表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/43

第32話 丹波凛、再び

「マスター、ただいま。買い出し終わりましたよ」


「おう、ご苦労さん。生ものは冷蔵庫にしまっといてくれ」


 喫茶店に戻った頃には昼時のピークが過ぎ、店内の人が減って静かなものだった。


「それから夏野、今日はもうあがってもいいぞ。大して忙しくもねぇからな。いつも通り閉店業務はしてもらうが、それまで自由にしてな」


「あ、はい。ありがとうございます。お疲れ様です」


 俺はマスターから今日の分の駄賃を貰った。


 自由時間を迎えたので、俺はとりあえずレイさんと共に外出することにした。


 とはいっても、求人情報の変化を確認したり、山菜や川で魚釣りをしに行ったりするくらいで変わり映えのないものである。


 自然から賄えるものは調達するスタイルだ。そのために、図書館で野草に関する本を読み漁り、釣具なんかも自作した。マスターに頼めば閉店後の厨房を借りることもできる。


 少ない稼ぎでどうにか生きる方法を模索し、俺はこの世界で暮らしている。


「夏野、お前さ。いま金貯めてんだっけ? 何に使うんだ?」


「ああ、俺の服ってこのジャージ一枚しかないんだよな。だから、呉服屋で何着か同じもの仕立ててもらおうかと思っててさ。その日のうちに洗濯して着回すのだって限界あるだろ?」


「ああ、そういえば毎日レモン石鹸でゴシゴシ洗ってたなその変な服。こだわりの一着なのか?」


「当然! このジャージという服はな。普段着はもちろん、寝巻きにも運動着にもなる万能な服なんだ! コンビニ行くくらいならこの格好で出歩いても全然いいんだぜ!」


「おお……そっか。コンビニが何かはわからんが、それしか着るつもりがないってこったな。一から呉服屋に仕立ててもらう方が金かかりそうなのによ」


 レイさんはそう言って溜息を吐いていた。


 異世界に馴染んで、元の世界のことを忘れてしまうのが怖かったのかもしれない。


 俺は身に付けるものだけは変えたくなかった。それはこだわりというよりかは、安心を得るための行為にすぎないのだろう。


 レイさんを肩車し、そんな会話を交わしながら街中を歩いていると、とある人物が現れる。そいつは俺を見つけるなり騒がしく叫びながら猛然とこちらへと駆け寄って来るのだった。


「なぁーーーつぅーーーのぉーーー!!」


 デカいリュックサックを背負った黒髪セミロングの女子、丹波凛である。以前のことをまだ根に持っているのか、鬼のような形相である。


「しまった! ヤツだ! ヤツが現れやがった! レイさん、身ィ隠すぞ!」


「完全にめんどくさいヤツと出喰わした時のリアクションだな」


 俺はレイさんを小脇に抱え直すと、回れ右して走り出した。


「おい、逃げんなぁ!! こらーーっ!!」


 打楽器女は木刀を上段に構えながら、俺のことを追いかけ回すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ