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第34話 ささやかな幸せを噛み締めて

 俺は腹ペコでどうしようもない凛を近場の飲食店まで運んだ。


 場所はバーガーショップ。そこで俺は店員さんにダブルチーズバーガーセットを頼み、凛に提供した。


 肉汁たっぷりのハンバーグにとろけるチーズが絡み旨味を引き立てる手作りハンバーガー、皿に山盛りに積まれたペッパー味のフライドポテト、そして天然搾り果汁一◯◯%のオレンジジュース。


「(く……っ、なんて美味そうなんだ。匂いだけでもヨダレが止まらねぇぞ……)」


 正直、俺が食いたくて仕方ないものだが、ここは我慢だ。


「わぁ……!」


 凛は運ばれてきたダブルチーズバーガーセットを見ると、目を輝かせていた。彼女はおそろおそる手を伸ばし、ハンバーガーを掴むと口を大きく開けて齧りついた。


「…………」


 俺は手元に残った小銭を見た。


 喫茶店の手伝いでマスターから頂いた駄賃がほとんど消えてしまったのは痛手だし、凛みたいな野蛮人にご飯を奢らなくてはならないのはかなり癪だった。


 だけど……。


「ん美味ァ……! ああ、幸せ~! ハンバーガーがこんなに美味しいものだったなんて。ねぇ、夏野。これね、すっごく美味しいわよ! こんなに美味しいもの食べたの初めてかも! うふふ!」


 凛の幸せそうな笑顔を見ると、俺はなんだかどうでもよく思えてしまった。きっとそんなことは些細なことだし、お金はまた稼げばいいのだろう。


 目の前にいる人間の無邪気で幸せそうな顔を見て、俺は貪欲だったり、小さなことにこだわるのが如何に浅ましいことなのかわかった気がした。


「そりゃ、よかったな」


 俺は水をちびちび飲みながら凛の言葉に対して、適当に相槌(あいづち)を打っておいた。


「ああ~、ほんっと生き返った気がするわ! もう腹ペコでどうしようもなかったもの!」


 凛は口元にソースを付けたままハンバーガーを頬張る。おまけに、テーブルに肘をついたままだったり、口の中にものを入れたまま、もちゃもちゃと喋ったりと、やはり行儀が良いとは言えなかった。


 素行の悪さもそうだが、凛はあまり教育が行き届いていない子供のように見える。あの時も幼い子供のように癇癪(かんしゃく)を引き起こしたし、何かしら家庭環境に難があったのだろうか。


 よっぽど空腹だったんだな、と思えるほどに凛は嬉しそうな顔をして夢中でハンバーガーに齧り付いていた。


「…………」


 俺はそんな凛の横顔を見つめながらマスターの言葉を思い出す。


『凛はさみしいヤツなんだよ』


 あれは、どういう意味だったのか。


『あいつのことちゃんと見てやって、できることなら話とかもたくさんしてやってくれ』


 今なら凛に聞けるのかもしれない。


 これは……同じ転移者である彼女のことを知るチャンスだ。

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