラリーが集まり、警備隊のような人達が集まって何やらローブの人物に叫んでいる様子。
「これって……立てこもりじゃねぇ?」
レイさんは俺にそう伝える。
「えっ? マジで? 立てこもりなの? しかも凛が人質?」
言いながら、俺は要求通り大人しく床に伏せていた。




