第36話 主人公、丹波凛
それからしばらくモソモソとハンバーガーを食べていた凛だが、沈黙が苦痛になってきたらしく、また話をし始めたのだった。
「あ……で、でもね! 私、この異世界に来れてよかったと思うの! 前の世界なんて嫌なことばかりだったし、ここならみんな私に優しくしてくれるから!」
「凛……?」
「だって、私のお母さんは私の話は何も聞いてくれないクセに顔を見れば口うるさく勉強しろって言うし……! イジワルで嫌なヤツばかりな学校にだって行かなくてもいい! 私の話をちゃんと聞いてくれるひともいる! 女神から特別な力だってもらった!」
なんだか……少し、凛のその語り口がどこか必死で、何より自分に言い聞かせているようにも見えた。
「あの世界には私の居場所なんてなかった……! でもね、夏野。私はこの世界でようやく生きているって感じを手に入れた! 毎日が楽しくてたまらないの! だからね、私はこの世界に来れて良かったってほんとうに思う!」
「…………」
俺は嬉々として語る凛の痛ましい言葉らに何も言えずにいた。
こいつは……前の世界で散々な目に遭っていたのか?
親から相手にされず、友達もいない。学校に行けば意地悪を受け、どこにも居場所がない。
「きっと、あの女神の子が私に同情して二度目のチャンスをくれたんだと思う。あんなクソみたいな世界、ぜったい本物じゃないよ……。もし、戻れたとしても願い下げなんだから」
そう言って、凛はグラスの氷をガリガリと噛み砕いていた。
「なぁ、夏野。こいつ……思ってたよりもかわいそうなヤツだったんじゃねぇか? お前もいたっていう世界で、たったひとりだったんじゃないのか?」
「かもしれないね、レイさん」
俺とレイさんは凛に聞こえない程度の声量で言葉を交わす。
『あなたより先にあの世界に行ってるひとがいるからその人達に会えば何とかなるよ。というか、会ってもらわないと困るワケだし……二人で協力すれば問題ないと思う!』
女神のセツナが言っていたことを思い返す。
俺より先に異世界に行った存在……それがこいつだと言うのか?
俺は凛のために異世界に連れて来られた存在だと言うのか?
彼女を補助するために?
だとしたら、あの女神は始めから俺をここに連れて来るつもりなんてなかったのだろう。
すべては凛のためだ。
凛にあって、俺にはないもの……悲惨な過去とスキル。何より、主人公としての属性。
きっと、俺は主人公《丹波凛》のために、異世界に連れて来られたんだ。




